ヨシダナギが語る、私財1000万円を投じさせたドラァグクイーンたちの魅力 「期待に応えるよりも、やりたいことを」

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2020年07月12日 09:01  リアルサウンド

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 なりたい自分になるために全身全霊を尽くして、堂々と美しく立つドラァグクイーンたち。ドラァグクイーンの語源は、女性の服の裾を引きずって(drag)歩く男性の姿から来たとも、“dressed as a girl”(“女性のように装う”の意。ただし正しい英語表現は“dressed like a girl”)の略語だとも言われる。


関連:ヨシダナギ最新作品集『DRAG QUEEN -No Light, No Queen-』


 アフリカに憧れ、アフリカを中心に世界各地の少数民族を撮り続けてきた写真家のヨシダナギが次の被写体に選んだのは、ゴージャスなドレスに身を包むドラァグクイーンたちだった。2020年5月に刊行された写真集『DRAG QUEEN -No Light, No Queen-』は、ニューヨークとパリで活動する18人のドラァグクイーンの写真のほかに、彼女たちの「生の声」を収録した60分ものインタビュー動画が特典として収録されている。


 この写真集の撮影にかかった1000万円超の費用は、そのほとんどがヨシダの持ち出しだ。ドラァグクイーンたちのなにが、ヨシダをそこまで突き動かしたのだろうか。(六原ちず)


■少数民族の次にドラァグクイーンに惹かれた理由


――今回、ドラァグクイーンをモデルにして写真を撮ろうとしたのはなぜですか?


ヨシダ:カメラマンになって今年で5年目なのですが、3年前くらいから周囲の人たちや写真展に来てくれるファンの方から、「ヨシダさんの少数民族以外の写真が見てみたい」と言われるようになりました。もちろんありがたいことなんですけど、私は写真家になりたくてなったというよりも少数民族という“会いたい人”に会えるからという動機で写真を撮るようになったので、少数民族以外のモチーフで新しい作品を期待されるのがプレッシャーにもなっていました。そういった不安でモヤモヤしていた時に、ふと6年くらい前に観た、3人のドラァグクイーンが旅をする『プリシラ』(‘94年、オーストラリア)という映画を思い出したんです。それで、「あの人たちだったら私会ってみたい、撮影してみたいな」って思うことができた。映画の中のドラァグクイーンたちの立ち姿が、すごく魅力的だったんです。撮影している最中に気が付いたのですが、その魅力は、私が少数民族に感じたカッコよさと通ずるものでした。


――それまで、ドラァグクイーンについて、どんなイメージを持っていましたか?


ヨシダ:最初は、ドラァグクイーンについて、「男性性の人が女装する」くらいの知識しかなくて、ゲイなのかトランスジェンダーなのかというのも、まったくわからない状態。彼女たちの歴史も知らなかったので、マネージャーのキミノと一緒にドラァグクイーンの歴史などはネットなどで調べました。でも、いろいろ調べてみても、自分の中でドラァグクイーンっていったいどんなひとたちなのかという答えが出なかった。うわべだけの感触しか掴めなかった。少数民族の撮影の時も、調べたものが現地ではまったく違ったということが往々にしてあったので、逆に「こうであってほしい」というような変な先入観を持たないように気をつけるようにしました。そして、撮影する時にドラァグクイーンたちが実際にどんな人たちなのかを“教えてください”という気持ちで行くことにしたんです。


――今回の写真集では、ニューヨークとパリのドラァグクイーンを撮影していますが、なぜこの2都市に?


ヨシダ:ドラァグクイーン文化がいちばん盛り上がっているのは、やっぱりアメリカのニューヨークじゃないかというイメージがあり、選びました。もちろん、いろいろな姿のドラァグクイーンがいたのですが、どちらかというと、私がもともと想像していたドラァグクイーンと近かった。一方のパリは、キャバレー文化からも影響を受けているためか、ミュージカルの『キャッツ』みたいな雰囲気の、ほかの国とはまったく違うメイクのドラァグクイーンが多い。なので、この2都市で撮影することができれば、より多面的なドラァグクイーン文化を見せることができるのではと思いました。


――どうやって撮影するドラァグクイーンの方々を見つけたんですか?


ヨシダ:インスタグラムで探しました。アメリカだけで60人くらいはリストアップしたと思います。だけど、実際に撮影できたなかに、最初のリストアップから入っていた人はほぼいません。やっぱり撮影条件だったり、スケジュールだったり、ギャラの金額だったりと、それらの条件が合う人がなかなかいなくて。最初は条件の落とし所もわからなかったので、すっごく有名なドラァグクイーンにアタックしちゃったりもして……難航しました。結局、現地のコーディネーターがドラァグクイーンの集まるパーティーに行ってスカウトしてくれたり、撮影を許可してくれたドラァグクイーンから別のドラァグクイーンを紹介してもらったりが多かったですね。


■ドラァグクイーンたちの「ドラマ」と「イリュージョン」


――今まで被写体として撮ってきた少数民族と違い、ドラァグクイーンたちはパフォーマンスのプロ。実際に撮影してみてどうでしたか?


ヨシダ:ドラァグクイーンたちとの撮影では「ドラマ」や「イリュージョン」という言葉がよく出てきました。あるクイーンは「私はあなたのフレームをドラマで溢れさせたいの!」と、撮影の時にすごく小物を使いたがるんですね。たとえば、タバコを持ってきて、「ほら、これでドラマが生まれるでしょ」とにっこり。そしてたしかに、その小物がひとつ加わることで、同じ構図なのに想像できるドラマがたくさん増えるんです。「イリュージョン」という言葉からは、「なりたいものになれるのがドラァグクイーン」ととらえている彼女たちの、変身する、自分をさらに進化させるという意志を感じました。


 普段、魅せることが仕事のドラァグクイーンたちは、「私はこのポーズ!」というものが決まっている人も多かったので、「撮らされている」という感じでカメラマンが誰だとしても、同じ写真が撮れるんじゃないかというくらい、すでに完成されていた。だけど、だからこそ、私はより美しく見える写真を撮らなきゃいけないと思いました。これは、少数民族の方々を撮影する時も同じですが、写真を観る人はモデルになってくれた方と実際に会うわけではないので、私が撮る写真一枚がモデルについての印象のすべてになってしまう。そう思えばこそ、私の好きな彼女ら彼らの120パーセント、150パーセントの魅力を引き出したいんです。撮影現場では、自分の美しさを知っているドラァグクイーンでも、まだ知らないような、角度や表情を探し続けました。


■フォトグラファーとしては異例の動画特典


――今回は、写真集に動画が特典として付いていますね。これはなぜでしょう。


ヨシダ:自分がTBSテレビの『クレイジージャーニー』に少数民族の方々と出演して思ったのが、写真だけを見るよりも、動画があってモデルのバックグラウンドをわかったうえで改めて写真を見たほうが、人間という存在の重さが感じられて、対象に対してより知ろう、より愛おしいと思うような気がしたんですね。少数民族を撮影している時から、「立ち姿が美しい人にはドラマがある」という考えを持っているので、ドラァグクイーンからすごく有意義な話が聞ける直感があった。そして、その話を知れば、励まされる人や生き方のヒントを見出す人がきっといる。フォトグラファーとしては禁じ手かもしれませんが、私にとっては、なによりも被写体の魅力を伝えるというのが第一。だから、動画をつけようと思ったんです。


――動画インタビューでは、どんなことに気を配っていましたか?


ヨシダ:嘘をつかず、全員に対して同じことを同じように聞くことを心がけました。相手が誰だからといって、特別視をせず、フラットな目線で話を聞くことを徹底したんです。「ドラァグクイーンってなあに?」とか「どうしてなったの?」とか、すごく初歩的な質問をしたので、ドラァグクイーンたちは今までうんざりするくらい聞かれてきたことなんじゃないかと不安でしたが、むしろ「こんなことまで聞いてくれるの!?」「上っ面じゃなくて、自分のパーソナルな部分を聞いてくれたこと、目を向けてもらえたことがうれしかった」という反応が多かった。今回は少数民族と過ごしたような長い時間を彼女たちと過ごせなかったので不安だったのですが、私がどうしてドラァグクイーンを撮りたいと思ったのかが彼女たちに伝わったのかなと感じました。


――実際にインタビューしてみてどうでしたか?


ヨシダ:いろいろなドラァグクイーンがいました。ニューヨークに関してはやっぱり移民の方も多いので、12歳から故郷のコロンビアを飛び出して、南米を転々と旅して、今ようやく憧れのニューヨークに来て数年目みたいな方もいた。パリはドラァグクイーンだけで生計を立てる人は少なくて、たまたまショーを見て「これなら私もできそう!」とドラァグクイーンを始めた……みたいなパターンも多い。でも、そのなかでも、もともとアフリカに住んでいてパリに渡り、今戦っている、と話すクイーンもいました。


 なぜドラァグクイーンをやっているのかという問いに対しては、自己表現だったり社会的なジェンダーに対しての反骨精神だったり、美の追求だったりとさまざまな理由があります。なかには、女性の強さや美しさをすごく評価していて、女性性に対しての賛美をドラァグクイーンで表現しているという方も。でも、「なりたい自分になりたい」という強い思いは、全員から感じることができました。


■1000万円を越える私費を投じる覚悟はクイーンたちから


――今回の撮影は、ほとんどヨシダさんが私費を投じたそうですが……。


ヨシダ:最初は渡航費を2カ国で300万円くらいに抑えたいと思ってたのですが、ニューヨークだけですでに予算オーバー。しかも今回は動画撮影のチームがいて、その編集費もかかりますし、現地のロケーション代も予想以上に高かった。「もう撮影を諦めて帰る」という選択肢が頭にちらつくまで、追いつめられたこともありました。そこで背中を押してくれたのが、ドラァグクイーンたち。


 ひとりひとりが個性的で、インタビューの短い時間ながら、彼女たちが歩んできた道について教えてもらっていたら、すごく励まされて癒やされた。あのインタビューがなかったら、中途半端なところで撮影を切り上げたり、動画を少し短くして編集費を安く抑えようとしたりしてしまったかもしれません。「どうにでもなれ!」ではないですが、あんまり考えないようにしようとお金を使ってたら、気づいたら1000万円を超えちゃってました。


――ドラァグクイーンたちのどんなところに励まされたのですか?


ヨシダ:もともと少数民族ばかり追いかけていた自分のようなカメラマンが、ドラァグクイーンの世界を熟知している訳でもないのに、突然彼女たちを「かっこいい!」と思って飛び込んできたんだから、当人たちにはとくによく思われないんじゃないかという不安がありました。でも実際に彼女たちと接してみたら、私の心配なんてちっちゃなことなんだなってくらい、器というかすべてがでかい人たちだった。それに、少数民族以外を撮影することも、やっぱり自分のなかですごく不安だったんですね。周囲の人たちやファンの人を裏切るんじゃないかと、期待に応えられないことを心配していました。でも、ドラァグクイーンと共に過ごしているうちに、彼女たちの生きざまをインタビューで聞いているうちに「私は私でいいんだ」と思えるようになった。


 今もみんなからの期待に応えたいという気持ちはあるけれど、なによりも私自身がやりたいこと、私がつくりたいものを発表することがまず大事だと感じるように変化したんです。なにより、彼女たちに対して、自分のベストの作品を世に出したいという思いが生まれました。


――写真集ができてからの、彼女たちの反応は?


ヨシダ:作品集ができたので、郵送するねって、私からSNSを通じて全員に連絡したのですが、まるで田舎のお母ちゃんからの手紙のような目がしらの熱くなるメッセージが返ってきました。少数民族の人々はインターネットを使っていないことが多いので、現地に直接行かないと感想が聞けないので、ドラァグクイーンから「あなたのセレクト、超いけてるんだけど」とか「作品のタイトルが私にすごくピッタリ!」みたいな喜びの声がすぐに返ってくるのは新鮮でした。


 あるドラァグクイーンはテンション高く「はー、もう素敵! はー、もう素敵!」と連呼するボイスメッセージを送ってくれた。仕上がりを気に入ってなければ喜んでくれないと思うので、送った写真をすぐにSNSにあげてくれたりするのを見ると、気に入ってくれたのかなと感じて、私も「あー、よかった!」って。彼女たちが気に入って喜んでくれたんだったら、それ以上のものはありません。


 今はコロナの影響で海外に行けませんが、ずっと撮影をしていなくて写真を撮りたいという気持ちが高まっている。この思いを維持して行けば、次の作品はさらに良くなるんじゃないかなと期待しています。


(文・取材=六原ちず/撮影:鷲尾太郎)


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