ドラムメーカーが作った「コロナ対策商品」が異例のヒットに 担当者が語った楽器メーカーとしての“挑戦”

3

2020年07月13日 17:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真パール社が開発したペダル式消毒液スタンド(写真提供/パール社)
パール社が開発したペダル式消毒液スタンド(写真提供/パール社)
 まさに発想の転換だった。ドラム製造を主とする楽器メーカーが「消毒液スタンド」を製品化したところ、異例のヒット商品となった。なぜドラムメーカーが消毒液? 担当者が制作秘話を語った。

【写真】このドラム機材が「消毒液スタンド」に変貌した!

*  *  *
 その会社は千葉県八千代市に本社を置く「パール楽器製造」。

「Pearl」ブランドで知られるドラムセットは世界の名だたるドラマーが愛用している。そのパール社が開発した「ペダル式消毒液スタンド」は、足でペダルを踏むことでボトルに触れることなく消毒液を出すことができる商品だ。本来はペダルを踏んでシンバルを鳴らす「ハイハット」と呼ばれるスタンドを改良し、独自の消毒液スタンドに様変わりさせた。

「苦境にある音楽業界に貢献したいという思いで作った商品でしたが、まさかここまでの反響があるとは予想外でした」

 パール楽器製造企画課長の大友正彦さんはこう話す。6月1日に限定生産で予約を受け付けたが、申し込みが殺到。同月4日には「継続販売」を決め、通常の生産、販売体制に軌道修正した。

 大友さんがこの商品の着想を得たのは、5月中旬。ある楽器店がハイハットを改造して消毒液のスタンドとして活用している様子をSNSにアップしていた。楽器店では、客が実際に楽器を触って質感を確かめたり、試奏したりすることが欠かせない。そのため、手の消毒は客、従業員ともに徹底する必要がある。さらに、SNSでは消毒液のポンプ部分を手で触ることに抵抗があると多くの人が不満の声を上げていた。

「専門メーカーである我々の技術が社会の役に立てるかもしれない」

 大友さんはそう考え、役員も出席する企画会議に提案すると、すぐにゴーサインが出た。当時はまだ緊急事態宣言が発令中で、自粛解除は6月1日とみられていた。それまでの商品化を目指し、短期間で設計から部品の加工、調整まで急ピッチで進めた。

 消毒液のボトルをプッシュする部分は棒状ではなくプレートにしたほうがいいのではないか、さまざまな形状の消毒液ボトルに対応するには可動域はどこまで広げるべきか、ペダルを踏み込んだ強さによって消毒液が出過ぎないようにするにはどうすればいいか。解決すべき課題は山積みだったという。

「他部署のメンバーも交えて議論し、トライ&エラーを繰り返したことで、なんとか期日までに完成できました。何百回もペダルを踏んで消毒液の出方を試したのはいい思い出です」

 正式に商品化が発表されると、Pearl製のドラムを使用しているモニターアーティストからもSNSで「これはいい」と称賛する声が続出。音楽ファンを中心にクチコミで商品が広まり、ヒットへとつながった。

 実際の商品に触れてみると、ヒットした理由がわかる。そもそもが楽器だけあってペダルの踏み心地がよく、安定性が感じられるのは当然のこと、軽くて持ち運びができることが一番のメリットだろう。足で踏む形の消毒液スタンドは他にもあるが、重い設置式がほとんどで固定の場所から動かせない。その点、この商品は脚部分を折りたたむことができて、どこでも移動できる。三脚部分が回転するので狭いスペースでも置き位置の調整が可能になっている。さらに、スタンド部分を180度回転させることもできるので、対面式で使用することもできる。これにより、コンサート会場などではスタッフがペダルを踏み、客が消毒を受けるという使い方も可能になる。

 プッシュ部分にあたるプレートも上下左右にスライドできるので、ペダルを思いっきり踏んでしまってもちょうどいい量の消毒液しかでないように設定できる。細かい部分に配慮が行きわたっているので、とても使い勝手がいいのだ。

 価格は1万5千円(税抜き)。これを安いとみるか、高いと思うかは人それぞれだろうが、元は楽器と考えると決して高くはない。

「そもそも、この商品開発は私たちの技術を使って社会貢献ができないかというところからスタートさせたものです。コロナでもうけようという姿勢とは正反対のコンセプトなので、会社としては収益的な事業とは考えていません。この製品がコロナ感染予防につながり、皆さまに一日でも早く心から音楽を楽しめる日が来ることを望んでいます」(大友さん)

 6月からの先行予約期間中は、病院やホテル、アミューズメント施設などさまざまな業界から問い合わせがあったという。7月13日から全国一斉発売がスタートしているが、すべて楽器店を通しての販売に限定している。

「私たちは楽器メーカーですから、やはり楽器店の支援を通して、音楽業界ひいては日本社会を元気にしていきたいと思っています」(大友さん)

 いまだ先行きが見えない音楽業界だが、コロナ禍で楽器メーカーが起こした“イノベーション”が、一筋の希望となったことは間違いないだろう。(取材・文=AERAdot.編集部・作田裕史)

このニュースに関するつぶやき

  • ドラムはTAMA派だけど、Pearlさんやりますねえ。プロのドラマーさんがつい本気でやってうっかりビショビショになってたら可愛い(贔屓様で妄想←←←
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

あなたにおすすめ

ニュース設定