韓国大手配信サービス Melon、リアルタイムチャート廃止 ファンによる過剰な“スミン”行為の影響を解説

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2020年07月14日 06:01  リアルサウンド

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リアルサウンド編集部

 韓国の大手配信サービス・Melonが、1時間単位で集計するリアルタイムチャートを廃止。集計を24時間に変更する。この背景にはアイドルファンを中心に行われている過剰な“スミン”=ストリーミング行為の影響もあるようだ。そこでK-POPアーティストなどに詳しいDJ泡沫氏に詳しい事情を聞いた。


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 そもそも、Melonは韓国でどのような存在なのだろうか。


「Melonはカカオトークなどを提供するカカオが運営しています。二番手の配信サービス・genieもそうなんですが、元々はSKテレコムという日本で言うとドコモやauといった通信キャリアの系列会社と共同運営だったので、スマホを契約した人が安く入れたり、カカオトークの決済を利用すると安くなるセットプランがありました。正価でストリーミングのみならプランによって700円〜1200円位で聴き放題ですが、さらに30〜50%オフサービスなどがあり、スマホを買った時にプランが安かったからそのまま入る、というケースからMelonは加入者が多かったようです。以前は60%くらいシェアがあったのですが、今は他のサービスも増えてきたので40%くらいです。2位のgenieが25%なので、まだMelonが最大手ですね。SpotifyよりはどちらかというとApple Musicに近いと思います。韓国でもSpotifyのようにそれぞれのユーザーの好みに合わせておすすめが出てくるような『FLO』『VIBE』などの音楽サービスが出てきました。Melonもリアルタイムチャートを廃止するのに加えて、そういったサービスを取り入れていくようです」


 Melonがリアルタイムチャート廃止に踏み切った理由の一つである“スミン”はどのような行為なのか、そしてそれによってチャートはどのような影響を受けるのだろうか。


「“スミン”は、ストリーミング数を上げたい曲を再生し続ける行為です。同じ曲を何曲も入れたプレイリストを作って家でも外でも24時間再生しっぱなしにしたりする。PCとスマホ、両方持っている人も多いので、いくつかのデバイスで再生するというのが一般的なようです。24時間リアルタイムチャートは1時間ごとに更新されるので、昼間、多くの人が起きている時間帯はアイドル以外のリスナーも曲を聴くためにアイドルの曲の順位は下がりがちです。以前は多くの人が寝ている夜10時ごろから朝8時くらいまでの時間帯もリアルタイムチャートが出ていましたから、その時間帯にスミンすれば1位を取りやすいんです。自分たちも寝ていますが、その時間帯に積極的に空回しすることで順位が上がる、深夜だけど“1位”が取れるという考え方ですね。Melonでチャートの推移を示したグラフが見られるのですが、アイドル以外の曲は昼間上がって夜下がる、スミンされている曲は逆で昼間は平坦で、夜になると上がる。だから以前から、ファンがスミンしているからこういうグラフになるとか、スミンされている割合が多い曲なのかどうかというのはある程度知られていました。ファンとしてはとにかく“チャート1位”という冠が欲しいんです。でもそれでは必ずしも本当に聴かれている曲ではない、ということで前々からリアルタイムチャートをなくしてほしいという一般ユーザーからの声はありました。


 日本ではオリコンやビルボードで年間チャートが出ていますが、韓国だとスミンによってそういう記録が乱されてしまう。もちろん、たくさんファンがついているアイドルも記録されるべきですが、それはアルバムチャートなどでもわかることです。音源ポータルにとってはたくさん聴かれることは重要なので、リアルタイムチャートをなくすとアイドルファンの利用が減ってしまうかもしれない。そこで苦肉の策として、2018年の7月11日以降深夜1時から朝7時まではリアルタイムチャートを出さないと決まったんです」


 Melonにはリスナー数が表示されるデイリーチャートと、再生回数によるリアルタイムチャートがあるが、スミンが多い曲では2つのチャートの間に“ねじれ現象”も生まれていたという。そんな中、新たに「音源買い占め問題」も浮上した。


「世間的にもあまり知られていない曲が急にチャート上位に入ってきたんです。2018年初頭にチャンドクチョルという男性グループが急にヒットしたのですが、それはFacebookの口コミでヒットしたのではないかということであまり問題視されなかった。しかし数カ月後、同じ事務所の所属歌手・Niloが同じように1位になったときは、同時期にEXO−CBXやWanna One 、TWICEなども曲を出していたのに1位を取れなかったり、ファンダムが大きいタイプの歌手ではないのにチャート上昇の仕方がスミンタイプに似ていたことで『アカウントをたくさん取得して曲を再生しているのでは』と怪しむ意見がありました。公式的には否定され、結局うやむやに。スミンの問題があってチャートに対する信頼が無くなっていたところ、より疑惑を深めることになったと思います。結局、リアルタイムチャートがあることによって揉めることが多くなってしまった。それもあって、Melonも今後は24時間単位でストリーミング40%、ダウンロード60%で合算して順位を出すことにしたようです。これによって、スミンをしているファンにとっては1位を取れるチャンスが1日1回だけになってしまいました。スミン自体をなくすことは難しいので1日1回にしたり、ダウンロードとストリーミングの割合を調整するしかないということでしょう」


 様々な手段で対策を打とうとしているものの、配信サイトとユーザーとのいたちごっこになっているのが現状のようだ。


「1回ダウンロードして、消して、またダウンロードし直すという“ダウンロードスミン”もあります。これは特に欧米圏などで流行っていて、K-POPアーティストがよくiTunesで1位をとっているのを見かけると思います。ストリーミングがメインのアメリカではダウンロードを使う人が急速に減っており、CDと同じくダウンロードして聴くのはファンダムがメイン。だから、ファンダムが大きいグループがチャートで1位をとりやすい。特にアメリカのファンが目をつけたもので、何かあるたびにダウンロードスミンをして1位を狙うファン活動が定着した様です。無料でも視聴できるSpotifyやYouTubeは特に海外のK-POPファンの間でスミンの温床になっているみたいですね」


 ファンの“チャート1位”への熱い思いは決して否定できないが、それが時に不正へと繋がる例もある。好きな音楽やアイドルに真摯に向き合う姿勢を忘れずにいたい。(村上夏菜)


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