王者との決戦で「自分に腹が立った」西田有志。悲願達成後の涙の理由

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2020年07月14日 11:12  webスポルティーバ

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スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE
 (11)

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 現在のバレーボール男子代表で、大きな期待と注目を集めている20歳の西田有志。そのバレー人生を辿る連載の第11回は、W杯で大ブレイクした後に迎えた、V.LEAGUEでの戦いを振り返る。

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 2019年10月26日に開幕した「V.LEAGUE Division1男子」。日本代表がW杯で28年ぶりの4位という好成績を残したこともあり、柳田将洋、山内晶大、高橋健太郎、石川祐希が人気になった「NEXT4」を彷彿とさせる男子バレーブームが起こっていた。

 特に「ベストサーバー」と「ベストオポジット」を受賞した19歳の西田は大きな注目を集めた。所属するジェイテクトSTINGSの試合のチケットは、発売開始と同時に完売する事態が続出。リーグが始まると、会場で販売された西田のグッズはすぐに売り切れ、等身大パネルが置かれた写真撮影のコーナーにもファンが行列を作った。

 西田はW杯終了後、欧州のリーグでプレーする柳田(今シーズンはサントリーサンバーズでプレー)と石川(アリアンツ・パワーバレー・ミラノ)に「日本のバレー人気をアップさせる役割はお前に任せた」と言われたそうで、「責任を感じました」と話していた。それが重圧になりそうなところだが、西田はエースとしてその”責任”を果たし、ジェイテクトは開幕から無敗で突き進んだ。

 前シーズンに比べてチームの戦力もかなりアップしていた。元ブルガリア代表の”優勝請負人”マテイ・カジースキ、前年度にフランスリーグで優勝を経験したリベロの本間隆太がチームに復帰。さらに「アジア枠」で中国代表の210cmの饒書涵(ラオ・シュハン)、東レアローズからは207cmの伏見大和がミドルブロッカーとして加入し、攻守で相手を圧倒する試合が増えていた。

 悲願であるチーム初の優勝へ。乗り越えなければいけない最大の壁は、リーグ3連覇を狙うパナソニックパンサーズだった。

 その王者とのレギュラーラウンド1試合目は、1レグ最後のホームゲーム(11月23日)。ジェイテクト本社から大応援団が駆けつけ、会場は超満員になったが、ジェイテクトはパナソニックに0−3のストレートで完敗した。

 西田が「パナソニックさんが上手だった」と振り返ったように、パナソニックは日本代表の清水邦広と久原翼、ポーランド代表のミハウ・クビアクがバランスよく得点していった。一方でジェイテクトの攻撃は封じられ、西田も得意のサーブで8つのミスを犯すなど波に乗れなかった。

 ジェイテクトは、2016−17シーズンの「ファイナル6」以降、公式戦でパナソニックに一度も勝てていなかった。しかも内容で圧倒される試合が多かったため、「今年もパナソニックには勝てないのか……」と感じたファンも多いだろう。

 しかし年が明けての2試合目、ジェイテクトの高橋慎治監督は「対パナソニックさんの切り札として考えていた」という、ベテランの金丸晃大をミドルブロッカーでスタメン起用。金丸は高橋監督が「横移動が早く、完成するのも早い」と高く評価するブロックでパナソニックの攻撃のリズムを崩した。

 2セットを先取して迎えた第3セットは、パナソニックを14得点に抑え、”天敵”相手に圧勝。エースの西田も、3セットで終了した試合にも関わらず30得点を記録。試合後には「今日は相手の動きがよく見えた」と振り返った。

「(パナソニックの)レシーブが深かったので、プッシュなどいろんな形で点を取ることができました。ブロックもよく見えて、最初はクロスを締めてきたので(スパイクを)ストレートに。ブロックが動くようになってからは、それに対応してコースを打ち分けました」

 そう冷静に分析した後で、西田は「パナソニックさんにも勝てるんやな」と笑顔を見せた。

 しかし王者も黙ってはいない。ファイナルステージでの戦いも見据えた2月8日の3試合目は、ブロックで力の差を見せてストレート勝ち。首位決戦を制したパナソニックは翌日の試合にも勝利し、レギュラーラウンド1位抜けを決めた。

 一方のジェイテクトは2位でファイナルに進出。2019−20シーズンで採用された変則的なトーナメントで、準決勝から戦うことになった。ジェイテクトはそこまで勝ち進んできたサントリーを下し、決勝で待ち構えていたパナソニックとの最終決戦に臨んだ。

 その試合は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で無観客になることが決まった。一時は「中止」というニュースも流れたが、そうなればリーグの規定により、レギュラーラウンドで順位が高かったパナソニックが優勝となっていた。のちに西田は、「試合がなくなったらその時点で(ジェイテクトは)2位だった。いろいろな困難を乗り越えて、試合を開催していただいたことに感謝しています」と振り返っている。

 2月29日、観客席に両チームのフラッグが敷き詰められた中で試合がスタート。パナソニックは、西田、カジースキというジェイテクト両エースのサーブで失点することを避ける策が奏功し、一度もリードを許さずに第1セットを先取した。

 しかしジェイテクトは、スタメンで起用した”パナソニックキラー”金丸の活躍などで第2セットを取り返す。続く第3セットは終盤までパナソニックにリードされたままだったが、苦しい場面で西田がサービスエースを決めるなど逆転し、ジェイテクトが王手をかけた。

 第4セットも先にマッチポイントを迎えたのはジェイテクトだった。だが、西田がブロックでシャットアウトされるなど、2度のチャンスを決めきれず逆転を許し、フルセットに持ち込まれた。

 そのセットを落とした後の西田は、「めちゃくちゃ自分に腹が立っていました」と頭に血が上っていたという。第5セットにも影響が出かねないと判断した主将の本間隆太は、若きエースをなだめようと声をかけ続けた。試合後に「それでなんとか落ち着きを取り戻したようです」と本間が話したように、西田はセット間に冷静になることができた。

 最終第5セットは序盤からジェイテクトが走り、途中1点差まで詰め寄られたものの、セッターの中根聡太が攻撃陣を使いこなして追撃を許さなかった。西田も2連続でスパイクを決めるなど突き放し、最後は伏見のサービスエースで終止符が打たれた。

 チーム創設以来、ずっと手が届かなかった優勝。その悲願達成に大きく貢献した西田は、レギュラーラウンド終了時に確定していた「総得点」と「サーブ効果率」のタイトルに加え、MVPも獲得した。

 決勝が終わった後の整列で、西田は珍しく人目をはばからずに大粒の涙を流した。試合後の会見でその涙の理由を問われると、その時の心情を次のように話した。

「僕が”日本一”になれたのは、これまでの人生で初めて。素直にうれしいです。また、『このチームで勝ちたい。勝たなきゃいけない』と思っていたので、勝った瞬間にホッとして、涙が出たのかもしれません」

 さらに、取材陣から家族へのメッセージを問われると、「いつも、会場まで試合に来てくれた。特に父の声は響いてくるのでわかるんですけど、それ以外でもいろんなメッセージをしてくれたりしたので、『支えてくれてありがとう』と言いたいです」と、少しはにかみながら答えた。

 両親に連れられて、生後5カ月から体育館にいた西田。姉や兄の後を追うようにバレーボールを始め、強者に勝つために努力を重ねて成長してきた。時には挫折も経験しながら、それに屈することなく力に変え、20歳にして日本一に上り詰めた。

 もちろん挑戦が終わったわけではない。来夏に予定されている東京五輪、さらにその先へ――。がむしゃらに、しかし着実に進化を遂げてきた西田は、さらなる”頂点の景色”を目指して翔び続ける。

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