『姫様”拷問”の時間です』は夜中に読んではいけないーー物騒なタイトルとは裏腹の“やさしい世界”に癒される

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2020年07月15日 10:12  リアルサウンド

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 次にくるマンガ大賞2020ノミネート作品『姫様”拷問”の時間です』。主人公は王女にして国王軍第三騎士団”騎士団長”。彼女は魔王軍に囚われの身で、“拷問”に屈すると国王軍の秘密を話さなければいけない。数々の死戦を潜り抜けてきた姫様にとって拷問などとるに足らない……はずだったのだが。


関連:【画像】『姫様”拷問”の時間です』2巻の書影


 物騒なタイトルからかけ離れた、美味しそうなB級グルメやもふもふの動物を見せつけるという斜め上をいく”拷問”に、姫様は耐えることができない。美味しいご飯や楽しい遊びに、むしろ癒されていく姫様を延々見せられるこのマンガを、どう形容したらいいのだろう。厳しいことを言われると見せかけてやさしい世界であるとわかる構図は、昨年のM-1グランプリで3位に輝いたお笑いコンビ・ぺこぱの漫才のようだ。


 あんパンの上で溶けるバター、小籠包の皮を破ると溢れ出てくる肉汁、炙られてトロトロになったマシュマロ。それ絶対美味しいじゃん!と言いたくなるB級グルメがどんどん出てくる。決して夜中に読んではいけない。財布を持ってコンビニに走ってはいけない。どうしても夜に読みたくなったら、姫様のように自分の身体を括りつけておいた方がいい。それくらい飯テロの度合いがやばいマンガなのだ。


 「拷問25」では、海外ドラマの続きをお預けされてしまい、尚且つネタバレっぽい単語を聞かされて悶絶する姫様が見られる。「脳が勝手に単語から推理を始める! 私の頭の中のシャーロックがホームズする!」続きを楽しみにしていた作品を途中で取り上げられる。恐ろしい拷問だ。


 「拷問28」では、拷問に対抗するために目を瞑るがカレーの匂いに誘惑されてしまい、嗅覚をシャットアウトしようとして鼻をつまむとカツを切る音に今度は聴覚がもっていかれる。私たちが如何に普段から料理を五感で楽しんでいるかがわかる描写だ。


〈カレーはそのニオイだけで…人の気分をカレーにできるので〉


 もちろん、この話を読んだあとは私の気分もカレーになった。


 「拷問30」では鉄板の上に乗った熱々のハンバーグが出てくる。ソースをかけると鉄板の上でソースが弾ける。ナイフで半分に割るとチーズがとろりと溶け出してくる。チーズインハンバーグが嫌いな人間なんていない。ずるい。ガストに行きたい。


 王国に伝わる意思を持つ聖剣エクスは、姫様が多くの“拷問”に晒されるたびにその都度突っ込むのだが、彼の声もツッコミとして機能しているというよりは、バラエティ番組でボケた出演者に対して出るテロップのような役割だ。読者もエクスとともに突っ込みながら読んでしまう。そしてお腹が空く。


 読むときに気を張らなくていい、何も考えなくていい、やさしい世界。綺麗な絵柄で振り切ったギャグを展開する漫画といえばにざかな著『B.B.JOKER』を彷彿とさせるが、あちらよりも今作はかなり毒の成分が少なめだ。ギャグマンガの概念が令和になって確実にアップデートされているのを感じる。毒がないと笑いにならない、という考えはもう古い。癒しを提供しながら笑いを生み出す。癒されながらも笑えるという新しい価値観に、だんだんと体が馴染んでいく。


 「拷問24」ではサウナと水風呂の交互浴にハマり、骨抜きにされてしまう姫様が描かれる。サウナと水風呂に交互に入ると身体の芯からぽかぽかしてくるのだ。「サウナは気持ちいい! 以上だよ!」何の衒いもなくサウナを勧められ、今週末は整いに行ってこようかという気分がじわじわ体の中を侵食していく。


 実生活に疲れたら、拷問されに行こう。やさしい世界が、私たちには必要なのだ。


(文=ふじこ)


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