ネットワークビジネスの仲間を断ち切れない母――「怒りが湧く。自宅に来るのが怖い」介護する娘の心労

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2020年07月26日 21:22  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 中村万里江さん(仮名・35)の父博之さん(仮名)は2016年、64歳のときにクモ膜下出血で高次脳機能障害を発症。母の晃子さん(仮名・当時64)と協力して介護をしていた。ところが2019年、晃子さんにステージ4のがんが見つかる。晃子さんの闘病のため、博之さんは有料老人ホームで暮らすことになった。

 今年に入って、主治医から「終末期に入っている」と告げられた晃子さんと博之さんの今後の金銭管理のことを考え、資産を調べていた中村さんは、晃子さんの通帳から多額のお金がネットワークビジネス運営会社に振り込まれているのを見つける。しかも、同じ会社が関係する瞑想グループにも入り、その仲間が精神的な支えとなっていたのだ。次々と襲う家族の問題に冷静に対処してきた中村さんも、さすがに大きなショックを受ける。

(前回はこちら:「母がネットワークビジネスにハマっていた」がん終末期に明らかになった、“常軌を逸した”投資金額

ネットワークビジネスをやめさせなければ

 晃子さんへの憤りも大きかったが、そのネットワークビジネス運営会社や瞑想グループの仲間への不信感が募った。中村さんは、その会社についてだけでなく、晃子さんが保管していたあらゆる書類を調べるとともに、消費生活センターや行政にネットワークビジネスをやめさせる方法を相談するなど、手を尽くした。

「書類を調べると、私の名前を使って商品を購入したり、父の名前でエージェント契約をしたりしていたことが判明しました。また健康食品や美容商品の売り上げを上げるために、自分でもたくさん購入して莫大な在庫を抱えていることもわかりました。でも、母の行動を頭ごなしに否定したら、もう私には何も話してくれなくなるでしょう。それでは事態はさらに悪くなるだけ。本人がやめたいと思わない限り、私がやめさせることはできないんです」

 ともかく、「これ以上大金を使うことはやめさせないといけない」と中村さんは強い危機感を持った。幸か不幸か、これについては、体調が悪化した晃子さんが、キャッシュカードを中村さんに預けてくれたことで食い止めることができそうだった。

 もうひとつの問題は、しょっちゅう晃子さんのもとにやってくる“仲間”だ。

「花を持ってきてくれたりして、外面は優しいんですよ。母はすっかり心を許しています。どんな会話をしているのか調べようと思って、仲間との話をかげで聞いてみたりもしました。どんな状況かはわかりませんでしたが、母のタブレットを借りて、何かの証拠を隠滅しようとしていたんです。また、振り込んでいるのは何の代金か母に聞いたら、『私にはわからないから、Aさんに聞いて』と言うので、その仲間Aさんに確認したところ、『私にもわからないので、ほかの人に聞いておきますね』と言ってはぐらかされました。あとで母のスマホを見ると、『娘さんの意見を聞くのはいいけど、最終的に決めるのはあなたよ』などとメッセージを送って、私の言うことを聞かないようにクギを刺していたんです。とにかく、この仲間が元凶。怒りが湧きましたが、母を否定してしまうとダメだし……」

 しかし、中村さんは悩みながらも冷静だった。正面から、晃子さんときちんと話すという方法を取ったのだ。

「『いつか来る日のために、家族がケンカしないように準備をしよう』と母に遺言書を書くことをすすめました。そして、正直に『通帳を調べたら、大金がネットワークビジネスの会社に振り込まれていたのを発見した』、『法律的なことも調べて、家族といえどもほかの人の名前で契約するのは母の過失になる』と伝えました。そしてその会社にこれまで母がいくら使ったのか、どれだけの利益を出したのか、表をつくって数字として示したんです』

 正攻法で来た中村さんに、晃子さんは怒ることも、拒否することもなかった。逆に、「今はそのビジネスをやりたくない」と打ち明けたという。

「おそらく母もネットワークビジネスに疲れていたんだと思います。それで、母には月にいくら使うか決めて、収支をノートに記入することを提案しました。そして定期購入も、これまでの契約も解約することにして、退会届を取り寄せることにしたんです」

 しかし、ネットワークビジネスが晃子さんの心に入り込んだ根は深かった。退会届が届いて、いざ記入する段階になると晃子さんは退会を渋ったのだ。

「その会社は、ネットワークビジネスと瞑想グループがあって、母はビジネスはやめるけれど、瞑想グループは自分の支えになっているから、やめたくないと言うんです。それが足抜けをさせないための手でもあるわけですから、会社の思うツボです。『仲間と会えばまたビジネスをやることになるんだよ』と言っても、『それは別だ』と聞く耳を持ちません。結局、瞑想グループの方はやめることができませんでした」

 晃子さんのキャッシュカードを中村さんが管理しているのがせめてもの救いではあるが、仲間がやってくるのが怖いと中村さんはいう。

「母が退院して自宅に戻ると、すぐにまた仲間がやってくるのは間違いありません。コロナで緊急事態宣言が出ていても来るんですよ。出納帳をつけていますが、使っていいと決めた金額が、月の半ばで『もうなくなった』とか言うし。私が一つひとつ確認してはいますが……」

 中村さんの心労は続く。

――続きは8月2日公開

 

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