意識高くなく、でも「お手伝い感覚」ではない子育てを。 ――『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』海猫沢めろん氏インタビュー前編

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2020年07月27日 09:02  MAMApicks

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ここ数年で、親しい男友だちが立て続けにパパになったこともあり、男性側の意見を聞かせてもらうことが増えた。同じく、男性が書いた育児エッセイやブログ、トークショーなどのイベントも気になるものが多く、専門家からブロガーまでお気に入りのコンテンツがいくつかある。

小説家の海猫沢めろん氏は、現在小学3年生の息子さんの乳児期にパートナーと離れて生活し、1人で子育てに奮闘したワンオペ育児経験の持ち主。

2017年に出版された小説『キッズファイヤー・ドットコム』は、歌舞伎町のホストが見知らぬ赤ちゃんを託され、クラウドファンディングで育児の支援を募るというストーリーで、型破りながらも、緻密な描写が印象的な作品だ。


そして、6月に上梓したエッセイ『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』は、息子さんの成長記録、9浪を経て医学部に入学、現在現役の大学生であるパートナーとの意見の食い違い、そして男性から見た等身大の育児がユーモアたっぷりに綴られている。本著の発売を記念したインタビューを前後編でお送りする。

■男が訳知り顔で育児を語るのは、ツアー旅行で「アフリカ、結構快適だったわー」って言うくらい危険!
――男性の育児参加に関する読み物が増えてる中で、『パパいや、めろん』は子育てのしんどさも面白さもすごくフラットな目線で描かれていて印象的でした。

海猫沢めろん(以下、めろん):男性の育児本っていくつかパターンがありますよね。
子育てのことからいつの間にか自分語りになっちゃっている自意識強めのものがまず1つ。
その次に、子育てがマネジメントに繋がるとか、キャリアアップとか経営学の観点で……とか合理主義的なものもありますよね。
もう1つは社会問題と結びつけているような意識が高めのもので、その3つが同じくらいの割合であるなと思ったんですよ。

でも、僕はそういう意識の高い話に興味がないからどれもピンとこなくて(笑)。
ただ、面白くて役に立つエッセイを書いてほしいと言われたので、読んでモヤモヤしないものを書きたかったんです。


海猫沢めろん氏(photo/森清)

――男性が育児について訳知り顔で語ることは危険っていうエピソードは、まさにその一例ですね。
「ちょっとツアーでアフリカに行っただけの旅行者が、『アフリカ、結構快適だったわー』って言うようなもの」っていう喩えに笑ってしまいました。女性の反感を買って炎上するパターンのもの、結構ありますもんね。

めろん:たまに、男性がワンオペ育児を体験して、「こういう風にやってみると意外と楽勝でした」みたいな話がありますけど、1週間とか1ヵ月とか区切られていたらワンオペでもそこまで苦じゃないだろうなと思いますよ。

だけど、普通の育児はゴールが設定されていなくて、いつ終わるか分からない、永遠にこれが続くんじゃないのかってプレッシャーがあるわけじゃないですか。
それから男性は、育児についてお手伝い感覚が抜けないことが多いのですが、話を聞いていると、奥さんの目を意識しているみたいなんですよ。要するに、「妻に怒られたくない」とか「褒められたい」とか。

僕は半年ほどパートナーと離れた生活でワンオペ育児を経験したので、「褒められるために家事育児する」なんて次元じゃなかった(笑)。


――お子さんが生まれて間もなく、ワンオペ生活に入って、その後はパートナーの医学部進学に合わせて東京から九州に転居ってかなり特殊な経験ですよね。
転勤とか駐在に帯同した女性の感覚に近いのかなって思います。

めろん:いわゆる「転勤妻」たちの気持ちはすっごく分かりますよ!!!
引っ越しするのはすごく抵抗があったけど、僕と子どもだけ東京に残って生活するのも無理だし、行かざるを得なかったです。

でも、縁もゆかりもない土地で、友だちもいないし、ものすごく孤独でした。
「今はソーシャルメディアもあるし、離れていても繋がってるもんね」とかそういう問題じゃない! 誰かとどうでもいい話がしたくて仕方ないんだけど、パートナーはすごくドライな人で、僕が話しかけても「ああ、ああ」みたいな、聞いてるのか聞いてないのか分からない態度なんですよ。

「ちゃんと聞いてる!? 聞いてなくても相槌を3パターンくらい用意してよ!」って何度かキレましたからね。ただ、その一方で、僕自身も結構家事をサボっていたりして、不満を漏らされることも最近は多くて……。

■昭和モデルの家事育児モデルを引き継がないために、実践する「トイレ掃除は男がすべし」
――エッセイには、料理はいつもめろんさんが担当されてるとありましたが、それでも言われるんですか?

めろん:最近クレラップのCMで「僕は手伝わない」篇っていうのがあったの知ってます?
男性も自主的に家事や育児することが当たり前だから、「手伝う」っていう表現は使わないってことを意味しているんですけど、パートナーに「こういうことなんだよ、分かる?」って言われたんです。

というのも先日、子どもの用事で出かける予定があったんだけど、夜にオンライン会議が入っちゃったんですよね。そこで、「俺も一緒に行った方がいい?」って聞いたら、カチンときたみたいで「そのいい方は違うでしょ」と言われてしまって…。


――そこは、何て言うのがベストアンサーだったんでしょう。

めろん:「本当は俺が行かなきゃいけなかったのに、予定が入ってしまったから君に任せることになってしまってごめんね」みたいに、自分が行く前提で話さなきゃダメだったのかなって。


――俺がイニシアチブを取っているんだぞってことですね。
私はあのCMに関しては「手伝わない」と言ってるけど、逆に「俺やってるぞ」アピールにも見えるような……と構えてしまいましたが。

めろん:でも、ああいう風に説明しないと、男性にもなかなか伝わらないのかなって思います。
女性側の「手伝うんじゃなくて、自発的に家事育児してほしい」という気持ちをストーリー仕立てで説明されたら、男性も「なるほど、こういうことか」って若干分かり合えるんでしょうから。うちのパートナーも「よし、クレラップ買おう!」ってくらい共感してましたからね。

ただ、主体的に家事育児に参加することに対しては、都心とそれ以外でも結構感覚が違うなって思いますよ。僕は、地元が地方なんですけど、保守的な土地で育ってる男友だちにはこのテのトピックがまったく理解できないタイプの人も結構います。

旦那さんが家事も育児もせずに、何かあっても「俺が稼いでお前たちを養ってやってるんだ」みたいに胡坐をかいてる、未だに昭和モデルの家庭の話も聞くんだけど、経済的な縛りを受けていた親世代の発想をそのまま受け継いでいることが多いんですよね。社会制度の問題も大きいけど、そこは変えていかないといけないなって。

だからうちのパートナーは、その点について結構意識的で、息子が成長したときに、自分がイヤだと思う父親のパターンになってほしくないからって今から教育しています。
たとえば、トイレが汚れるのはおもに男が立ちションするから。なのに女性が掃除して当然と思われるのも困ると言われて、我が家ではトイレ掃除は男がすることになってるんですよ。


――コロナの影響で、男性もリモートワークしながら家事や子どもの世話をしてみて、「すごくハードだったけど、子どもからの愛着を感じられた」って声も聞きました。
「パパいや、めろん」にも、「子どもが生まれたら父親は全員イクメンブートキャンプ(父親が赤ん坊とともに1ヵ月間キャンプに送られ、アメリカの海兵隊みたいなやつに指導されながら不眠不休で子育てする)に参加するべき」って章がありましたが、荒療治のような形でも、生活に家事育児が組み込まれることで芽生える当事者感覚もあるのかなと思いました。

めろん:でも、女性はみんなそうやってきてるじゃないですか。子どもが生まれていきなりショック療法みたいに育児の日々が始まるわけでしょ。
「女性が当事者意識を持てるのは実際自分のお腹で子どもを育ててるから」とか言うけど、お腹にいる間と生まれてからはまた別の話で、あんまり関係ないと思うんですよ。

きっと男性は、強制的にでも育児参加させないと、女性と同じスタートライン立てないと思います。「ワンオペ育児、1週間くらい余裕でできた」って言うのと、先が見えない中でやるの全然違いますから。だから、子育て中じゃなくても、若い人にもこの本を読んでほしい。恋愛マニュアル本より役に立ちますよ!

【インタビュー後編】
家族ってずっと一緒にいなきゃいけないもの?

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。

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