分科会は「政府方針の追認機関」 大混乱GoToトラベルにブレーキどころか「お墨付き」

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2020年07月28日 08:00  AERA dot.

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写真政府の方針を追認する新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社
政府の方針を追認する新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社
 突然の東京除外。全国的な感染拡大の中、詳細が周知されないままの見切り発車。世論調査でも国民の大半が見直しを求めるGoToトラベルにブレーキがかからない。一体、何が起きているのか。AERA 2020年8月3日号は、その背景に迫った。

*  *  *
 7月5日に海開きした新潟県柏崎市の鯨波(くじらなみ)海水浴場は、梅雨明けも近いというのに今も閑散としたままだ。近くの小竹屋旅館を家族で経営する杤堀(とちぼり)耕一さん(49)は例年と違う夏に寂しさを感じている。

「これだけ『感染拡大だ』とメディアで騒げば、影響が出るのは当然でしょうが……」

 旅館では5月は宿泊を受け付けず、6月に再開してからも1日に2組までに限っており、売り上げは激減したままだ。問題ばかりが指摘される政府の観光支援策「GoToトラベル」だが、1兆3500億円という予算規模に杤堀さんは当初、効果を期待していた。

 ただ、今は不安ばかりだ。自分の宿が対象となるかどうかも分からない。杤堀さんが言う。

「宿泊プランを作って必要な物品と食材を調達しなければなりませんが、確定しないと何も動けません。制度が複雑で分かりにくく、あり得ない建て付けになっているからです」

 困惑は旅行業者にも広がる。海外旅行を専門に取り扱っていたトラベル・スタンダード・ジャパン(東京)は、今夏から沖縄や北海道など国内旅行も手がける予定だった。GoToトラベル事業の開始に対応を迫られ、国内旅行の取り扱い開始も予定通りに進まない状況だ。

 藤山仁志取締役はこう話す。

「事業には期待したい。何カ月も苦しい時期が続いたので、皆さんに旅行に行ってもらうきっかけを作るという意味でもありがたいと思っています」

 期待と混乱を観光業界へもたらしたこの事業は、4月30日に成立した国の第1次補正予算に盛り込まれた総額1兆7千億円の「GoToキャンペーン」事業の一つだ。

 補正予算の成立から約1カ月後、緊急事態宣言が全国で解除された5月25日に記者会見で安倍晋三首相は「わずか1カ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた」と胸を張ったが、そのわずか1カ月半後には東京都で公表される感染者が1日に200人を超え始めた。

 国内のPCR検査数が不十分なため、そもそも安倍首相が述べた「収束」が正しかったのかどうかさえ分からないが、少なくとも発表ベースの感染者の増加を「危機」ととらえ、都は専門家による評価に基づき設定する警戒レベルを上げた。

 トラベル事業が急展開したのは、東京がそんな状況になっていくさなかだった。7月10日になって赤羽一嘉国土交通相が7月22日から前倒しで始めると発表。安倍内閣が4月7日に閣議決定した緊急経済対策には、キャンペーンの実施時期を「新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後」と記載しているにもかかわらずだ。

 これには野党や全国の首長らから批判が噴出。政府が固執していた従来の方針を転換し、実施範囲を「全国一律」から「東京以外」とした。しかしそれは、混乱に拍車もかけた。

 航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さんも指摘する。

「すべてにおいて準備不足の見切り発車。本来は、『沖縄や北海道に偏らないか』といった議論があるべきですが、東京除外の混乱もあっていまだに分からず、事業が始まった22日になっても不確定要素が多すぎます。旅行に行って本当にお客さんが恩恵を受けられるかどうかさえ分からないという不安定さです」

 土壇場でキャンセル料の補償を決めるなど二転三転したこの事業。見切り発車の背景には、何が何でも経済を動かしたいという政府の意向が強く感じられる。政府の新型コロナ感染症対策分科会のメンバーの一人は事業の進め方についてこう批判する。

「分科会の開催前に『東京除外』が報道される中で、実施がほぼ確定されている施策について分科会に意見を求めることも、分科会に『差し支えない』とお墨付きのコメントを出させることも、不適切ではないでしょうか」

 その分科会。会長の尾身茂氏にも注目すべき発言があった。

 政府が「東京除外」を決めたのが7月16日。この日にあった経団連主催のフォーラムで尾身氏は「旅行自体が感染を起こすことはない」などと政府の従来の方針を支持する発言をした。その直後にあった参院予算委員会では「感染がどんどん拡大しているとある程度判断されれば、今の段階で全国的なキャンペーンをやる時期ではない」と正反対の答弁もしているが、フォーラムでの発言は、どんな背景から出てきたのか。

 本誌は尾身氏が理事長を務める地域医療機能推進機構(東京)を通じて本人への取材を申し込んだが、23日までに連絡はなかった。

 政治評論家の伊藤惇夫さんは一連の経緯から、分科会の役割についてこう受け止めた。

「分科会は結果的に政府の決定を追認するしかなかった。尾身氏の発言を含めて考えると、分科会は、廃止された専門家会議から随分変質してしまった。そこら辺に転がっている審議会のように、政府や役所の方向性を追認するような機関になってしまったように感じます」

(編集部・小田健司)

※AERA 2020年8月3日号より抜粋

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