生きていても価値がない「病気以上の絶望」 ALS患者への嘱託殺人は時代の反映

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2020年08月04日 09:00  AERA dot.

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写真奥田知志(おくだ・ともし)/生活困窮者の居住・就労支援や子どもとその家族への学習・生活支援も展開する。全国居住支援法人協議会や生活困窮者自立支援全国ネットワークの共同代表も務める (c)朝日新聞社
奥田知志(おくだ・ともし)/生活困窮者の居住・就労支援や子どもとその家族への学習・生活支援も展開する。全国居住支援法人協議会や生活困窮者自立支援全国ネットワークの共同代表も務める (c)朝日新聞社
 難病のALSを患う女性が死を望む内容をツイート、それに応じて殺害したとして、嘱託殺人容疑で医師が逮捕された衝撃的な事件。社会に問いかけるものは何なのだろうか。AERA 2020年8月10日−17日合併号から。

【写真】ALS患者への嘱託殺人事件の現場となったマンション

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 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51)への嘱託殺人容疑で、医師2人が逮捕された。女性はSNSに「惨めだ」「生きたくない」などと綴っていたとみられ、これに応じて医師2人が薬物を投与して殺害したとされる。この事件が社会に投げかける「問い」は何だったのか。北九州市のNPO法人・抱樸(ほうぼく)の理事長で牧師の奥田知志さん(57)に話を聞いた。

──事件をどうみましたか。

 容疑者の医師2人は主治医ではないので、安楽死などの問題とは別です。ただ、背景には重い病気や障害がある人、高齢者らに向けられる経済至上主義の価値観があるように思えます。今は、自己存在や自己有用性の証明がないと、自分の存在が薄くなったり、不安になったりするプレッシャーがあります。そうした時代の価値観の中でALSになった彼女は絶望感を抱いたでしょう。それに輪をかけて「生きていても価値がない」という時代の冷たいまなざしが、病気からくる絶望以上に追い詰めたのではないでしょうか。

──本人が抱く絶望と、時代が抱かせる絶望とがあると。

「生きづらさ」という言葉があります。それは単に個人が勝手に思っているだけでなく、生きづらくさせている社会や時代、価値観があります。二つの絶望は個人にとっては一体となって見分けがつきにくく、それで死を選択しようとするときに、まったく主体的に自由な選択をしていることにはなりません。

 その前提を考えずに一足飛びに個人の問題に集約して、死についても主体性や自由の問題であると変な民主主義を持ち込む人もいます。しかし、選択肢が狭められて不自由な選択しかできないところに、自由な主体性など発揮できません。こうした議論は、形を変えた自己責任論であり、社会が責任を問われないための理屈です。

──終末期の患者らが自分の意思で治療をやめる「尊厳死」の議論に結びつける傾向もあります。

 順番を間違えています。人を追い詰めていく社会そのものを治療しない限り、個人の尊厳の議論にはなりません。個人の尊厳が成立していないことのほうが大問題です。つまり、結果として「生きていてもしょうがないよね」という社会があって、生きていてもしょうがないという意味での尊厳死に過ぎないのなら、それは個人の尊厳と言えないのではないでしょうか。

──奥田さんは、2016年にあった津久井やまゆり園(神奈川県相模原市)の重度障害者殺傷事件で、死刑判決を受けた植松聖死刑囚にも面会されました。

 相模原の事件も今回の事件も、背景には体が動かない人は周りに迷惑をかけているという価値観が時代の言葉として存在しています。植松死刑囚は「役にたたない命」「生きる意味のない命」という言葉を使いましたが、彼のオリジナルではなく、時代の言葉でしょう。今回の事件も含めて、社会のあり方そのものを問わないといけません。

 しかしその答えはありません。例えば、尊厳死の問題で法律を作って安心しようとしても、やはり「これで良かったのか」という問いは残り、そうした問いが社会を作っていきます。人間には限界があり、答えを出すことが難しいこともあります。

──死を選択しそうな人と出会ったとき、私たちはどうしたらいいでしょうか。

「社会が悪い」「命は尊い」と、いろんな理屈はありますが、最終的にはその人と出会った一人として「私は死んでほしくない」と言い切らなければいけないし、その方がはるかに意味があります。共感や想像する力が欠け落ちたこの時代に、その人が負わされている絶望や苦難に寄り添うことが原点だと思います。

(構成/編集部・小田健司)

※AERA 2020年8月10日号−17日合併号

このニュースに関するつぶやき

  • 周囲は当事者の病気の事ばかりでなくQOLももっと考えて下されば…難病が悪くなる一方でいかにQOLを下げないか。
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  • 死んでほしくないと言われても、病気を代わってくれるでも無し。大の男が、顔が痒くて掻くて、でも体が動かず掻けなくて泣くんだ。でも生きろと言われたら、わたしならもっと泣くよ。
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