進化する心臓弁膜症手術 安全性向上のカギは?

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2020年08月04日 17:00  AERA dot.

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写真(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
 75歳を過ぎると10人に1人が発症するという心臓弁膜症。心臓の弁に障害が起きて、血液の流れが悪くなる病気だ。動悸や息切れといった予兆はあるが、加齢による衰えだと思って放置しているうちに進行し、重症化すると心不全を引き起こすこともある。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、治療の第一選択となる手術について専門医に取材した。

【データ】心臓弁膜症かかりやすい性別や年代は?

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 心臓弁膜症のなかでも僧帽弁と大動脈弁に起こる不具合は、放置し続けると心不全の原因になり、生命に関わる。病状の進行に応じて早急な治療が必要となる。

 心臓弁膜症の根治を目指すためには手術が第一選択となる。弁膜症でも患者数の多い、僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症に対する手術を中心に紹介する。

 僧帽弁閉鎖不全症は、左心房と左心室の間にある僧帽弁がきちんと閉じず、血液が本来の流れとは逆に流れてしまう病気だ。僧帽弁は2枚の弁尖という膜からできており、一方向だけに開閉するようになっている。僧帽弁が閉じなくなる原因は、弁の開閉をコントロールしている腱索という組織が伸びたり切れたりして2枚の弁尖がずれてしまう場合と、弁尖がゆるんでしまう場合がある。

 この場合には、腱索を修復したり、人工物に取り換えたり、伸びきった弁尖を小さく切って縫い合わせる弁形成術がおこなわれる。弁を形成した後には、弁を固定する外枠である弁輪も装着する。東京医科歯科大学病院心臓血管外科教授の荒井裕国医師はこう話す。

「弁形成術は難度の高い手術ですが、手技が確立された確実な方法です。僧帽弁閉鎖不全症には弁形成術が主流の治療となっています」

 心臓弁膜症の手術は、心臓を止めて人工心肺を操作しておこなうため、確実におこなうと同時に、短時間で手際よくおこなうことが求められる。患者の弁がかなり傷んでいて再建術による修復が不可能な場合は、弁を取り換える弁置換術をおこなうこともある。

 僧帽弁閉鎖不全症には、器質性(変性)と機能性があり、器質性は、先述した腱索や弁尖の不具合によって起こる。一方の機能性は、ポンプのように伸び縮みする心臓の筋肉である心筋が、機能低下して肥大することにより、心筋に弁が引っ張られて起こる。機能性は根本原因が狭心症や心筋症など他の病気にあるため、弁を治すだけではうまくいかない場合もある。病状によっては冠動脈バイパス術や心臓ペースメーカーなど、他の心臓手術が同時に必要になることもある。

■患者の状態に合わせ 手術をおこなう

 手術のアプローチは“低侵襲”ということが盛んに言われているが、心臓手術の分野でも低侵襲心臓手術(MICS)が症例を選んでおこなわれるようになった。通常の手術は、胸の真ん中の胸骨を縦に20〜25センチ切り開いておこなうが、MICSは、肋骨の間を6〜8センチ程度に小さく切り開き、そこから患部にアプローチする手術だ。僧帽弁形成術にも適応されることがある。東京女子医科大学病院心臓血管外科教授の新浪博士医師はこう話す。

「MICSは術後の回復、社会復帰は早いです。ただし、大切なことはアプローチではなく、正確な手術をすることです。無理にMICSでおこなうよりも、胸を開いておこなったほうがいい場合もあります。患者さんの病状や希望に応じて適切な方法を選ぶことが重要です」

 社会復帰が早いMICSは通常、70歳以下の患者に適応することが多い。

■使用する弁ごとに 長所と短所がある

 左心室の出口になる大動脈弁が狭くなる大動脈弁狭窄症に対しては、大動脈弁置換術という、傷んだ弁を人工弁に取り換える手術が主流だ。人工弁は牛の心膜や豚の大動脈弁による生体弁を使う場合と、金属の弁である機械弁に置き換える場合がある。

 生体弁は術後3カ月程度、抗血栓薬を飲めばいいが、弁の耐用年数が10〜20年程度のため、若い人に使うと高齢になってから再手術が必要となる可能性が高い。

 機械弁は、半永久的な耐用年数があるものの、構造的に血栓ができやすく、抗血栓薬であるワルファリンという薬を生涯飲み続けなくてはならない。服薬に際して、定期的に薬の調整をする必要があり、食べ物の制限や出血しやすくなるなど、さまざまな制約もある。

 生体弁と機械弁の特徴から一般的に若い人には機械弁が使用され、生体弁は概ね60歳代以上の人に推奨される。近年は生体弁を希望する患者が多く、選択される場合が多くなっている。

「生体弁は進化を続けています。弁が壊れる原因となる石灰化を抑制する処理方法が改善されて、耐久性が向上しています。また、通常20針ぐらいの縫合が必要なところを、3針のみで装着できる弁も登場しています。医師にとって使い勝手が良く、手術時間が短くなり、人工心肺を動かす時間も短時間になるため、患者さんにも大きなメリットです」(荒井医師)

 ただし、縫合操作を簡略化しているという構造上、慎重な装着が重要だという。

 一方の機械弁も、現在、血栓がつきにくい弁が開発されており、臨床現場で使われながら、その有効性が検証されている。

「この機械弁によりワルファリンを服用せずに済むことになるかもしれません。現在、国際的な試験でその有効性が検証されています」(新浪医師)

 そして、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症いずれの治療においても、カテーテルによる内科的治療も始まっている。手術と比較して低侵襲な治療として注目されている。現在は手術不能な高齢者や他の病気を有する患者に対して適応されているが、今後、適応が拡大されていく可能性がある。

「今後は手術のアプローチ方法、人工弁の選択、カテーテル治療を使い分けることで、患者さんのライフプランに応じた治療ができるようになっていきます。さらに、再手術が必要になったときも負担の少ない治療の組み合わせと順番を考慮して治療ができるようになるでしょう」(荒井医師)

 なお、心臓弁膜症の治療も含む心臓手術や心カテーテル治療に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。

手術数でわかるいい病院
https://dot.asahi.com/goodhospital/

(文・伊波達也)

≪取材協力≫
東京医科歯科大学病院 心臓血管外科教授 荒井裕国医師
東京女子医科大学病院 心臓血管外科教授 新浪博士医師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より

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