男性の「産休制度」新設の動き…「収入減」「マイナス評価」懸念をどう払拭する?

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2020年08月06日 11:02  弁護士ドットコム

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政府は、男性の育児参加を促すため、出産直後の父親を対象とした新たな休業制度(産休制度)を創設する方針であると報じられた。産休制度は現在、母親にしか取得が認められていない(産後は8週間)。


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読売新聞(7月26日)によれば、導入を予定しているのは父親を対象とした「産後休業」にあたる制度で、男性の育児参加を促すとともに、出産直後の妻を夫がサポートする機会を作り、産後ケアを充実させる目的がある。



また、男性の育休取得が進まない背景に、家計収入が減ることへの懸念があることをふまえ、育児休業よりも休業中の給付金を手厚くし、家計の収入減を抑えることも検討しているという。来年に育児・介護休業法などを改正し、導入を目指すようだ。



もっとも、男性の産休制度を法律で設けただけで、実際にどれだけ利用されるのか。あるいは「休むことでマイナス評価されないか」などの懸念もある。これらをどう考えるべきか。



●男性の産休制度は「女性の社会進出が進展する大きな契機」

労働問題に詳しい笠置裕亮弁護士は、男性の産休制度について、「制度創設自体は評価できる」という。ちなみに笠置弁護士は、1カ月の育休を取得した経験がある。



「これまでも育休制度はあったものの、なかなか取得率が上がらず、とりわけ夫のヘルプが必要となる出産直後の時期に、妻に負担が集中していたという問題がありました。



制度の詳細は、今後政府内で検討されることになっていますが、産休取得者に対する経済的なバックアップが十分なされるのであれば、社会的に広く活用され、夫婦での育児負担の分担と、それに伴う女性の社会進出が進展する大きな契機になると思われます」



産後は身体的にも精神的にも大きな負担がかかる時期で、特に生後1カ月の健診までは母子ともに外出をなるべく控え、回復に努めるのが一般的だ。普段であれば軽々とこなせる家事でも体の負担となり得ることから、父親のサポートは大きな意味を持つ。



もっとも、笠置弁護士は、「制度創設の成否は、取得時の懸念をいかに解消するかにかかっている」と話す。



「残念ながら、男性の制度利用者に対する風当たりの強い企業も存在します。そういった企業でも、取得できるようにどういった対策をとるのか。そこで制度の成否が決まるでしょう」



●制度があっても「全員取得」とはならないワケ

制度が導入され、組織が産休取得を推奨しても、実際の職場で取るようになるとは限らない。



たとえば、国家公務員には類似の制度「男の産休(最大7日間の有休)」がすでに導入されており、政府は「”全て”の男性職員が合計5日以上取得する」という目標を設定している。



しかし、内閣人事局によれば、5日以上の取得率は「67.8%」(平成30年度時点)。取得率は年々上昇しているようだが、国の大号令があってもまだ目標の100%には届いていない。民間でも取得しない人が一定の割合で出てくることが予想される。



「民間でも『男性の育休制度』はすでにありますが、取得率は約6〜7%で、そのうち約6割が取得日数5日未満の、いわゆる『なんちゃって育休』であることが明らかにされています。8割台で推移している女性に比べ、依然として低水準と言わざるを得ません」(笠置弁護士)



制度の利用を躊躇する理由には、「収入減やキャリア形成への悪影響が不安」、「育休制度の整備が不十分」、「取得しづらい雰囲気だった」等が挙げられる。笠置弁護士も身に覚えがあるという。



「昨年1カ月ほど育休(弁護士は自営業なので、正確には自主休業)を取得しましたが、育休を取得する男性弁護士は非常に珍しいようです。弁護士の世界でも、収入減を懸念し、『男性は育休をとらない』という傾向が強いように感じました」



●「産休義務化」は十分にあり得る選択肢

制度を新設しても、実際に利用されないのでは「絵に描いた餅」だ。笠置弁護士は、「取得の義務化も考えられる」という。



「収入減については、休業中の給付金を手厚く保障することでその懸念を払拭することができるでしょう。



問題は、日本社会の中で、男性の制度利用が進んでおらず、まだまだ利用者が『珍しい』『変わっている』ととらえられてしまい、時には会社への忠誠心が足りないなどとマイナス評価されてしまうことにあります。



復帰後に能力を発揮できるポジションに就かせてもらえない、場合によっては退職勧奨を受けてしまうなどというトラブルが頻発しているようでは、制度利用が進むはずがありません。



現状を大きく変えるためにも、育休はさておき、より期間の短い産休については、取得を義務付けることも政策的に十分あり得る選択肢だと考えます」



●「パタハラはダメ」という認識を広げる必要がある

また、産休制度を利用した男性労働者が不利益な取扱い(パタニティ・ハラスメント)を受けないような法整備も重要だという。



「男女雇用機会均等法は、女性労働者へのマタハラを禁止しています(9条3項)。妊娠や出産などの事由の終了から1年以内になされた不利益な取扱いは、原則としてマタハラに当たると解釈されており、これまでにも数多くの勝訴判決が積み重なっています。



マタハラは、その言葉も社会的に浸透し、社会的にいけないことだという認識が広がりつつありますが、パタハラに関してはまだまだ認知されていないと思います。



最近では、パタハラをめぐるトラブルも増えてきていますが、これでは『トラブルの原因となるような制度利用は止めておこう』と男性労働者が考えてしまうのも当然です。



男性の産休利用を広げていくためには、産休制度を利用した男性労働者が不利益な取扱いを受けないよう、きちんと法整備を進め、企業に認識を広げていくことが必要です」(笠置弁護士)



マタハラと同じように、「男性も育児参加するのが当たり前」という意識を企業全体に浸透させられるかどうかがポイントになりそうだ。  



●産休・育休の取得は「はじまり」に過ぎない

なお、ネットでは、男性の産休制度について、「育児・家事をちゃんと手伝ってくれるのか」、「休みだからといって単にダラダラ過ごしたりしないか」など、産休を取った際の男性の過ごし方を懸念する声が少なからずあった。



この点につき、「家庭での過ごし方にまで法律が制約をもうけることは、プライベートへの過度な侵害になりかねず、なかなか難しい」と笠置弁護士は話した上で、一例を示す。



「育休を義務化している企業では、会社が従業員に対し、育児計画シートを配布し、家庭内で育児負担を分担するための話し合いを行わせるきっかけづくりを進めるなどの手段を講じているようです。



会社が産休・育休を取得させる趣旨をきちんと説明し、男性従業員にも理解を求めていくことが重要でしょう」




【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/


このニュースに関するつぶやき

  • 産休育休なんてやってるほど企業にも国庫にも余裕がないよ。コロナ大流行で補償金や給付金・不況、大災害頻発で復興のための増税増税。
    • イイネ!4
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