【アジア最前線:ベトナム #2】“アジア人助っ人不毛の地”に吹く韓国の風

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2020年08月06日 11:08  サッカーキング

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今季一番の“外国人兵”は……?
 近年の東南アジア各国リーグでは、多くの日本人選手が活躍している。特にタイやカンボジアでは日本人の勤勉さやプロ意識の高さが評価され、ある種のブランドとして価値を示している。対して、ベトナム1部のVリーグでは、過去に在籍した日本人選手はわずか4人(伊藤壇、井手口正昭、フェアー・モービー、苅部隆太郎)で、そのすべてが短期間でベトナムを去っている。一時期はタイ代表がベトナムでプレーする潮流もあったが、現在はアジア出身助っ人が非常に少ない。そんななか、今季は2人の韓国人選手が活躍し、リーグに新風を吹かせている。

ベトナムでは外国人助っ人のことを“Ngoai binh”(外国人兵)と呼ぶ。Ngoai binhに求められるのは単騎で局面打開できる圧倒的な“個”だ。具体的にはパワー、スピード、そして最も重要とされる要素が高さである。南米とアフリカ系、東欧系が重宝される傾向が顕著で、いずれも190センチ近い。彼らが繰り広げるゴール前での迫力満点の空中戦や相手守備をぶっちぎる爆発的なスピードは、リーグの醍醐味になっている。

フィジカルが重視され、アジア枠も存在しないことから、アジア人助っ人が入り込む余地は少ない。過去には日本代表歴がある元Jリーガー数人がトライアウトに参加しているが、契約を勝ち取ることは出来なかった。ベトナムでは2年前まで外国人枠がわずか2枠だったうえに、2部以下は外国人のプレーが禁止されている。プロ契約は非常に狭き門だ。

現在では外国人枠が3枠に増加。しかし相変わらず外国人2トップを起用するクラブが多く、助っ人の補強ポイントはFWとセンターバックにほぼ限定される。ACLとAFCカップに出場するチームだけがAFC枠を含め4人の外国人登録が可能であるため、アジア人を獲得する場合はACL、AFCカップ要員がほとんど。ゆえにこの4人目は「大会敗退=契約解除」となる。

 そんなVリーグにおいて、今季活躍中のホーチミン・シティ(HCMC)所属MFソ・ヨンドクとサイゴンFC所属DFアン・ビョンギョンの両韓国人は異色の存在だ。上位争いを演じる好調の両チームで、ほとんどの試合で先発している。評価は上々で、ここまで今季一番の“当たり”助っ人と言っても差し支えないだろう。

ベトナムと韓国サッカーの結びつき
 元U−20韓国代表ソ・ヨンドクはJリーグ(大宮アルディージャ、FC東京、カターレ富山)でのプレー経験を持ち、特に富山では数々の印象的なゴールを決めてサポーターから愛された。富山退団後は、韓国1部と2部のクラブを渡り歩き、今季開幕前にHCMCへ移籍。小気味のいいドリブル突破と強烈なミドルは30歳になった今も健在で、ボランチとして攻守両面でチームにアクセントを与えている。174センチという身長は助っ人として最も小柄な部類に入るが、それを補って余りある技術と戦術眼を持ち、“ベトナムのメッシ”ことグエン・コン・フオンをはじめ、前線の個性豊かな駒を操る司令塔の役割を果たしている。

 一方、31歳のアン・ビョンギョンは、その経歴から分かる通りのたたき上げだ。韓国のセミプロで数年プレーした後にタイへ。タイやインドネシアのリーグで実績を積み、2019年に逆輸入で韓国2部全南ドラゴンズに移籍したが、出場機会に恵まれず今季からサイゴンに加入。188センチの長身でエアバトラーとして存在感を示しているが、最終ラインの統率にも秀でており、サイゴンの長年の課題だった守備を劇的に向上させた。チームは開幕10試合で3失点とリーグ屈指の堅守チームに変貌を遂げている。

 韓国人Vリーガー誕生の背景には、ベトナムと韓国サッカーの強い結びつきがある。何よりベトナム代表で成功を収めているパク・ハンソ監督の存在が大きく、Vリーグでも韓国人監督、選手、トレーナー、ドクターが増加傾向にある。ソ・ヨンドクが所属するHCMCも、韓国人のチョン・ヘソン監督(元韓国代表コーチ)がチームを率いていた(第11節後に辞任)。

 とはいえ、Vリーグで成功を収めたと言えるほどの韓国人選手は、まだ存在しないのも事実。ソ・ヨンドクは「今、自分がここでプレーできているのは、パク監督をはじめとした指導者たちの貢献のおかげ。今後ベトナムでより多くの韓国人がプレーする機会を作るためにも、自分がパイオニアのつもりで頑張る」と語った。今季、HCMCかサイゴンのいずれかがリーグ優勝すれば、それは現実のものになるかもしれない。

文=宇佐美淳

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