「世の中ときちんと向き合う」コロナ禍の音楽番組の作り方『うたコン』

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2020年08月07日 10:00  ORICON NEWS

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写真『うたコン』司会の谷原章介(左)と赤木野々花アナウンサー(C)NHK
『うたコン』司会の谷原章介(左)と赤木野々花アナウンサー(C)NHK
 演歌や歌謡曲、ポップス、洋楽、クラシックなど多彩なジャンルの音楽を生放送で視聴者に届ける歌番組『うたコン』。毎回、ユニークな切り口で幅広い世代に向けて“歌”を届けてきた。コロナ禍でもその姿勢は一貫して変わらず、視聴者の思いをすくい上げながら、 “今”を映す歌の数々を紹介して寄り添い続けている。同番組のチーフ・プロデューサー・一坊寺剛氏に、番組作りに込めた思いを聞いた。

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■番組作りで最も大切にしてきたのは「世の中ときちんと向き合うこと」

 『うたコン』は、NHKホールをホームグラウンドに観客を招き、生演奏でスペクタクルなステージを展開して、その模様を生放送で全国の視聴者に届けるというスタイルで幅広い世代の人気を集める歌番組だ。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2月25日より無観客での生放送となり、緊急事態宣言が発令されて以降の4〜5月はNHKホールからの生放送も休止、司会の谷原章介がリモートで生出演する形で、視聴者からのリクエストを募り、過去の秘蔵映像を中心に構成する特別版を生放送した。解除後の6月9日からは、無観客ではあるものの、約70日ぶりにNHKホールからの生放送を再開している。

 指揮を執る一坊寺剛氏が前任からチーフ・プロデューサーを引き継いだのは、NHKが『うたコン』の公開生放送を無観客で行うことになってから。その後、チーム一体となってコロナ禍での番組作りを続けてきた。その中で、最も大切にしてきたのは、「世の中ときちんと向き合うこと」だった。

 「4月から、番組では<わたしたちには歌がある!>をテーマに掲げました。どんな状況にあろうと僕らには歌があって、時代もジャンルも関係なく歌から生きていることの意味を感じたり力をもらったりしています。今はコロナ禍にあるだけでなく、水害も多発するなど、いろんな局面で苦しまれ、辛い思いをされている方がたくさんおられます。そんな中、歌番組を作っている僕らにできることは、皆様が今どういう音楽を求めているのかに真摯に向き合うこと。そこで今、視聴者の皆様が聴きたい曲や観たいシーンのリクエストを募集して、その歌に対する思いやメッセージも併せて放送しました。個人的な考えですが、僕らテレビ番組を作っている人間には日本中の皆様に今、なぜ、この歌なのかということをきちんと伝え、届ける使命があるし、毎週の生放送だからこそきちんと“今”を描かなければいけないと思っているんです」(チーフ・プロデューサー・一坊寺剛氏/以下同)

■コロナ禍の今だからこそ生まれてくる新曲に期待

 番組には2万弱ものリクエストが寄せられた。歌の底力を感じるに値する反響だが、さらに番組には、今も多数の観覧応募も寄せられているという。
 ホールでの生放送を心待ちにしていたのはアーティストも同じだった。緊急事態宣言が解除され、無観客ながらホールからの放送を再開した6月以降、出演したアーティストたちは口々に「生演奏の音で歌うのは久しぶり」と喜びの声を上げた。相次ぐライブやイベントの中止で歌う場がなくなっていた彼らにとって、観客の前で歌える喜びの大きさは容易に想像できる。
 もう1つ、アーティストや音楽業界にとっては、緊急事態宣言の発令により、スタジオでのレコーディングが中止や延期となり、新譜のリリースが極端に少なくなっていたことも大打撃だった。しかし、一坊寺氏は、コロナ禍の今だからこそ生まれてくる新曲に期待を寄せている。

 「僕の好きな言葉に“歌は世につれ世は歌につれ”があります。世の中を映す鏡である歌は状況に応じて進化し、時代もまた歌の流行りに影響されていきます。今、名曲と言われる歌が最初から名曲だったわけではなく、時代の繰り返しの中で歌い継がれることによって名曲になっていったように、コロナ禍で世界中の皆が辛い思いを共有している今だからこそ、ここから生まれる新曲にはこの先、未来も歌い継がれ、名曲になる可能性を持つ歌が潜んでいるのではないかと思うんです。今、アーティストの皆さんは現状といろいろな向き合い方をし、いろいろなことを考えて楽曲を作られていると思います。だからこそ僕らは、アーティストの思いをきちんと受け止め、視聴者の皆様にお届けしていかなければいけないと考えています」

■“歌の力”を武器に、視聴者に勇気と希望を

 NHK福岡放送局にてチーフ・プロデューサーを務めていた時代、熊本地震や九州北部豪雨など、さまざまな災害に直面しながら番組制作に携わってきたという一坊寺氏。その経験から、「ものごとが次のステップに向かう時、後押しをしてあげられるのがエンタメであることをつくづく感じている」という。

 「俳優の皆さんがよく、舞台はお客様と一緒に作り上げるものとおっしゃっていますが、『うたコン』もまさにそう。ホールにお客様を招いて、生放送でお届けするのが番組のアイデンティティですから、いつから公開放送を行うかは常に考え続けています。正直言って新型コロナ感染拡大防止策については誰しも初めてのことに直面しているゆえに、明確な判断基準が見えにくいため、私たちも探り探りやっている状態ではありますが、それでも、NHKホールからの放送となり、『うたコン』も元の形にわずかに近づいた。そういう様子も視聴者の皆様にきちんとお見せしていくことが、今は大事なのだろうと思っています」

 新型コロナウイルス感染症の収束の兆しが未だ見えず、皆が不安を抱えている今、“歌の力”を武器に、視聴者に勇気と希望を与えるべく、自らも勇気と希望を持って走る『うたコン』。その特徴であり強みの1つである公開放送の再開はいつになるのか。近い将来、実現することを期待したい。
(文・河上いつ子)

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