破裂すると死に至る大動脈瘤 声のかすれで発覚するケースも

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2020年08月07日 17:00  AERA dot.

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写真(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
 大動脈が膨らんで瘤のようになる大動脈瘤は、破裂すると命にかかわる。しかし、瘤が破裂するまでは時間があり、自覚症状はほとんど出ない。何らかのきっかけで発見されても、治療にはリスクも伴うため、治療のタイミングを見極めることが大切だ。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、大動脈瘤の原因や経過観察について、専門医に取材した。

【データ】大動脈瘤かかりやすい年代や性別は?

*  *  *
 大動脈とは、心臓の上部から上に向かって出て、Uターンして下に向かい腹部に達する、からだで一番太い血管のことである。その中で、上に向かうのが上行大動脈、Uターンの部分が弓部大動脈、下に向かうのが下行大動脈(以上が胸部大動脈)、そして腹部大動脈につながる。

 これらの大動脈の直径は通常2〜3センチだが、それ以上に瘤のように膨らんでしまうのが大動脈瘤である。

 動脈硬化が進むと硬く、もろくなるのは、脳や心臓の細い血管でも、からだの中心を通る太い血管・大動脈でも同じである。しかし、細い血管は動脈硬化によってより細くなって詰まるのに対して、大動脈では逆に膨らんで瘤ができる。

 瘤ができやすい部位について、川崎幸病院院長の山本晋医師が説明する。

「日本人の場合、理由は明らかではありませんが、心臓から遠いほうの弓部である遠位弓部に瘤ができるケースが圧倒的に多いのが現状です。次いで下行大動脈が多く、上行大動脈には少ないといえるでしょう」

 なぜ大動脈が膨らむのか。慶応義塾大学病院心臓血管外科教授の志水秀行医師の解説はこうだ。

「生まれつきの血管の性質や感染症による場合などもありますが、ほとんどは動脈硬化によってもろくなった血管が、血圧によって膨れたものです。いったん膨らみ始めた血管は、進み方に差があるものの膨らみ続け、自然に元の太さに戻ることはありません」

 また、志水医師によると血管にかかる力は「血圧×血管の太さ」でおおよその計算ができるという。

「血管が太くなるほど血管にかかる力が大きくなるため、病状が進むほど急速に悪化する(太くなる)ことになります」(志水医師)

■自覚症状がないケースがほとんど

 大動脈瘤が膨らみ続ければ破裂し、救命が困難なほどの大出血を起こす。ここまで進めば激しい胸痛などを伴うが、それまでは大動脈がいくら膨らんでも、とくに自覚症状は出ない。まれに症状が出るケースを山本医師が紹介する。

「遠位弓部の近くには、声帯をコントロールする神経が通っています。遠位弓部に瘤ができて膨らみ、この神経を圧迫すると声がかすれることがあります。声のかすれで受診した耳鼻咽喉科から紹介され、当院を受診されるケースもあります」

 自覚症状がないため、大動脈瘤は、ほかの病気のために受けた胸部の検査から偶然見つかるケースがほとんどである。胸部X線検査などで大動脈瘤が疑われる異常が見つかった場合、CT(コンピューター断層撮影)検査により診断が確定する。

 要治療とすべき瘤の大きさはどのくらいか。大動脈瘤は5・5センチを超えると破裂の危険性が急速に高まり、破裂せずに生存できる可能性が急速に低下する。だが、破裂の危険性は瘤の位置や状態などによっても異なるため、治療の対象となる瘤の大きさは治療指針でも「5〜6センチ以上」と幅がある。

 山本医師はこう話す。

「瘤が破裂して緊急搬送されてくる患者さんの瘤を計測してみると、多くの場合、5センチ台です。加えて5センチ台の瘤の手術の成功率は高く、治療法が確立しているといえることから、当院は5センチ以上の瘤を治療の対象としています」

 志水医師は瘤の大きさだけでなく、形状や経過なども考慮するという。

「急速に大きくなっている、一部だけが盛り上がって、いびつに膨らんでいる瘤も破裂しやすいといえます。一般的に、全体が膨らむ紡錘状瘤なら大きさでおおよその判断ができます。しかし、一部が飛び出た嚢状瘤の場合は、それほどの大きさがなくても破裂しやすいため、通常よりも早めに治療の対象となります」

 ただ、大動脈瘤の治療には合併症や、さらには死亡のリスクも伴う。このため、破裂しない程度の瘤を闇雲に早めに治療してしまうと、瘤の影響をなくすメリットより、治療に伴うリスクのほうが大きくなりかねない。

 では治療の対象とはならないものの、通常の大動脈より膨れている3〜4センチ台の瘤が見つかった患者に対する、経過観察はどのように進めるのか。

■高血圧や糖尿病を きちんと治療する

 山本医師は、主に瘤の大きさと患者の年齢によって指示を出している。例えば、見つかった瘤が3センチ台で、80歳以上なら「受診の必要なし」と伝えている。瘤の平均的な年間拡大率は0・5〜1ミリであり、治療の対象となるまでの年数と平均寿命を考えた結果である。

 一方で、瘤が4センチ台の場合は、年齢にかかわらず毎年CT検査をおこなう。

「CTを5年間撮れば、患者さんごとの瘤の拡大率の予測ができ、それに沿って適切なタイミングでの治療が可能になります」(山本医師)

 志水医師は、瘤が動脈硬化から発生しているとみられるなら、動脈硬化のリスクを減らすために、高血圧や糖尿病をきちんと治療することや禁煙などをすすめる。続けて、次のように注意を促す。

「高血圧や糖尿病の治療などは、大動脈瘤の背景となっている動脈硬化のリスクを下げ、大動脈の壁にかかる圧力を少し弱くするだけです。大動脈瘤そのものの治療ではありません」
 大動脈瘤の治療は、根本的には人工血管に入れ替えるか、ステントグラフトを留置するか、だけだ。大動脈瘤そのものに効く薬はないといっていい。山本医師は、こう話す。

「大動脈瘤治療の目的は瘤の破裂を防ぐことです。例えば最大血圧が160ミリメートルHgなら破裂するが120ミリメートルHgなら破裂しないという科学的な根拠はありません。降圧薬で血圧を下げても破裂を防ぐことはできないのです。大動脈瘤が一定以上に膨らみ、生命を維持できるだけの血圧がかかっていれば、いつでも破裂の危険性があるのです。それを前提に治療のタイミングや治療方法について医師とよく相談してください」

 なお、胸部大動脈瘤の治療も含む心臓手術に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。

手術数でわかるいい病院
https://dot.asahi.com/goodhospital/

(文・近藤昭彦)

≪取材協力≫
川崎幸病院 院長 山本 晋医師
慶応義塾大学病院 心臓血管外科教授 志水秀行医師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より

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