『ハイキュー!!』田中龍之介の言葉はチームを、人を、上昇させる 次期エースの活躍に迫る

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2020年08月09日 08:01  リアルサウンド

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 バレーボールに青春をかける高校生たちを描く『ハイキュー!!』。今回ピックアップするのは烏野高校のムードメーカーであり、次期エースでもある田中龍之介だ。


 ポジションはウィングスパイカー。坊主頭で見た目は怖いが、義理堅く人情に厚い。そしてポジティブ。チームのテンションが下がり気味なときにも周りを鼓舞しムードを盛り上げる。烏野高校の「切り込み隊長」でもある田中龍之介の魅力に迫る。


何事にも真っ直ぐ だからこそ人の心を動かす

 田中が烏野に進学したのは「俺の中では強豪」で、「俺のアタマでも入れる高校」だったから。同期にはリベロとして存在感を放つ西谷、1つ上には〈大会で見たすげぇスパイカー〉の東峰もいた。が、現実には烏野は活躍できておらず、練習試合の対戦相手からも下に見られる、練習でも体育館も使わせてもらえないという状況だった。


 なんか緩い。ナメられたままでいいのか。そう澤村たちに訴える。そんな田中に澤村が言ったのはシンプルな言葉だった。



「勝てばいいよ。簡単ではないけど単純だ」



 朗らかに言いつつも、澤村たちの目は笑っていない。そこで田中は確信する。



「この人ら強ぇやつ…!!」



 それから金髪だった髪を坊主にし、気合いを入れ直す。日向たちが入学してくるまでバレー部にはいろいろあった。東峰が部活に来なかったこともそうだし、西谷も部活禁止。ほかの同期3人も練習の辛さから逃げ出したことがあった。


 でも、田中は逃げない。どんな状況でも部に居続けたのは田中だけだった。そんな田中を同期の縁下はこう評している。



「シンプルとか一途とか多分すっげー難しいじゃん」



 おまけに、田中は人の感情に敏感だ。だからこそ、咄嗟にチームを鼓舞するような言葉が言えるのだろう。「シンプル」だから人の心に響きやすいし、「一途」だから言葉に説得力がある。


 次期部長についての話題が出た際、2年生全員一致で推された縁下。しかし、縁下は自分は逃げ出したことがあるし、澤村のあとは務まらないと後ろ向きだ。そんなとき、田中は「だからかもな」と言い、こう続ける。



「運動部だからって猪突猛進タイプばっかじゃねえだろ」
「お前はたぶんどっちも分かる奴だ!」



 春高準々決勝で日向が熱で途中離脱したときにも、田中は真っ先にポジティブな言葉をかけた。そう、実はチームメイトのことも冷静によく見ている。


「平凡」と自覚するすべての者たちに響く言葉

 冷静に周りを見ているだけではなく、自分のことも冷静に分析している。春高2回戦となる稲荷崎戦。宮侑にサーブで狙われ、スパイクはことごとくブロックされる。稲荷崎高校はまず田中をつぶしにかかったのだ。


 決まらないスパイク、呼んでも来ないトス。心身共にダメージが溜まっていく。そんな中、田中は自分自身のことを振り返る。



「俺は普通の人間だと思う」



 身体能力も一番ではないし、身長も180cmに届かない。現時点でバレー部で一番である部分はない。でも、田中はそれを諦めの理由にも言い訳にもしない。それだけでもすごい。多くの人間は劣っていることを理由にして諦めるし、逃げ出す。しかし、田中は「普通」である自分さえも真っ向から受け止める。



「平凡な俺よ 下を向いている暇はあるのか」



 平凡だという自覚があれば、下を向いてしまう。自分はがんばってもダメなのだと足を止めてしまう。田中は足を止めない。平凡だからこそ、進み続けなければならない。がんばり続けなければならない。シンプルなことだけれど、それができる人間は少ない。田中は自分のメンタルで、平凡である自分を覆したのだ。


下を向かない田中に女神が微笑んだ
マネージャー清水潔子が表紙を飾った26巻

 西谷と田中がマネージャー清水潔子の親衛隊として騒いでいる様子は、高校生らしい描写として多く登場している。田中は初対面で清水に「けっこんしてください」とプロポーズをしており、挨拶代わりに「お付き合いをしてください」と言っていた。「最早ネタのように見える」と周りから言われる状況だ。


 一方で、田中に想いを寄せる女の子もいた。幼なじみで宮城のバレーボール強豪校・新山女子に所属する天内叶歌だ。田中がきっかけでバレーボールを始めた。高身長がコンプレックスだった叶歌を肯定し、サーブがうまく打てないと落ち込んでいた時にも「できるまでやればできる」と田中流に背中を押した。


 彼女の登場で田中は叶歌と恋人関係になるのでは……? とも思われたが、コミック43巻で衝撃の事実が発覚する。田中と清水が結婚していたのである。高校時代に田中の「付き合ってください」に応えることはなかったが、シンプルで一途な思いが清水の心に届いたのだろう。稲荷崎戦で不調だった田中について清水が「田中はいつもだいたい大丈夫ですよ」と言う場面があり、清水も田中のことをきちんと理解していることがわかる。振り返ってみれば、田中と清水の出会いの瞬間はきちんと描かれていたし、春高敗退後、荷物を持ちます、と申し出た田中に清水は初めて応えている。伏線は張られていたと言ってもいいのかもしれない。


 一方で気になるのは天内叶歌の登場理由だ。叶歌とのエピソードは田中の真っ直ぐさが際立つ。かわいい幼なじみに好意を向けられても清水への想いが変わることはなかったわけだから。


 これでは叶歌がかわいそうでは? とも思ってしまうが、彼女は田中の「できるまでやればできる」を全うした。背が高いというコンプレックスを抱えた女の子が、長身をいかしたバレーボール選手として成長していく。「できるまでやればできる」という田中の一言が叶歌を強くした。


 たった一言が誰かを強くする。そんな隠れたメッセージが込められているのかもしれない。


(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))


■書籍情報
『ハイキュー!!』(ジャンプ・コミックス)既刊44巻
著者:古舘春一
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/haikyu.html


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