加藤&柳田の“ベテラン”コンビの経験と技が導いたロータスの勝利。チームの勢いは今後も続く!?《第2戦GT300決勝あと読み》

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2020年08月10日 09:11  AUTOSPORT web

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2020年スーパーGT第2戦富士 シンティアム・アップル・ロータス(加藤寛規/柳田真孝)
「めちゃくちゃ嬉しいですよ」

 スーパーGT第2戦富士のGT300クラスを制したシンティアム・アップル・ロータスの加藤寛規は、ふだんから柔和なコメントを残してくれるドライバーだが、レース後、ふだん以上の笑顔を弾けさせた。加藤にとっては、2013年にエヴァRT初号機アップルMP4-12CでJAF Grand Prixを制してはいるが、なんと10年ぶりのシリーズ戦でのGT300優勝。もちろんチームにとっても同様だ。パートナーの柳田真孝にとってもひさびさの勝利となったが、その勝利に繋がったのは、その苦闘した年月で積み重ねられたベテランならではの技と言えた。

 2019年最終戦もてぎ。オーナーとしてチームを率い、長年ドライバーとして戦ってきた高橋一穂が、GT300を退く決断を下した。「いい、悪いではなく、僕たちが紫電で戦っていた頃のGT300は、まだプロとアマチュアが組むレースだった。でもプロ化が進んで、コンペティションレベルが上がってしまった」と渡邊信太郎チーフエンジニアが語るとおり、いくらモータースポーツを、走ることをこよなく愛する高橋と言えど、GT300はハードルが高いレースになっていた。

 長年パートナーとして戦ってきた加藤は、高橋と2020年に向けてどんな体制を構築するのか相談に入った。そこで目をつけたのが、ともにカートでトレーニングをこなす間柄でもあった柳田だった。GT500で二度、GT300で二度のチャンピオンを獲得した経験をもつ柳田は、GT300マザーシャシーであるシンティアム・アップル・ロータスの開発を担う立場としても、そして速さの面でもうってつけの存在だった。2020年1月、柳田のチーム加入が正式に発表される。

 そんな柳田加入だったが、2回の公式テスト、鈴鹿でのメーカーテストと、開幕までに走ることができる回数は限られていた。加えて新型コロナウイルスの影響で長いインターバルも生まれていた。

 しかし、そこは柳田の経験が活きる。「ニュータイヤに慣れてもらうことも、かなり早いタイミングで習熟してくれた」と渡邉エンジニアが柳田を評すれば、加藤も「タイヤマネージメントもできるし、話も早いから楽ですよね。今年はテストもできていないし、データは取れていない部分もあるけれど、経験がいい方向で作用しています」と柳田の経験が加藤の経験と相乗効果を生み、「どんどんアイデアが出る。本当に助かってますよ(加藤)」と7月の第1戦をいいかたちで迎えていた。

 そんな第1戦では、公式練習から速さをみせたシンティアム・アップル・ロータス。予選3番手からレースを戦ったが、渡邉エンジニアによれば「前回の方が勝てるイメージはありました」というレースだった。ただ、ホイールナットがゆるむトラブルが起きてしまい後退を喫してしまっていた。

■「2戦目で恩返しできた」柳田真孝が結果を残す

 迎えた第2戦。予選ではふたたび3番手につけたシンティアム・アップル・ロータスだが、実はポールポジション獲得を狙って柔らかめのタイヤを使っていた。加藤はポールポジション記録もあとひとつ獲れば最多に並ぶ。ただ、これは叶わず、レースに向けてはどこまでもつか不安があるタイヤを履いてスタートすることになった。

 今回はタイヤ四本交換義務づけということもあり、ポールポジションのADVICS muta 86MCはタイヤ無交換作戦をこなせるブリヂストンを履く。タイヤがタレることは想像しづらかった。逆に、2番手のSUBARU BRZ R&D SPORTやシンティアム・アップル・ロータスは、もともと四本交換想定だ。ただ、いざレースが始まると、ADVICS muta 86MCは少しずつ後退を喫し、SUBARU BRZ R&D SPORTとシンティアム・アップル・ロータスのマッチレースの様相を呈していった。

 ロータスを駆る加藤は、少しずつSUBARU BRZ R&D SPORTのペースが落ちていくことを感じていたが、とはいえ加藤にもタイヤマネージメントに不安がある。特性も近いBRZを強引に抜くか、それともタイヤマネージメントに徹するか……。加藤はベテランならではのセルフマネージメントで、慎重にレースを進めていった。

「抜かれはしないだろうし、柳田選手が後半うまくやるだろうと思ってました。セーフティカーだけは入るなと思ってましたね」と加藤。

 先にピットに向かったのはBRZ。これでロータスには、相手の出方を見る余裕ができた。加藤はピットインまでプッシュし、左リヤがきつくなるとピットに連絡。渡邉エンジニアは加藤を呼び戻す。「ウチは攻めました(笑)」と給油時間を短縮し、見事柳田をBRZの前で送り出すことに成功する。

「絶対前に出られると思ったし、加藤さんのラップも良かったので、すごく自信になりました」という柳田は、2番手のBRZとのマージンをきっちりとコントロール。「ほぼプランニングしたとおり(渡邉エンジニア)」と、柳田はGT500で戦っていた2016年以来となる勝利のチェッカーを受けた。

「表彰台争いをするのもひさびさだったし、そもそもスーパーGTで乗っていなかったですからね。そのなかで、こうしてチームに拾ってもらったことが最大の喜びだし、感謝ですよね。僕の価値を分かって使ってもらった。僕もその恩を全力で返したかったし、2戦目で返せたのが本当に良かった」と柳田は喜んだ。

「前回も速さはあったし、今回も上位で争える感じはあった。でもまさか優勝できるとは思わなかったですね。それについては驚きもあった反面、やってきたことが間違っていなかったと確認できました。クルマが速いのは分かっていても、結果を出すことがやっぱり大事ですからね」

■高橋一穂が積み重ねた思いが“優勝”という結果に結実

 そんな柳田がレース前半の加藤の走りを見て「加藤さんは52歳だけど、あの走りはすごく若々しいですよね。いいコンビになっていると思います」と語れば、渡邉エンジニアも「お互いを高めてくれていて、いいコンビネーションが生まれていると思います」と、いま非常にチームの雰囲気はいい。この勝利で、さらにムードは高まっていくはずだ。

 そのチームの体制を作り上げた加藤に、高橋オーナーに報告したのかと聞くと「まだなんですよ。高橋さんは『あ〜あ、オレがいなきゃ勝つのか』なんて言うと思いますが(笑)」と笑った。

「でも、高橋さんの思いでロータスの本国を動かして、GTAにかけあってMCをリヤエンジンにして、こうしてエヴォーラMCができあがったからこそだと思うんです。高橋さんからは『ここまでしたんだから結果出せよ』とプレッシャーかけられているので、そのプレッシャーを楽しみながら今年はやりたいなと思いますね」

「それと、高橋さんにいまの状態のエヴォーラに乗せてあげたいです。テストの日だけひょこっと来るかもしれないですね(笑)」

 今季、新型コロナウイルスの影響で変則的なスケジュールを強いられているスーパーGT。さらに言えば、公式テストやメーカーテストは雨がらみが多く、各陣営ともデータ不足に悩まされている。そんななか、ドライバーふたりのベテランならではの技と知恵が、こうしてシンティアム・アップル・ロータスを嬉しい勝利に導いた。

 ちなみに、次戦鈴鹿では60kgのウエイトハンデを積むことになるが、もともとロータスは鈴鹿が最も得意。「自信はあります。コケたら笑ってください(笑)」と渡邉エンジニア。今後、今季のGT300の中心に躍り出る可能性も十分にありそうだ。

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