笑っちゃうけど笑えない政治“喜劇” 調査報道で議員の不正を暴いた地方局の奮闘が映画に

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2020年08月10日 11:10  まいどなニュース

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写真映画「はりぼて」について語る五百旗頭幸男監督=大阪市内
映画「はりぼて」について語る五百旗頭幸男監督=大阪市内

「自民党会派の富山市議、政務活動費で事実と異なる報告」――。

【写真】映画「はりぼて」の一場面

2016年8月、「富山市議会のドン」と呼ばれた重鎮の不正に関するスクープを放ったのは、1990年に開局したばかりの富山県のローカル局「チューリップテレビ」だった。この報道を端緒に、富山市議会では同様の不正受給が相次いで発覚。半年の間に市議40人(当時)のうち14人が辞職するという前代未聞の事態に発展する。8月16日から全国の劇場で順次公開されるドキュメンタリー映画「はりぼて」は、この4年間に富山市で何が起きていたのかを粘り強く取材した作品。一連の報道に記者、キャスターとして関わってきた五百旗頭幸男(いおきべ・ゆきお)監督に話を聞いた。

■「この議会、おかしいぞ…」独自の調査報道を開始

“辞職ドミノ”の発端は、16年4月に突如浮上した議員報酬の引き上げ案だった。議員定数を2削減するのに伴い、月額60万円を一気に10万円以上引き上げようとする不可解な動きと、特別報酬等審議会が即座に「引き上げは妥当」と答申したことに違和感を覚えた市政担当の砂沢智史記者(当時。映画では五百旗頭監督と共同で監督を担当)が、審議会の議事録、そして議員に毎月支給される政務活動費の支出伝票を情報公開請求したことで、事態は思わぬ方向に転がり始める。

何千枚もの伝票を1枚ずつ調べていくうち、取材チームは高額すぎる印刷代や、不自然に実施回数の多い市政報告会など、疑わしい支出がいくつもあることに気づく。事実関係の裏づけをどう進めるか。直撃された議員は疑惑についてどう釈明するのか―。記者と議員たちの息詰まる攻防戦はしかし、何故か次第に滑稽なコメディの様相を呈していく。

■どこか憎めない議員たちの滑稽な人間臭さ

「16年末に、不正を明るみにしたそれまでの報道をドキュメンタリー番組としてまとめることになり、ディレクターを任されたのを機に、編集前の膨大な映像素材をまとめて見直しました。すると、ニュースではカットされていた議員と記者とのやりとりが、妙に人間臭くて面白いんですよ。ここを生かせばコメディタッチで作れるな、と、そのときに思いました」

映画「はりぼて」は、不正に手を染めた議員たちをわかりやすい“悪”として見せるのではなく、「どこか憎めない部分」に焦点を当てることで、白黒で簡単に割り切れない複雑さを描き出す。カメラはさらに、疑惑を追及する側であるメディアが組織として抱える構造的な問題、そして不正が相次いでもなお市政に対する関心が低いままの市民にもその矛先を向けていく。

「映画であぶり出したかったのは、自民党1強体制が常態化した、国政の縮図のような富山市議会や市当局の腐敗だけではありません。それを半ば当然のこととして受け入れてきた地元メディアと市民のあり方も含めた4年間の実相です」

■「メディアは舐められている」

辞職ドミノを教訓に、富山市では政務活動費の使い方について「日本一厳しい」とされる条例が制定された。その一方で、17年4月の市議選を終えると、議員たちは「禊は済んだ」とばかりに、同様の不正が発覚しても辞職せず居座るようになった。「残った者勝ち」の空気が蔓延していく様子を目の当たりにして、五百旗頭監督らは「報道しても何も変わらない」と無力感に襲われることもあったという。

「正直、メディアは議員に舐められています。謝罪会見さえしのげば、どうせ報道も続かないし、担当記者もそのうち交代するだろうと見透かされている。実際、辞職ドミノが続いていた時期は各社の取材も過熱していたのに、市議選後は追及が甘くなった。議員たちが辞めなくなったことの責任の一端は、間違いなくメディアにもあると感じています」

だからこそ五百旗頭監督は、試写などで「はりぼて」を見た同業他社が「うちの社にはこんなことはできない」という感想を口にすることに、「それは『できない』のではなく『やろうとしていない』だけ」と、もどかしさを募らせる。

「メディアの自制や萎縮が、このような事態を招く一因にもなる。大切なのは、我々が覚悟を決めること。報道に携わる人たちには、そのことをあらためてよく考えてほしいと思います」

■意識の変化、少しずつでも

チューリップテレビの調査報道はギャラクシー賞や菊池寛賞、日本記者クラブ賞など数々の賞に輝き、一躍その名を知られるように。だが映画の終盤、砂沢記者は異動で報道現場を離れ、五百旗頭監督も退社して他県の民放に移るという、まさかの展開を見せる。

その理由は明確には語られないが、五百旗頭監督は「砂沢やプロデューサーの服部寿人(社長室長兼メディア戦略室長)は覚悟を決めて会社に残り、映画を公開するために会社側と向き合ってくれた。そして最後は、会社側もそれを受け止めてゴーサインを出した。そのことの重みはしっかり感じてもらいたい」と話す。

「この映画によって、何かがいきなり劇的に変わるとは思っていません。それでも、見た人の意識に少しでも変化が生まれるのなら、公開する意義はあると信じています」

映画「はりぼて」は8月16日からユーロスペース(東京)、22日から名演小劇場(名古屋)、第七藝術劇場(大阪)で公開。その後、全国の劇場で順次公開される。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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