ヘヴィ・ロックの雄「DIR EN GREY」のギタリストが激白 「ライブがやれないならバンドの存在価値はない」

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2020年08月10日 11:30  AERA dot.

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写真「DIR EN GREY」のギタリスト・薫(撮影/写真部・張溢文)
「DIR EN GREY」のギタリスト・薫(撮影/写真部・張溢文)
 今、ロック界はかつてないほどの激震に見舞われている。2月に大阪市のライブハウスでクラスターが発生して以来、ほとんどのロックバンドはライブ活動の場を失っている。だが、ウイルスによる閉塞感に満ちた世の中だからこそ、ロックで救われる人もいるはずだ。当のミュージシャンはこの状況をいかに突破しようとしているのか。日本を代表するヘヴィ・ロックバンド「DIR EN GREY」のギタリスト・薫がインタビューに応じた。

【写真】独特のオーラを放つDIR EN GREYの薫

*  *  *
――コロナ禍でDIR EN GREYのライブ活動にも大きな影響が出ています。3月下旬〜4月下旬に予定されていた全国ツアーと、7月23、24日のぴあアリーナ MMでの2DAYSは相次いで開催中止が発表されました。薫さんはこの決定をどう受け止めていますか。

薫 まず、ツアーに関しては緊急事態宣言前で、どのような対策を取れば開催できて、何がダメなのかという基準もはっきりしない状態でした。対策の方法が明確にならないなかで、延期、再延期を繰り返すべきではないということで中止に至りました。ぴあアリーナ公演は、ギリギリまでやれる方向を探りました。アリーナはスタンディングから固定の席に変えて、客席も間隔を空ければ、人数的にはどうにか可能だろうとか、さまざまなシミュレーションをしました。でも、会場の換気が義務付けられているなかで、たとえば演出でスモークをたいても煙がすべてそちらに流れていってしまうなど、バンドが表現しようとすることができないこともわかってきた。また、会場に来たくてもこの状況では来られないお客さんも多いだろうと。アリーナクラスのライブで、十分に環境が整わないのに「やる」ことだけにこだわるべきではないと判断し、悔しいけれど、開催は断念しました。

――公式ホームページには、「先日政府から出されたライブ開催におけるガイドラインに従った上で、バンドの本質である『表現』を成立させる事が可能かと検討致しましたが不可能と考えざるを得ず、中止という結論に至りました」と記載されています。薫さんにとって、DIR EN GREYがライブで成すべき「表現」とは何だと考えていますか。

薫 極端にいえば、音を出せれば曲は演奏できます。でも、うちらのライブはMCであおって、客席でモッシュやダイブで暴れるというものではない。照明、映像、音響、演出があって、そこにメンバーが立っているという「絵」があって成り立つステージです。お金を払ってライブに来てもらっている以上、自分たちが見せたいステージができないのであれば、それは「表現」とは言えないと思います。

――行政や業界団体が求めているガイドラインについては、どう思いますか。客同士の距離を前後左右1メートル以上あける、客席からは大声を出さないことなどが求められています。一時は、演者(アーティスト)がフェイスシールドをすることなども議論されました。

薫 フェイスシールドをしろとか、ボーカルがシャウトするなとか、そういう話になったら絶対に無理ですね。バンドの存在を否定されているようなものですから。メンバーがフェイスシールドをしながらライブをするとかありえないでしょう(笑)。客席から大声を出さないというのは可能かもしれないけれど、お客さんがロックバンドのライブに来る動機は日常のストレス発散とか、現実逃避とかそういう面もあるはずです。そこで一緒に歌えない、叫べないライブが、本当にロックバンドのライブと言えるのかという疑問はあります。

 ただ、ロックバンドのライブは「コロナ以前」には戻れないだろうとも思います。特にオールスタンディングのライブハウスで密集しながら盛り上がるような形は、コロナが収束しても難しいんじゃないかな。一度、コロナへの恐怖心を植え付けられたら、あの空間に入っていけない人は増えるはずです。そうなったら、ぐちゃぐちゃになって一緒に楽しむというライブ形式自体が成り立たない。それは、うちらも覚悟しておかなければならないと思います。

――もし、コロナ後にライブの在り方が変容すれば、DIR EN GREYの表現も変わりますか?

薫 そこは変わらないですね。うちらの場合は、ステージで世界観を作って、そこにお客さんが入り込んで盛り上がっていくスタイルなので、グチャグチャ系のライブとは少し違う。ホールでも通用する世界観が作れることがバンドの「表現」なのだから、そこを変える必要はない。表現を変えるのではなく、特にライブハウスでやる場合は、会場の作り方を変えていくことになると思います。たとえば、ステージと客席の間に巨大な幕を張るとか、密にならないようにブロックを作るとか、どうやったらライブハウスで公演できるかを模索する必要はあると思います。

――そもそもロックは社会の“常識”や“規範”から外れたところで表現の自由さが生まれ、ファンもロックバンドのそうした姿勢に魅了される部分はあると思います。感染症対策とはいえ、政府から「ライブはするな」と言われる現状に対して、ロックミュージシャンとして歯がゆさを感じることはないですか?

薫 うちらは国に言われたからやめたというよりも、見に来てくれるお客さんを第一に考えて判断しています。周りの人が気になって、感染ばかりを警戒して、ステージに集中できない環境では、うちらもパフォーマンスを発揮できないし、お客さんだって楽しくない。その状況ではやることに意味はない、という判断なんです。

 そもそも、国はこの先もロックバンドのライブを「どんどんやってくれ」なんて言わないでしょう。できるなら「やめておいてくれ」というのが本音だろうから、どこかで自分たちが「これならやれる」と判断した段階で、自発的にライブを再開していくしかないと思います。対策をしながら、すでにライブをやっているバンドもいます。世間からの批判もすごく大きいと思いますが、自分は彼らを応援したい。そういうバンドが少しずつ増えて、一歩でも前進して、実績を積み上げていくしかない。だから、今動いているバンドには本当に頑張ってほしいし、DIR EN GREYも「やれる」となったらすぐに動きたい。ライブがやれない状況は、極端にいえば、バンドが存在していないのと同じです。ステージこそが表現の「場」だと思っているので、それがなくなったら自分たちは音楽をやっている意味がない。だからこそ、中途半端な環境ではなく、納得できる形でライブを再開するために試行錯誤しています。

――薫さんは今年3月から「The Freedom of Expression」というYouTubeチャンネルを開設して「表現の自由」をテーマにして、時事問題についても意見を発信しています。前身のラジオ番組から数えると5年にわたって番組を続けていますが、個人でこうした活動をしようと思ったのはなぜですか。

薫 決して政治や経済に詳しいわけでもないですけど、バンドマンとして、一人の表現者として、自分の立場に置き換えて、今の社会をこう見ていると意見を言うことはできますよね。それが世間にどう映って、どう伝わって、自分に跳ね返ってくるのか。そこに興味があって始めたところが大きいですね。とはいえ、知らないことはしったかぶっても仕方ない。共演してもらっているラジオDJのジョー横溝さんと東京スポーツの田才記者がいてくれるからバランスが取れているし、成り立っています。お二人がいるから、自分の立ち位置から物事を言えるし、別の意見を聞けて勉強になりますね。

――かつては、ミュージシャンは音楽以外のことをあまり話さない方がいいという風潮もありました。ファンは音楽が好きなのであって、それ以外の言葉は余計だと。一時期は「音楽に政治を持ち込むな」という議論もありました。その点を薫さんはどう感じていますか。

薫 ミュージシャンはこうあるべきだ、みたいに決めつけなくていいんじゃないですかね。ファンの人が単純にアーティストとして見たいという気持ちもわかりますが、そのアーティストだって1人の人間であり、意見は持っているわけでしょう。ファンの人もその意見を聞かない自由もあるし、作品だけを見る自由もあるわけです。ロックってそもそも自由なものなんだから、そんなに凝り固まる必要はないと思うんです。ミュージシャンが自分の発言に責任持ってやれるか、やれないか。それだけだと思います。

 あと、自分たちはしょせんロックバンドです。はっきり言って、世の中は救えないですよ。本当の危機的状況で、すぐ横の人がバタバタ倒れている状況のなかで、音楽はその人たちを直接的には救えない。ミュージシャンは、そういう時には無力です。だからこそ、音楽を聴く余裕がある、音楽を楽しめる世界であってほしいと願っています。

――そういう意味では、今はコロナ禍という危機的な状況だともいえます。コロナ時代におけるロックの意味とは何だと思いますか。

薫 すごく難しいですね……。たとえば、外ではいつも気を張っていなければならない状況のなかで、家に帰ってから、1日のうちに数分でも自分たちの音楽に触れたいと思ってもらえるのであれば、それはひとつの存在意義だと思います。あとは、この状況に「屈しない」という姿勢をみせていくことも役割かもしれません。世の中の動きが止まってしまっている時こそ、ロックバンドがどこかに風穴を開けて、前進している姿をみせることもできる。それは新しいライブの様式かもしれないし、楽曲の伝え方かもしれない。その意味で、DIR EN GREYも常に前に進み続けなくてはいけない。コロナなんかに屈したくはないですね。

(取材・文=AERAdot.編集部・作田裕史)

DIR EN GREY(ディル アン グレイ)
京(Voice)、薫(G)、Die(G)、Toshiya(B)、Shinya(Dr)によるロックバンド。メタル、ハードコアから民俗音楽までさまざまなジャンルを織り交ぜた楽曲は強烈なオリジナリティーを放つ。1999年にメジャーデビューし、その過激なステージパフォーマンスも大きな話題を呼んだ。国内で日本武道館など数々のホールツアーを成功させてきたほか、2002年以降はアジア、全米、ヨーロッパなど世界各地でツアーを敢行している。8月3日に発売した新曲「落ちた事のある空」は5日付のオリコン「デイリーデジタルシングルランキング」及びiTunesの「ロックランキングシングル」で1位を獲得した。

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  • 丁寧に思いを伝えてくれる。 それだけでもう、なんか泣けてくる…
    • イイネ!3
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  • 関ジャニ∞安田にしか見えなかった………
    • イイネ!20
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