もはや伝説的存在 “超豪華編成”として活躍した「夢空間」ってどんな列車?

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2020年08月11日 10:30  AERA dot.

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写真東京都江東区にあるレストランアタゴールは「夢空間」が店の一部となっている(c)朝日新聞社
東京都江東区にあるレストランアタゴールは「夢空間」が店の一部となっている(c)朝日新聞社
 JR東日本の超豪華編成として1編成3両のみが在籍していた「夢空間」。かの有名な「オリエント急行」をモチーフに1989年つくられたこの列車は、2008年の引退まで一般営業列車として走ったものの、運行実績はわずかにとどまり、幻の豪華列車とも呼ばれている。ありし日の姿を乗車ルポを交えて紹介してみよう。

【写真】いまではまさに幻のチケットはこちら

*  *  *
■バスタブつき寝台車やピアノつきラウンジなど、まさに夢の空間!

「えっ、キャンセルが出たんですかっ!?」

 思わず歓喜の声を挙げると、顔なじみの駅員が「ニヤリ」とした表情で切符を発券してくれた。「特急券・A寝台券」大人2名・56180円ナリ……。安月給の身にはいささか痛い出費だが、念願の1枚を入手した喜びに勝るものはない。

「北斗星トマムスキー号」──。1991年1月10日から横浜〜トマムで運行をはじめた臨時特急列車で、人気を集めていたトマムへのスキー客をターゲットにした寝台列車である。しかし、私の目的はこの列車そのものにあった。通常の寝台車のほか、「夢空間」と名づけられた特別車両が連結されており、そのデビュー以来、いつか乗ってみたいと熱烈に思い続けていたのである。

「夢空間」は、上野〜札幌を舞台に1988年3月にデビューした特急「北斗星」の好評を受けて、そのわずか数カ月後に計画が立ち上がった特別編成だ。「北斗星」は室内に専用シャワー室を持つA個室寝台「ロイヤル」や予約制フルコースディナーなどを提供する食堂車「グランシャリオ」など、従来の寝台列車とは一線を画す意匠で人気を呼んでいたが、その需要に応えつつ新たな発想による次世代の寝台列車の試作プロジェクトが始動したのであった。

「ロイヤル」など個室寝台車両は改造によって誕生していたが、「夢空間」は完全な新車として製作。先々の営業運転を見越しつつ、当面はその翌年(1989年)に開催される横浜博覧会のJR東日本ブースに出展することとなった。こうして、現行の「北斗星」も下敷きにしながらも、それまでに類のない編成が姿を現わすこととなったワケだ。落成したのは次の3両である。

・オロネ25−901:デラックススリーパー(2人用A個室寝台)
 ツインルーム3室からなり、1両の定員はわずか6人。1室はベッドルームとリビングルームなどからなる特別室「エクセレントスイート」(寝台料金6万6000円/2名)、2室は「スーペリアツイン」(同5万円)で、いずれもホテル並の面積と設備を備えることとなった。各室内にはバスタブつきのユニットバスを設けたほか、衛星放送対応のAVシステム、テレホンカード式電話など、意表をつく設備が揃う。内装は「オールド・ニュー」をコンセプトに、アールデコ調にデザイン。「スーペリアツイン」が線路向きの2台のベッドが並ぶのに対し、「エクセレントスイート」では「┌」状となっている点がスペースの限られた鉄道車両らしいところだが、ベッド幅は120センチと余裕たっぷりだ。

・オハフ25−901:ラウンジカー
 パブリックスペースとして、「知的遊空間」をテーマに内装等をデザイン。中央部に半円形のバーカウンターを設け、フロアにはラウンジチェアを14脚配し、ホテルのバーに劣らない大人の社交場を実現している。「オリエント急行」を意識したのか、カウンターの傍らには自動演奏対応のアップライトピアノが置かれているのも、従来のロビーカーなどとは異なるアイデアとなった。当初はバーテンが乗務しバー営業があったが、私が乗ったころはすでに廃止されていた。

・オシ25−901:ダイニングカー
 最後尾に連結される食堂車で、4人テーブルと2人テーブルがそれぞれ3脚つづ配置されているほか、中央部に個室も設けられている。ダイニングルームには高さ1160ミリ、幅1790ミリの大型窓が配され、非貫通となった後部窓からの展望も抜群。私が乗車したさいは、夕食と朝食のほか、夕食後の「パブタイム」では隣接するラウンジカーへのケータリングサービスも実施されており、贅沢なひとときを満喫することができた。

 残念ながらいずれの車両も引退して久しいが、「デラックススリーパー」と「ラウンジカー」は埼玉県三郷市のショッピングセンター「ららぽーと新三郷」で展示され、「ラウンジカー」は車内が休憩スペースとして時間を区切って解放されている。また、「ダイニングカー」は東京都江東区木場のフレンチレストラン「アタゴール」でダイニングとして活用されている。「アタゴール」のシェフ・曽村譲司氏は「オリエント急行」のシェフを務めたキャリアの持ち主。まさにあるべき場所に伝えられた幸せな車両ともいえるのではないだろうか。

■仰天と感激の連続だった「夢空間」乗車記

「なにこれ? まるでディズニーランドじゃないの!」

 列車がホームに入線するや、連れが歓声を挙げた。「ディズニーランドはちょっと違うような……?」と苦笑したが、非日常的な物体を目の当たりにした驚きは十分に伝わってきた。もとい、私としても贅沢かつ貴重すぎるメインディッシュとのご対面に興奮が隠せない。改札のさい、駅員が「おっ?」という面持ちで寝台特急券を見つめていたのも、ちょっとした優越感だったりもしたが……。

「北斗星トマムスキー号」トマム発横浜ゆき。スケジュールの関係から、全区間の乗車を断念し、苫小牧から新宿までをこの列車で過ごす。奇跡のブッキングを果たしたのは「夢空間」の「スーペリアツイン」である。

 さっそく部屋を訪れる。10センチほど高床になっている自室に、靴を脱いであがる。連れはベッドの座り心地やらバスルームの探検やら、私以上に手当たり次第という風情だが、「ちょっと、電話よ、電話!」と室内の壁に据え付けられたカード式電話に驚いていたようだ。当時は携帯電話などSFの世界にすら見当たらなかった時代である。使う使わないはともかく、面白いサービスだなとは思ったものだ。

 発車して間もなく、葡萄酒やつまみなどのルームサービス。「北斗星」の「ロイヤル」などでお馴染みだったイベントだ。

「ソファに座ってるとテレビしか見えないね。それに少し硬くて小さいし」

 乾杯しながらそんな感想も。最高級の「エクセレントスイート」には対面式のソファセットがあるのを雑誌を通して知っていたが、多少の不満もまた鉄道車両の楽しさではないかと思った。

 夕食は予約制ではなかったので、ころあいをみはからいつつ食堂車へ。しかし、その手前にあるラウンジカーに腰を据えてしまった。連れはレストルームの豪華さに驚き「ちょっと、ちょっと!」と手招きをするが、スペースといい調度といい、一流ホテルのそれに引けを取らないレベルの仕上がりに、私もまた仰天。

 そして、待望のディナーを憧れのダイニングカーで満喫、再びラウンジカーでくつろいでいるうちに青函トンネルが近づいてきた。実はちょっとしたこだわり(?)で、青函トンネル通過中にたっぷりと湯をためたバスタブに浸かってみたいと企んでいたのである。はたせるかな、それはその通りになったが、いまになれば、そんな経験はたぶん二度とできないのだろうなぁとも思う。

 列車は快適な眠りを乗せて一路首都圏へ。最後尾から流れ去る車窓を満喫しつつ朝食を楽しむが、大宮駅に停車するや、ホームに並ぶ人々から一斉に視線が向けられたのには参った。こちらもこのあと新宿で列車を後に出勤である。どうか会社関係者に見つかりませんように……。

「夢空間」連結列車は、このあとも臨時特急「夢空間北斗星」や「夢空間北東北」などで体験する機会を得た。あるときは「あれ? 先だってもご利用なさってましたよね?」と笑顔で出迎えてくれた食堂車クルーと談笑したり、酔った勢いでラウンジカーのピアノを演奏してみたりと楽しい思い出となっている。別れあれば出会いもあり。鉄道の旅もまだまだ続くのであった。(文・植村 誠)

植村 誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。

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  • あり?画像って「デラックススリーパー」でない?ちなみに一度だけ「夢空間北斗星」に乗ったことあるwいや勿論「ソロ」ですけどwww
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