「インプラントは人工物だから歯周病にならない」は間違い 天然歯に比べ防御が弱い理由

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2020年08月15日 17:00  AERA dot.

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写真(イラスト/渡辺裕子)
(イラスト/渡辺裕子)
 失った歯を補う治療としてインプラント治療があります。人工物を埋め込むので、まさか歯周病になるなんてことはない、と思っている人がいるかもしれません。しかし、それは大間違い。むしろ、人工物だからこそ、歯周病になりやすいといえるのです。日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会は、国民に歯周病について正しい情報を伝える公式本『続・日本人はこうして歯を失っていく』を発刊しました。本書から、インプラント周囲炎について抜粋して届けします。

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 インプラント治療後に注意しなければならないトラブルの代表がインプラント周囲炎です。インプラント周囲炎は、天然歯で起こる歯周病と同じように、歯周病菌によってインプラントの周囲の歯肉に炎症が起きたり、インプラントが埋入されている歯槽骨が破壊されるものをいいます。

「インプラントは人工物だから、歯周病にならないのでは?」

 と思っている人がいますが、それは違います。インプラント体は歯槽骨と結合し、インプラント上部の周りには歯肉があります。インプラントは人工物ですが、支えている周りの環境は天然歯とよく似ているからです。

 また、歯周病の原因となるプラークは、人工の歯やそれを支えるアバットメント(支台部)、インプラント体のいずれにも付着します。このため、清掃ができていないと歯周病菌が繁殖し、歯肉や歯肉の奥に入り込み、歯周病と同じようにインプラント周囲の組織を破壊していくのです。

 インプラントが天然の歯に比べ、歯周病に感染しやすい理由として歯肉の防御機構が弱いことが挙げられます。天然歯の場合、歯肉の結合組織は歯根に対して垂直に走っており、強く結合しています。ところがインプラントでは、ほとんどのインプラントが金属のため、インプラントに対して歯肉が密着しているだけなのです。このため、インプラントを入れた部分は歯肉が剥がれやすく、歯周病で炎症を起こすと歯肉の奥に広がりやすいのです。

 もう一つはインプラント周囲の歯肉の血流が少ないことです。歯肉で歯周病菌が増殖を始めるとからだはなんとかして菌をやっつけようと、毛細血管の血流を通じて病原菌を殺す働きをする白血球を歯肉にたくさん送り込んできます。つまり、歯肉が炎症を起こすのは血流が豊富になり、白血球が歯周病菌と戦っている証拠です。この戦いにからだが勝てば歯周病の勢いもおさまります。一方、インプラントを囲む歯肉は歯根膜という組織がないために天然歯に比べて毛細血管の数が減っています。このため血流が不足しやすい状態になっているのです。

■最悪の場合、インプラントを抜かなければならない

 インプラント周囲の疾患は、進行状況によって2つに分類されます。症状が歯肉にとどまり、出血や排膿などの異常がないものを「インプラント周囲粘膜炎」、歯槽骨の破壊が起こっているものを「インプラント周囲炎」と呼びます。

 日本歯周病学会が実施した「歯周病患者におけるインプラントの実態調査」では同学会の診療施設で歯周病治療後にインプラント治療を実施した34の機関、267症例(治療終了後3年以上が経過し、2012年10月〜2013年9月にメインテナンスを受けた患者)を対象にどのくらいの人がインプラント周囲炎やインプラント周囲粘膜炎を発症したかを調べました。その結果、インプラント周囲粘膜炎は33・3%、インプラント周囲炎は9・7%という結果が得られました。

 これは歯周病専門医がいる施設での調査です。インプラント治療をおこなっている歯科医院は多数ありますから、実際にはもっと高い割合で発症していると考えられます。インプラント周囲炎が進行するとインプラントが埋入されている歯槽骨が破壊され、最悪の場合インプラントを抜かなければならなくなります。せっかく入れたインプラントを長持ちさせるためにも予防対策が重要になってきます。

■こんな人がインプラント周囲炎になりやすい

 インプラント周囲炎になりやすい人も明らかになっています。まずは歯周病があること。歯周病をきちんと治さずにインプラント治療をおこなうと、歯周病菌がインプラントにも感染する可能性が高いためです。また、インプラント治療後にセルフ・ケアやメインテナンスを怠ると、インプラント周囲の細菌が増えるために、やはり、インプラント周囲炎が発症しやすくなります。喫煙もリスクと考えられています。

 このほか、糖尿病やアルコール摂取、遺伝的要因などが影響する可能性も指摘されています。

 また、口の中の問題としては、隣り合った歯の状態、かみ合わせやブラキシズム(歯ぎしり)などの問題で、インプラントにかかる過度な負担もインプラント周囲炎のリスクとなりえます。

 インプラント周囲炎にならないためにはインプラント治療の前に歯周病の治療をきちんとおこなうこと、インプラント治療後は天然歯の部分と同じくインプラントを入れた部分のセルフ・ケアを丁寧にし、プラークコントロールを維持することが大事です。セルフ・ケアの方法については主治医や歯科衛生士がやり方を教えてくれます。

 また、メインテナンスは主治医に指示された通りに受けましょう。インプラントの部分だけでなく、天然歯についても歯周病が悪化していないかをX線検査などと併せて確認し、異常があれば早期に対処してもらうようにしましょう。なお、こうした背景から、インプラントを入れる場合は歯周病に詳しく、メインテナンスをきちんとしてくれる歯科医師を選ぶことをおすすめします。

■インプラント周囲炎になってしまったらどうするか

 インプラントを入れている部分に出血や腫れなどの異常を感じたら、できるだけ早く受診しましょう。インプラント周囲粘膜炎の段階であればプラークコントロールにより、よくなることが多いのです。かみ合わせの不具合などが、この炎症の引き金になっている場合はかみ合わせの調整をおこないます。また、インプラントの周囲に健康な角化歯肉を移植し、インプラント周囲の歯肉の防御機構を高める方法も一部の歯科医院ではおこなわれています。

 インプラント周囲炎に進行している場合は外科的治療も検討します。炎症の起こっている歯肉を取り除いたり、歯肉を切開して本来歯肉や歯槽骨に埋まっているインプラントを露出させて、その表面を洗浄・殺菌や研磨したりする治療で、再生療法で骨を増やす治療などもあります。このようにインプラント周囲炎の治療は年々、進歩しており、その結果、インプラントを抜かなければならないケースは減ってきています。

 一方で、こうした治療がどの歯科医院でもおこなわれているわけではありません。中には科学的根拠が十分でない治療法もあります。また、インプラント周囲炎の治療はインプラント治療と同様に自由診療になるので、どのような処置を受けるか慎重に決めるようにしてください。

※『続・日本人はこうして歯を失っていく』より

≪著者紹介≫
日本歯周病学会
1958年設立の学術団体。会員総数は11,739名(2020年3月)。会員は大学の歯周病学関連の臨床・基礎講座および開業医、歯科衛生士が主である。厚労省の承認した専門医・認定医、認定歯科衛生士制度を設け、2004年度からはNPO法人として、より公益性の高い活動をめざしている。

日本臨床歯周病学会
1983年に「臨床歯周病談話会」としての発足。現在は、著名な歯周治療の臨床医をはじめ、大半の会員が臨床歯科医師、歯科衛生士からなるユニークな存在の学会。4,772名(2020年3月)の会員を擁し、学術研修会の開催や学会誌の発行、市民フォーラムの開催などの活動をおこない、アジアの臨床歯周病学をリードする。

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  • 早く再生治療を受けられるようにならないかなぁ。
    • イイネ!1
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