『ザ・ノンフィクション』難病に見えない難病の人たちの苦悩「それでも僕は生きていく 〜ももちゃんとの約束〜」

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2020年08月17日 21:32  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。8月16日は「それでも僕は生きていく 〜ももちゃんとの約束〜」というテーマで放送された。

あらすじ

 香取久之、49歳。17歳で126万人に1人の希少難病アイザックス症候群を発症する。発作時は時にモルヒネを使うこともあるほど手足に強く焼け付くような痛みが出て、有効な治療方法も見つかっていない。香取がアイザックス症候群と診断されたのは34歳のときで、発症から17年間医療機関を原因不明とたらいまわしにされ、時に精神的なものではと疑われる不遇な日々を過ごしてきた。

 治療法の見つからない難病と共に生きる香取だが、それでも自分の病名がわかり、同じ病気を持つ人とつながることで「人生が一変した」と話し、その経験から大手企業を退社し、NPO法人「希少難病ネットつながる」を立ち上げる。しかし思いはあれど、事業はぱっとせず、退職金を食いつぶしても足りず、借金を抱える赤字経営が続いている。幼子を抱える妻は苦悩し、経営コンサルタントや、香取同様に難病患者でありつつも社会起業家として成功している近藤からは厳しい言葉をかけられる。さらに、香取にステージ4の大腸がんが見つかり、すでに肺と肝臓に転移している。

 それでもめげない香取は、足こぎ式のペダル式車いす「コギー」(COGY)と出会う。コギーは、右脚が動けば左脚が動くという脊髄の「原始的歩行中枢」を活用して車いすを動かす仕組みで、電動車いすで生活している人も動かすことができる。香取はコギーの代理店になり、、18トリソミーという難病を抱える少女、ももちゃんにコギーで動いてもらおう、と考える。幸い香取のガンの手術は成功し、ももちゃんも特訓ののち、コギーを動かせるようになる。

外見は「普通」に見える難病患者の苦しみ

 香取は、外見からは難病を抱えているようには見えない。スーツが似合う、姿勢の良いスラッとした男性だ。発作時以外は健康な人と変わらず、車椅子に乗っているわけでも、顔色が悪かったり、まっすぐ立つのもおぼつかないなど「つらそう」な感じで過ごしているわけでもない。

そして、番組内では香取以外にも「難病に見えない難病の人たち」が出てくる。薬局の店主をしながら香取の活動を副代表として手伝う清水も、後縦靭帯骨化症という難病患者で、背骨にボルトが埋め込まれている。取材時は片手に杖をついて帰宅していたものの、がっちりめの体格で、笑顔を交え話す清水はむしろ精力的な人という印象だった。そんな自分を客観視して、「(子どもに自身の病気の)話をしても理解できないと思っていたからね」と清水は話す。清水の小学生の子どもは番組の取材を通じ、父親の病気が一生共存していくものであることを初めて知って「治らないんだ……」と驚いていた。

さらに、月に30万円分もの薬を飲むSLE(全身性エリテマトーデス)患者の近藤は、ステロイドの服用により、スカートで隠した足にはアザのようなものが点在しているのだが、初見で「この人はやり手に違いない」と感じさせる貫禄があった。近藤は20代で会社を立ち上げ、病気発症後も社会起業家として成功し、末期ガンと認知症が進む母親を自宅介護するなど、実際にエネルギッシュだ。

 体の健康が損なわれると心も滅入ってしまいがちだが、今回の番組に出てきた難病の人たちを見て「本人の健康状態」と「その人のバイタリティ」は必ずしも関係しないのでは、とも思った。逆に、難病であることがその人に「負けない」「やってやる」と火をつけ、奮起させている面もあるのかもしれない。

一方、彼彼女らが難病患者であることは変わらないし、「自分の困難さをわかってもらいにくい」という希少難病ゆえの苦悩も抱えている。そんな香取や近藤がカバンにつけていたのが「ヘルプマーク」だ。赤地に白十字とハートマークのついたもので、「外見から分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマーク」(東京都ホームページより)とあり、東京都発案のものだが、今では多くの自治体で採用されている。街でこのマークをつけている人を見かけたら配慮を心掛けようと思う。

香取の活動が続いていくために必要なこと

 番組内でとても印象的だったのは、電動車いすで生活していた人が、足こぎ式車いす、コギーを自分の脚で動かしているときの笑顔だ。自分の脚を動かすことができる気持ちよさなのか、自力で車いすを動かせることの気持ちよさなのか、とても良い笑顔だった。

 さまざまなことを知れた回だったが、これは香取がNPOを通じ、多くの難病患者とつながってきた活動によるものだ。希少難病の患者たちは、病の苦しみだけでなく、「わかってもらえない、わかってもらいにくい」という苦しみも抱えている。これらの人たちにとって、同じ境遇の人たちとつながることの価値はとても大きいものなのだろう。

 ただ2点、気になったことがある。一つはももちゃんへの香取の思いだ。番組を見る限り、ももちゃんはそれまで紹介されてきた「ぱっと見難病に見えない人たち」とは異なり、車いすの生活で1日に何度もてんかん発作があるといい、言葉を話すことも難しいように見えた。そのため、「コギーに乗りたい」というのはももちゃんの意志でなく、香取側だけの思いであるように見えてしまった。香取はももちゃんを「みんなの希望」とも話していたが、他人の思いから「シンボル」にされるというのも、ももちゃんにしてみたらどうなのだろうかと引っかかった。

 もう一点気がかりなのが、妻も苦悩している香取の経営センスだ。経営コンサルタントや近藤が香取の事業に対し、かなり辛辣な評価をしているにもかかわらず、香取は次々と新規事業を始めてしまう。どれだけアドバイスしても香取がさっぱり懲りないので、「もう少しこっちの話も聞いてくれ」と言う側も相当な不満を持っているのではと思った。

 貴重な活動は、続けてこそ意味あるものだろう。譲れない大義があるとは思うが、妻をはじめ周囲の声にもぜひ耳を傾けてみてはと思う。

 次週のザ・ノンフィクションは「歌舞伎町 便利屋物語 〜人生を変えた この街で〜」。歌舞伎町で年中無休で働く便利屋「親孝行」の由藤神一。歌舞伎町を第二の故郷と思い、時に自宅に帰れないほど身を粉にして働いている。その歌舞伎町に新型コロナウイルスの嵐が吹き荒れる。渦中の由藤や歌舞伎町の暮らしを見つめる。

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