運輸業のDXを推進する「MaaS」は、コロナ禍でどう成長するのか

0

2020年08月25日 07:02  ITmediaエンタープライズ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmediaエンタープライズ

 アマゾンウェブサービスジャパン(以下、AWSジャパン)は2020年8月19日、次世代移動サービス「Mobility as a Service(MaaS)」支援事業とともに、小田急電鉄が推進するMaaSの仕組みをAWSクラウドで支援することについてオンライン形式で記者説明会を開いた。



AWS Connected Mobility Solution(CMS)の概要(出典:AWSジャパン)



 「運輸業のデジタルトランスフォーメーション(DX)」と目されるMaaSは、国土交通省の定義によると「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索、予約、決済などを一括で実施するサービス」のことである(図1)。



 MaaSには関係するサービス事業者が数年前から取り組み始め、行政も注力してきた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、人の移動が制限されたことから、ここ数カ月は大きな影響を受けている。ただし、その利便性や安全性はコロナ禍でさらに進化するとも見られており、世間的な関心は依然として高いようだ。そのような状況下で、AWSジャパンの今回の会見には注目が集まった。



 会見では、AWSジャパンの岡嵜 禎氏(技術統括本部長執行役員)、小田急電鉄の西村潤也氏(経営戦略部次世代モビリティチーム統括リーダー)、小田急電鉄に技術支援を提供したヴァル研究所の見川孝太氏(CTO:最高技術責任者)が説明に立った。



 岡嵜氏はMaaSのポイントについて図2を示しながら、「これまでは個別に提供されていたモビリティサービスをつなげてデータを一元化し、ワンストップで利用できるようにした点だ」と説明した。



 AWSクラウドがMaaSの推進を支援できる理由として、岡嵜氏は「エマージングビジネスを支えられる経済性やスケーラビリティ」「異業種連携を支えられるセキュアなデータ連携」や「グローバル規模で展開していること」などを挙げた。同氏は「多くのMaaS関連のサービス事業者がAWSクラウドを活用していることから、ビジネスエコシステムを形成しやすい」と強調した(図3)。



 同氏はさらに、今後MaaSを手掛けたいというサービス事業者に対し、MaaSのレファレンス実装をテンプレートとして提供する「AWS Connected Mobility Solution(CMS)」を年内に提供することも明らかにした(図4)。



●AWSクラウドを採用して小田急電鉄が推進するMaaSとは



 一方、AWSクラウドを採用して小田急電鉄が推進するMaaSは、オープンな共通データ基盤「MaaS Japan」を活用したMaaSアプリ「EMot(エモット)」と呼ぶサービスである。



 EMotは多様なモビリティサービスやサービス事業者と連携し、鉄道やバスだけでなく、タクシーやシェアサイクルなどのさまざまな交通手段を組み合わせた「複合経路検索」や、交通企画券や生活サービスの「電子チケット購入」などの機能を備えている。



 西村氏によれば「EMotはユーザーの日々の行動の利便性をより高め、新しい生活スタイルや観光の楽しみ方を提案するアプリ」とのこと。EMotという名称には、モビリティサービスによる移動(Mobility)や、生活サービスを利用する日常において新たな体験と感動(Emotion)を提供していきたいとの思いが込められている。



 ロゴデザインは、モビリティをシームレスにつないでいくことや、どこまでも続いていく連続性を表現するべくチューブ形状を採用。「もっといい『いきかた』」には「行き方」だけでなく「生き方」、すなわちライフスタイルを提案するMaaSアプリだとの意図が込められている(図5)。



 このEMotもさることながら、筆者が最も注目したのはMaaS Japanの存在である。このデータ基盤は、EMotだけではなく、他のサービス事業者や自治体などが開発するMaaSアプリにも活用できるものとしている。現状では図6に示すように、17社と連携しているという。



 西村氏は「MaaS Japanをできるだけ多くのパートナー企業や自治体にも活用してもらえるデータ基盤に仕立て上げていきたい。そういう存在にするために、小田急の名前を入れず、ロゴも小田急カラーでなくイエローにした」と説明した。MaaS Japanという名称に同社の強い思いが感じられる。



 なぜ筆者がMaaS Japanに注目したのかといえば、こうしたデータ基盤を運営するのは、いわば「MaaSプラットフォーマー」だからだ。小田急電鉄がまさしくMaaSプラットフォーマーとしての地歩を固めたいという意図を持っているのは明らかだ。



 ただ、MaaSプラットフォーマーの影響力はデータ基盤の増強とともに非常に大きくなると予想されることから、関係する有力な事業者は自らがその立場になろうと注力してくるだろう。たとえ乱立したとしても、ユーザーの利便性を考えてデータのやりとりやAPI連携ができる形をとるだろうが、結局は熾烈な勢力争いになる可能性が高い。



 それも小田急電鉄のような運輸業者だけでなく、AWSのように「MaaSプラットフォーマーを支えるプラットフォーマー」となるクラウドサービス事業者にとっても、この分野が激戦区になるのは必至だ。例えば、AWSが今回明らかにしたCMSと似た内容のサービスは、宿敵の日本マイクロソフトが既に「Microsoft Azure」で提供している。同社もMaaS支援には注力しており、勢力争いはさらにヒートアップしそうだ。



 最後に、今回の会見で最も印象深かったコメントを記しておきたい。小田急電鉄の西村氏が、説明の最後にこう語った。



 「コロナ禍で運輸業も厳しい状況が続いているが、そうした現状も踏まえてDXをさらに進め、お客さまにMaaSならではの利便性や安全、安心をお届けし、気軽に外出できる新しいモビリティサービスを実現していく。私たちは人の移動を担う事業者として、移動がしっかりと都市や人を支える、移動によって人が都市のさまざまなサービスを享受できる、そんなモビリティライフを創造していきたい」



 この意気込みと覚悟がMaaSを広げていく原動力になるだろう。熱のこもったメッセージだった。


    ニュース設定