これからの婚活に必要なものは「プロデュース力」? 日本の婚活の歴史から考察

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2020年08月28日 18:21  リアルサウンド

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佐藤信『日本婚活思想史序説―戦後日本の「幸せになりたい」』(東洋経済新報社)

 イマドキの婚活はこんなにも進化しているのか……。それが、離婚をし「婚活市場」という戦場に舞い戻ってきた筆者が一番に抱いた思いだった。スマートフォンのマッチングアプリや趣味に応じて開催される婚活パーティーなど、近頃の婚活は多様化している。


参考:婚活で大事なのは“自己演出”? 橘もも、リアルな婚活描く新連載小説スタート


 筆者は昔「メル友掲示板」で出会った人と結婚した。当時はまだ“マッチング”という言葉が広まっておらず、そうした掲示板は「出会い系サイト」と呼ばれていたため、周囲を気にかけ、出会いのきっかけを「友達の紹介」と何度ごまかしたことだろう。


 しかし、今は違う。インターネットを介した結婚は一般的だと認められつつあり、ごまかす必要がなくなってきた。一体いつから、こんな風に婚活の形が変化したのだろう。そんな疑問を解決してくれたのが『日本婚活思想史序説: 戦後日本の「幸せになりたい」』(佐藤信/東洋経済新報社)だ。


 東大先端研の政治学者が昭和・平成の婚活論の変化を研究した一冊で、多角的な視点から「いい結婚ってなに?」を考えるきっかけを与えてくれる 。


■婚活論は「Hanako族」から「条件婚活」へ


 結婚情報誌として有名な『ゼクシィ』には、素敵な結婚式を挙げるためのブライダル情報がみっちりと詰め込まれている。プロポーズ後だけでなく、彼氏に結婚の意思をほのめかすため部屋にさりげなく置いたことがある女性は意外に多いだろう。


 そんな『ゼクシィ』とは異なり、結婚生活をゴールに定めた結婚をしようと訴えた結婚情報誌が昭和時代にはあった。それが1983年に発刊された『結婚潮流』だ。平均年齢24歳の女性編集陣によって立ち上げられた『結婚潮流』は恋愛結婚というファンタジーへの強い懐疑を訴え、恋愛前から結婚のことを考え、単なる「独身脱出」ではない結婚生活をおくる方法を真剣に模索していた。恋愛結婚と見合い結婚という二項対立の狭間で、第一印象による恋愛感情ではなく、結婚生活を重視した結婚を戦略的にしようと提唱していたのだ。


 『結婚潮流』には男性の給料が記された「100人の釣書」や職種に応じアプローチ方法をまとめた「職業別アタックシリーズ」が掲載されており、まるで誌上でお見合いが繰り広げられているかのようだった。さらには、『結婚潮流』とタイアップした結婚情報サービスも提供されたという。そんな『結婚潮流』に刺激を受け、1980年代半ばには結婚論ブームが生じた。本書では昨今の婚活ブームの基盤を築いたこの時期を『婚活0.0』と呼んでいる。


 その後、『結婚潮流』が衰退していくと、未婚女性の結婚の焦点が独身脱出に移っていった。『ゼクシィ』が登場したのも、この頃。結婚することがゴールであるかのように考えられ始めた。当時は、いずれ結婚することを前提にしながらも独身を謳歌する「Hanako族」が一世を風靡していた時代だ。


 しかし、そうした婚活論は21世紀になるとガラリと変わる。バブルが弾け、長期不況となると男女のマッチングに不全が生じるようになり、結婚がまるで人生の勝ち負けを証明するステータスであるかのように受け止められ始めたからだ。女性たちの間には専業主婦志向が戻り、バリキャリの独身女性は肩身の狭い思いをした。


 こうした風潮を経て生まれたのが、「条件婚活(マーケティング婚活)」。これは、恋に盲目な態度で結婚相手を見つけるのではなく、各々が望むライフスタイルに合わせ、条件に合う相手を探していくという婚活法。独身脱出ではなく、結婚の先にゴールを置いているのが特徴だ。相手の年収や職業、家族構成などを踏まえた上で恋愛をするかどうかを吟味する条件婚活は、現代で主流となっている婚活思想だ。


 こうした婚活論の変化を振り返ってみると面白いことに、現代の条件婚活と『結婚潮流』が訴えていた内容が非常に似通っていることがわかる。1980年代に時代の先を行く婚活論を打ち立てていた『結婚潮流』にはきっと、現代人にも参考となる処世術がたくさん記されていたことだろう。


■条件婚活にも落とし穴が……


 現代の婚活を見ていると、その効率の良さに驚かされる。年収や子どもの希望、両親との同居の可能性など、本来なら相手とコミュニケーションを重ねて聞き出すべき情報が、プロフィールを見るだけで知ることができる。自分が思い描いている未来にマッチしない相手とはそもそも恋愛関係にならないので、不毛な出会いがない。離婚に繋がらない結婚を手に入れるためにも理想通りの相手を見つけることは重要だ。


 しかし、現代ではマッチングアプリのようなテクノロジーの発展を活かした条件婚活が主流になってきているからこそ 、新たな問題も生まれている。マッチングアプリはお見合いとは違い、多くの人とつながれるところが利点だが、それはデメリットにもなる。実際、筆者は周りで、選択肢が多すぎてどの人に決めたら「正解」なのかが分からないという声を聞いたことがある。限りなく広がる「つながり」の中でプロフィールを吟味し、「どんな人を選べば後悔しない結婚生活を手に入れられるのだろう」と考えて婚活を行っている人が多く、一番必要であろう“恋愛感情”がおざなりになっているのだ。現代の独身者にとって婚活とは、様々な相手の条件を天秤にかけながら結婚後の生活を予測する作業になっているのかもしれない。


■これからは「プロデュース力」を活かす婚活を


 婚活市場はさらに多くの人と繋がれるよう、テクノロジーが発展していくように思う。そのため、これから先の時代ではプロフィールだけで弾かれないよう、自分を売り込む「プロデュース力」が必要になっていくように思う。例えば、マッチングアプリの自己紹介文で「この人、面白そう」と思ってもらえるようなアピールができたら、気になる存在として印象に残り、出会いのチャンスが増える。


 結婚相談所を活用する時にも仲人となってくれるスタッフに自分の人柄をアピールして売り込んでいくことができたら、プロフィールでは見えない良さをスタッフが伝えてくれ、気になる相手とも恋人関係が築けやすくなるだろう。実際、筆者の周りではプロフィールを見て躊躇していた相手の人間性を結婚相談所のスタッフに勧められ、一度会ってみたところ、人柄や価値観に惹かれて結婚に至った友人もいる。


 条件婚活で重視される「条件」の中には年収のように、自分の努力では相手の理想に近づけられないものも多い。だが、自分の魅力を伝える「プロデュース力」は、努力すれば高めていくことができる。条件以外で自分の魅力を伝えられる「プロデュース婚活」が今後、主流になっていけば価値観の合う人や一緒に居て楽しいと思える人と巡り合いやすくなる。そうした婚活なら恋心もおざなりにならない。「正解」に固執し、条件のみを吟味して悩んでしまうことも減るのではないだろうか。


 漠然と「素敵な結婚がしたい」と思っている人は多い。だが、それを実現させるには「素敵」の中身を突き詰めながら自分をアピールしていき、単なる独身脱出ではない婚活を行っていく必要がある。幸せな結婚は待っているだけでは掴めない。自分を魅力的に見せ、掴みにいくのだ。(古川諭香)


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