『みんなで筋肉体操』筋肉指導・谷本道哉が語る、“市場に媚びない”フィットネスのススメ

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2020年08月28日 18:41  リアルサウンド

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 2018年夏、深夜。NHKで放送された5分番組『みんなで筋肉体操』。「筋肉は裏切らない」というキャッチフレーズと、俳優・武田真治を始めとするイケメンマッチョ集団がひたすら筋トレをするという、まさに「ストイック」な番組内容に開始直後からSNSなどで話題になり、何度も再放送されることに。その番組がDVDを付属して書籍化され、大いに話題となっている。著者であり番組の筋肉指導を行っている谷本道哉氏に『みんなで筋肉体操』がどのように生まれたのか、そして書籍のコンセプトやフィットネス市場に対する意見まで話を聞いた。


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――本書のプロローグで、すぐにトレーニングに入るのではなく、筋トレに対する姿勢や生理学的な理論について語られているのが印象的でした。


谷本:取り組む姿勢、そして僕らが番組を作るときの姿勢を書きました。根拠に基づくものでなければいけなので、生理学的な説明も入れました。「自重トレーニングは素人向け」「バーベルトレーニングなどに比べて効果は落ちる」というイメージに対して、工夫すればそんなことはまったくないというのを、まず理論とエビデンスからきちんと説明したかった。そして、そういった考えをぶち破れたら、自重トレーニングはどこでもできるので、効果的な「みんなの筋トレ」になるだろうということを、最初に言いたかったです。決意表明ですかね。


――本の中では、レベルダウンしたトレーニングも掲載されていますが、テレビで放送されたものはとてもレベルが高いと思います。それが一般的に支持された理由を、どのように分析していますか?


谷本:今まで出版やテレビなどでは「楽をして変われる」という、市場に媚びたものが大量に出回る状況が続いていました。夜中の通販番組などがいい例ですが、それに対して消費者も「やっぱり効かなかった」と、特に憤ることもなく受け入れてきていました。でも、やっぱり違うよね? という認識がどこかであったはずなんです。そこで出てきたのがRIZAP。RIZAPは真剣に、もの凄く厳しい食事制限、そしてきっちりと筋トレをする。変わるには、それくらいのことをしないと無理だよという考えが浸透し始めました。いかにして厳しく追い込むかという、僕らの筋肉体操が受け入れられる土壌ができていたのかもしれないです。


――5分という短い時間も衝撃的でした。


谷本:それも大きいと思います。「たった5分でこんなに効くじゃん!」「次の日、歩けないじゃん!」「腕が上がんないじゃん!」というリアクションが多くて、とても喜ばしい状況だと思います。


――ずっとフィットネス市場に違和感を感じていたんですね。


谷本:書店のフィットネス本のコーナーなんて正直、見ていられないですよ(笑)。僕はこれまで何十冊も本を書いてきたけど、タイトルとカバーは、なかなか思い通りにならないんです。編集は「いかに楽をして……」というタイトル案を出してくるので、こちらとしては「そこまでは言わないで下さい」という「戦い」のなかでの折り合いをつけてきました。もちろん、それがすべて“悪”ということはないんです。やや甘い言葉で運動の世界に引き込むためのセリフとしては、意義はあると思います。読んでいただければ、「しっかりやれ」と僕の本には書いてあるので。


――きっかけとしては悪くないと。


谷本:もちろんそうです。だけどほとんどのものは、中身も楽をして終わるというものばかり。この書籍はタイトルでの編集者さんとの戦いもなく、もの凄く気持ちよく書けました(笑)。これを読んで、5分だから楽なんて言う人はいないですから。“どれだけ短い時間で追い込むか”というメソッドだと知っている上で、お買い上げいただくと思うので。フィットネス市場には「もういい加減、そういう媚びたマーケティングはしなくていいんじゃないですか?」と言いたいです。これがきっかけでテレビや出版社側のリテラシーが変わればいいと思っています。そして買う側の姿勢も変わってほしいです。


――先生が自重トレーニングに目覚めたきっかけはなんですか?


谷本:僕自身、以前は「自重」を軽視していました。初級者向けという認識がありましたし、研究者立場からすると負荷を相対化できないので、材料にしにくいし、興味も湧きにくかったですね。マシンだと“その人が10回できる重さ”という形を用いたりして、被験者に対して同じ負荷になるようにして実験します。それが自重ではできない。ですが、この番組の依頼がきてから「もっと自重を突き詰められるだろうか」と考えるようになり、気持ちが変わっていきました。


――どのように自重トレーニングを突き詰めていったのでしょうか?


谷本:例えば腕立て。みんな胸を床につけないんですよ。ベンチプレスのときにバーを胸をつけない人なんていないのに。理由のひとつとしては、部活などはどうしても数を求めてしまうというのがある。ちゃんとやると、そんなに何回もできないんですが、ごまかして回数をこなしてしまう。だからこそ、「自重にはだいぶ伸びしろがあるな」と思いました。同時に研究者としても、トレーニングに対する考え方が変わりました。


――実際にテレビでのメニューはどのように決めていきましたか?


谷本:まずは自分でやる。やってみて大きな効果を実感できて、生理学的にも力学的にも説明できるものを出すようにしています。この依頼があったおかげで、自重を極めたいと思うようになりました。するとこれが奥深くて……(笑)。これまで研究している人も少ないので、番組のおかげで新しいことに取り組めています。


――番組が話題となった要因に、「筋肉は裏切らない」などのキャッチーな名言が多いこともあげられると思います。どのように作っていますか?


谷本:自分自身が筋トレをしていて思うことをベースにしています。「やらせる」セリフでは言われた人には響かないと思うんですよ。あと工夫としては、リズムよく響きがいいものを入れていくようにしています。メトロノームで測りながら、60BPMで1秒にひとつのセリフが入るようにしています。運動も基本的に60BPMでやるものなので、そうすると動きの邪魔をしないんです。コピーライターの糸井重里さんへの憧れもあるので(笑)、キャッチーな言い回しも意識しています。全然敵いませんが……。


――そこまで計算されていたんですね。最後に読者にどのようにこの本を楽しんで頂きたいですか?


谷本:付属のDVDで僕が声がけで後押ししてますので、「効率の良い筋トレ」を楽しく、前向きに楽しんでください。


(取材・文=佐々木康晴/写真=鷲尾太郎)


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