メガパブリッククラウドとの“仁義なき戦い”に向けたIBM Cloudの勝算とは

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2020年09月01日 07:11  ITmediaエンタープライズ

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 日本IBMは2020年8月28日、クラウドサービス「IBM Cloud」の機能強化を発表した。その概要については関連記事を参照いただくとして、本稿ではこの発表を機にIBM Cloudの基本的な戦略に注目したい。



これまで10年間のIBM Cloudの変遷(出典:日本IBM)



 オンライン形式での発表会見に登壇した日本IBMの田口光一氏(IBM Cloud Platform事業部長 理事)は、IBM Cloudの強みについて、「Enterprise Grade」「Secure & Compliant」「Cloud Services Anywhere」の3つを挙げ、それぞれの内容について図1に示した。その上で「今後の機能強化についてもこれらの内容に基づいて実施するのが、IBM Cloudの基本的な戦略だ」と強調した。



 また、同氏は、IBM Cloudアーキテクチャの変遷について図2を示しながら説明した。筆者はIBM Cloudについてサービス開始時から取材してきたが、ブランドの変更も含めてこの10年間の変遷について、これだけコンパクトにまとめた図を目にしたのは、今回が初めてだ。こうした図が出てくるのは、IBM Cloudが大きな転機を迎えている表れと受け取れる。



 図2で注目できるポイントは、下段に記されている「世代」の変遷だ。IBM社内で当初の2年程度を「第0世代」と呼んでいることも、筆者は初めて知った。IBMのクラウド事業が市場で認知されたのは、この後の「第1世代」からだ。IaaS(Infrastructure as a Service)に、買収したSoftLayer Technologiesのクラウドサービス「SoftLayer」を採用したことで、「『Amazon Web Services』(以下、AWS)やMicrosoftのパブリッククラウドに真っ向から勝負を挑んでいく」と、当時のクラウド事業責任者が意気込んでいたのをよく覚えている。



 しかし、その後、AWSや「Microsoft Azure」(以下、Azure)、「Google Cloud Platform」(以下、GCP)の3つのサービスが「メガパブリッククラウド」と呼ばれるようになる一方、パブリッククラウド市場でのIBMの存在感は希薄になっていった印象がある。



 そうした変遷の中で出てきたのが「第2世代」である。2019年に買収を完了したRed Hatのオープンな技術を取り込んだことが鍵になった。IBM Cloudは2019年前半からアーキテクチャを変え、IBMが持つ独自の各種プラットフォームやハイブリッド/マルチクラウド、エッジコンピューティングにも柔軟に対応する形となった。この第2世代のIBM Cloudが、先に述べた3つの強みを有しているのである。



●有望な「分散クラウド」で求められるIBMのオープン技術



 現在、第2世代として進化を遂げつつあるIBM Cloudだが、かつて真っ向から勝負を挑んだメガパブリッククラウドと、どう違いを出していくのか。もはや同じ土俵で戦うつもりはないのか。競合との差別化も基本的な戦略の重要なポイントである。



 そこで、会見の質疑応答で上記の通りに聞いてみると、田口氏は次のように答えた。



 「基本的な戦略としては、メガパブリッククラウドと同じ土俵で正面からぶつかるようなことは考えておらず、IBM Cloudが持つ強みをさらに磨き上げて、お客さまに対して他にない価値をお届けできるようにしていきたい」



 「IBM Cloudが持つ強み」とは、先述したEnterprise Grade、Secure & Compliant、Cloud Services Anywhereの3つのことである。つまりは、メガパブリッククラウドと正面からぶつかるのではなく、自らの強みを前面に出す形で事業を推進していくとのことだが、田口氏によると、3つの強みの中でもCloud Services Anywhereにおける「分散クラウド」の領域で、これから激しい戦いが繰り広げられるという。



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 分散クラウドとは、図2の第2世代のところでも触れた、ハイブリッド/マルチクラウドやエッジコンピューティングに柔軟に対応できるクラウドの利用形態のことである。同氏は、「分散クラウドはメガパブリッククラウドも注力して取り組んでくる領域で、おそらく“仁義なき戦い”が起こる。ここは同じ土俵で戦わざるを得ない」との覚悟を語った。



 ただ、そうした中でも勝算はあるようだ。



 「IBMは分散クラウドをオープンな技術で実現していく。さまざまな利用環境に対応する分散クラウドを実現するには、誰もが自由に使えるオープンな技術を適用するのが望ましい。それはパブリッククラウドでも同じことだ。そう考えると、メガパブリッククラウドでも、独自の技術に基づくAWSやAzureは、分散クラウドにおいてもその独自技術を押し進めざるを得ない。分散クラウドは大きく広がる世界であり、オープンな技術をベースにしないと、利用環境そのものが制限を受ける可能性がある」(田口氏)



 振り返ってみると、コンピューティングの世界はこれまでおよそ50年間、ベースとなる技術で“独自”と“オープン”のせめぎ合いを繰り返してきた。オープンとして生まれた技術が、いつの間にか枝分かれしたり、個別の機能を載せたりして独自のものになっていく例を数多く見てきた。



 田口氏によると、分散クラウドの時代になれば、オープンな技術が求められるようになり、そこでIBMが確固たる存在感を示せるようになるというわけだ。それにしても、コンピューティングの歴史で長らくメインフレームという独自技術で一大市場を築き上げてきたIBMの変貌ぶりとたくましさも、勝算ではなく「称賛」を受けるべきだろう。


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