『アンデッドアンラック』がネクストブレイク確実と言われるワケ デタラメさの中にある“リアル”

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2020年09月14日 14:41  リアルサウンド

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 ダ・ヴィンチとniconicoが創設したユーザー投票で「次にくる」漫画を決定する「次にくるマンガ大賞2020」のコミックス部門第1位に選ばれた『アンデッドアンラック』(集英社、以下『アンデラ』)に、大きな注目が集まっている。


 『週刊少年ジャンプ』で戸塚慶文が連載している本作は、死なない身体を持つ「不死」(アンデッド)のアンディと、肌に触れた相手に不運をもたらす「不運」(アンラック)の力を持った出雲風子の2人が主人公の物語。


 否定者と呼ばれる2人の戦いは奇想天外。特に身体を切り刻んでも自動修復するアンディの戦い方は斬新で、不死の身体を駆使して襲いかかる敵を次々と倒していく。劇中には、否定者だけでなく、UMAと呼ばれる謎の怪物や、古代遺物(アーティファクト)という特殊なアイテムも登場するのだが、とにかく設定が過剰で、驚くようなアイデアがふんだんに盛り込まれている。


 物語は壮大かつ複雑だが、まだ3巻なので、読むタイミングとしては今がベストではないかと思う。


※以下、単行本3巻までのネタバレあり


 「否定」の力を持つがゆえに、ユニオン(対未確認現象統制組織)から追われていたアンディと風子だったが、ユニオンの否定者2人を倒したことで、否定者10人で構成された特殊チームの仲間入りを果たす。


 ユニオンに加わった2人は、喋る本の姿をした古代遺物「黙示録」が提示する課題(クエスト)に挑むことになる。アンディと風子は「不真実」の否定者・シェン(ナンバ−2)と共にUMA・スポイルを捕獲するためアメリカへと向かう。


 ゾンビを生み出し、あらゆるものを腐敗させる力を持ったスポイルに苦戦する風子たちだったが、アンディの中に封印されていた戦神ヴィクトールの力でスポイルを倒し、捕獲に成功する。しかしアンディの意識は戻らず、ヴィクトールが暴走。そこに特殊チームの7人が上空から現れるところで2巻が終わった。


 そして3巻では、ヴィクトールとの激しい戦いが描かれるのだが、風子も含めた否定者9人VSヴィクトールの戦いは、最終回でもおかしくない唐突な展開だったため、連載で読んだ時は「もしかして打ち切り?」とドキドキさせられた。


 ヴィクトールとユニオンの否定者たちが戦っている隙をつき、ヴィクトールに抱きついた風子はアンディの意識を呼び戻し、「不運」を発動させて大ダメージを与える。そして黒焦げになったヴィクトールの身体に封印のカードを刺し、アンディを元に戻す。


 ヴィクトールの正体は不明だが、実は彼の方がオリジナルの人格ではないかと子どもの頃の記憶がないアンディは思う。再びヴィクトールが出てきて「お前や回りの奴らを襲うかもしれない」「そうなったら…」とアンディが言うと、風子は「大丈夫だよ」「そうなった何度だって」「私の不運で助けるよ」と言う。海岸というロケーションもあってか、とても美しいやりとりである。アンディが圧倒的に強いため、一方的に守られているように見える風子だが、実は2人で支え合っているのだと実感させられる。


 スポイルを捕獲した2人は再び円卓の会議に参加。他の否定者たちも課題をクリアしたが、ひとつだけクリアできなかった課題があったため、罰(ペナルティ)が発動。理(ルール)が追加され、世界が改変される。


 今回起こった罰は「UMA銀河(ギャラクシー)」の追加。しばらくすると無数の宇宙船が現れ、地球外生命体(宇宙人)が地球侵略にやってくる。地球外生命体は、特殊チームのジュイス(ナンバー1)が「不正義」の力であっさりと倒してしまうのだが、この「簡単に世界が改変される」ことこそ『アンデラ』の恐ろしさだ。


 普通の漫画なら唐突に宇宙人が出てくると「この作品の世界観、壊れてないか?」と言いたくなるが、むしろ「後付けで設定が足されて、世界のルールが変わることの理不尽さ」こそが、本作の根底にある世界観だと言えよう。とてもゲーム的である。


 同時に思うのは、『アンデラ』世界の理不尽さは、パンデミック、気候変動、天変地異が頻繁に起こり、明日何が起きても(新しい設定が足されても)おかしくない現代を生きる私達が感じている不安とシンクロしており、デタラメだが、とてもリアルに感じる。


 その意味でも、アンディたちが戦っているのは、否定者やUMAだけでなく、自分たちを縛る「否定」の力という“設定”であり、簡単に改変されてしまう「世界の理」そのものなのだと言える。そんなものと「どう戦えばいいんだ?」と毎回思うのだが、だからこそ目が離せない。


 その後、11人目の否定者を特殊チームに加えるため、アンディたちはブラジルのリオデジャネイロでマフィアが主催している黒競売の現場に潜入。捕まっている「不動」の否定者をめぐって、ユニオンと敵対する否定者のチーム(否定者狩り)との戦いがはじまり、物語は更に複雑化していく。


 ここまで人気が出れば、突然の打ち切りはさすがになさそうだが、いまだに先が読めない設定過剰な漫画である。


■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。


■書籍情報
『アンデッドアンラック』既刊3巻
著者:戸塚慶文
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/undead.html


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