iPad Airが搭載する新チップ「A14 Bionic」で見えてきた iPhone 12とApple Silicon Macの可能性

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2020年09月17日 18:22  ITmedia PC USER

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写真iPad Airではじめて搭載されたApple独自開発プロセッサ「A14 Bionic」の特徴
iPad Airではじめて搭載されたApple独自開発プロセッサ「A14 Bionic」の特徴

 Appleが毎年9月に行っている製品発表は、例年ならばiPhoneを披露する場になっている。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で開発が遅れていることがあらかじめアナウンスされており、イベントでどのような製品が発表されるのか注目されていた。



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 最終的に「Apple Watch」と「iPad Air」のモデルチェンジが主な内容となったが、今回注目するのはiPad Airに搭載されているプロセッサの「A14 Bionic」である。



 これまでAppleは最新設計のSoC(System on a Chip)をiPhoneの新製品を発表するタイミングで投入してきた。同社の売り上げに対するiPhoneの貢献度を考えれば当然だが、iPhone向けに行われる旺盛な開発投資が、独自性の高い高性能なSoCを生み出し、Appleの商品力強化に貢献してきたことは間違いない。



 AppleはiPhone向けに設計する独自SoC「Apple Silicon」を、iOSの最新版とセットで開発することでさまざまな価値を生み出してきた。その成果を他のジャンルにも展開するため、Appleは末尾に「X」(あるいはZ)を付与するSoCを開発してきた。



●用途に応じて要素を再構築してきたApple独自プロセッサ



 自社向けに開発したApple Siliconは、同じく自社開発するOSと密に統合されている。いや、正確に言うならば明確に目的を決めてApple Siliconに必要とされる機能を組み込み、それをOSレベルでサポートすることで他社に先んじてきた。



 これは今回iPad Airに搭載したA14 Bionicでも同じだ。確かにCPUの命令セットはARMアーキテクチャに基づいているが、その設計はAppleが過去10年にわたり20億個の独自設計SoCを出荷する中で、毎年改良を続けてきたものだ。またSoCにはさまざまな機能が統合されており、それぞれの機能、特定用途のプロセッサなどは使用する目的ごとに異なるアプローチで、1つのシステムにまとめられている。



 iPad向けのSoCとしては、iPad Proに使われているSoC「A12Z Bionic」との比較となるが、それぞれの設計アプローチは実のところ大きく異なっている。



 例えば、A12世代のCPUコア(高性能コア)に比べて新しいA14世代のCPUコアは40%高速で、GPUコアは30%高速化されている。Appleはどのようにして高速化しているかは話していないが、コア単体の性能は2世代分の進化をしている。



 もちろん、これらはイメージ処理、ニューラルネットワーク処理、機械学習など、それぞれの処理向けに設計された全ての構成要素に当てはまることで、SoC全体としては大きな進化をしていることになる。



 簡単なところでいえば、それはカメラの画質などに現れる。iPad ProとiPad Airのカメラは同じユニットが使われているが、搭載されるSoCが持つイメージ処理能力の違いから、iPad Airの方が特に低照度の環境下でノイズが少ない写真を得ることが可能だ。



 その一方で、A12Zは広帯域のデータを扱うため、CPU、GPU共に2倍の数の処理コアを搭載している上、搭載するキャッシュメモリや共有メモリアーキテクチャで接続されるメモリの帯域幅もA12Zの方が広い。高解像度のビデオや写真などを扱い、ディスプレイが最大120Hzで動作する「ProMotion」に見合うより高い応答性などが求められるからだ。



 その結果、コア単体の瞬発力はA14世代には敵わないものの、より多くのデータを大量に扱う処理では、2世代前にもかかわらずA12Zの方が優位に立つ。



 現行の「iPhone 11」などが搭載するSoC「A13 Bionic」世代に対する「A13X Bionic」は存在していないが、今後Apple SiliconのMacやiPad Proのモデルチェンジが控えているだろうこともあり、A14 Bionicに対する「A14X Bionic」も恐らくは控えている。あるいはMac版はiPad Proとは別の専用版になる可能性もある。



 それらについて、現時点では妄想するほかないが、まずはA14世代の基礎となるA14 Bionicについて現時点で判明している情報を整理しておきたい。



●さらに強化されたApple Silicon「A14 Bionic」



 A14 BionicはTSMCの5nmプロセスで生産されている。搭載されるトランジスタは118億個だ。A12Zは7nmプロセスでトランジスタ数が100億個(ZではないA12は69億個)だが、トランジスタ数を比較するのであれば用途が近いA13 Bionic(85億個)の方がいいだろう。



 A14のCPU構成は高性能コアが2個、高効率コアが4個で、これはA13 Bionicと同じだが、性能は向上している(Appleは毎世代、何かしらの改良を行うが公式にはアナウンスしていない)。



 今回は搭載した製品がiPad Airであるため、前世代のiPad Airが搭載していた「A12 Bionic」(iPhone XSなどが搭載)との比較数値しか出されていないが、高性能コアの性能では40%高速になった。ちなみにA13世代はA12世代に対して20%の高速化だった(高効率コアの詳細は明らかになっていない)。



 A14のGPUは4コアで、これもA13と同じだ。性能はA12世代に対してコア単体で30%高速化している。GPUについても、A13世代はA12世代に対して20%の高速化だった。



 ただし、AppleのSoCはアプリケーションに特化して仕様が決められている。A14の場合、トランジスタ数の増分(A13に対し+33億個、A12に対して+49億個)のかなりの部分が、Neural Engineと第2世代MLアクセラレータ(行列乗算ユニット)に向けられているようだ。



 Neural Engineは、A12およびA13の8コアから16コアに増加。A12からA13への世代進化ではコア単体で20%の高速化がアナウンスされていたが、今回はコアあたりのパフォーマンスには言及されていない。単純なコア数の増加ともいえるが、恐らく共有メモリの帯域増加などで16コアに増加させられるだけのスケーラビリティが確保できたのだろう。



 A14のNeural Engineは毎秒11兆回の演算性能だ。A12世代のNeural Engine(5兆回)比で2倍以上と、ライバルとなりそうなSoCを大きく引き離しており、A12比で10倍高速というMLアクセラレータとともに、Appleがこの領域(ニューラルネットワーク処理と機械学習)に対し、いかに今後の進化を期待しているか、あるいは自社のOSやアプリケーションで活用する用意があるのかが透けて見える。



●A14から透けて見えてきた次期iPhone、iPad Pro、そしてMac



 繰り返しになるがSoCはさまざまなプロセッサ、処理回路の集合体だ。ざっとリストアップしてもCPU、GPU、機械学習アクセラレータ、Neural Engine、ISP(Image Signal Processor)などがあり、さらにiPad ProやMacのような製品向けになれば、扱うデータ量が増えるため、メモリまわりのインタフェースやSSDコントローラーの仕様にも求められる要素の変化が出てくる。接続する可能性のあるディスプレイやその数で、ディスプレイ向けインタフェースも変わるはずだ。



 言い換えればA14の主な用途は、恐らくiPad Airではなく、今後発表を控えた「iPhone 12(仮称)」だ。同じSoCが搭載されると仮定して、今回、Neural Engineへの言及が控えめだったことを考えれば、次期iPhoneに絡んで何らかの意図があってコア数が2倍になっているのではないだろうか。



 iPad Proに搭載される「LiDAR」がiPhoneにも加わると仮定するなら、その辺りの仕様変更と連動している可能性がある。また、iPad ProやMacで使うことを考えるなら、A14 Bionicの派生プロセッサとして、高性能コア数、GPU数をともに2倍に増やし、メモリ帯域を拡張したA14Xが登場するだろう。今回、A12との性能比較をApple自身が行っているため、こちらは目安となる性能がある程度は分かる。



 仮に高性能コア4個、GPUコア7個のA12Zと同じコア数ならば、CPUが40%、GPUが30%高速になるだろう。A12Zでも、既に同等クラスの消費電力であれば最高クラスの性能だったが、CPU、GPUともにモバイル系のコンピュータでは最高性能の製品になるはずだ。



 しかしAppleがSoCを自社設計する利点は、そうしたCPUやGPUの単体性能ではない。例えば最近のIntel Macは別途搭載する「T2」プロセッサが、SSDコントローラーとなり、暗号化や安全な起動、動画圧縮のアクセラレータなどの処理を行っていたが、Apple Silicon搭載Macではそうした独自回路を全てSoC内に収容してしまうからだ。



 MLアクセラレータがA12比で10倍、そして最新世代のiPhoneで使われるだろうISPを生かしたカメラの画質向上(Macの場合もWebカメラの画質が上がるはずだ)などは、iPad ProやMac向けでも引き継がれるだろう。Neural Engineも同じだ。



 そもそもiOSとほぼ同じiPad OS用アプリはもちろんだが、Apple Silicon搭載MacではiOS用、iPad OS用アプリも動作する。そこで培われてきた機械学習処理やニューラルネットワーク処理を応用したアプリの開発をさらに推し進め、用途を広げたいとAppleは考えているのだろう。



 Neural Engineのコア数が2倍になったのは、それが搭載されるMacでの応用が視野に入っているからなのかもしれない。


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