『葬送のフリーレン』魔王を倒した後の世界、不老長寿の魔法使いが抱いた思いとは?

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2020年09月18日 08:01  リアルサウンド

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『葬送のフリーレン』が表紙&巻頭カラーを飾った『週刊少年サンデー』35号

 『響〜小説家になる方法〜』の柳本光晴が、将棋界を舞台にした『龍と苺』で鮎喰響に負けない天才少女の暴れっぷりを描き、『うる星やつら』や『境界のRINNE』の高橋留美子が、『犬夜叉』を思わせる伝奇バトル『MAO』で一段と冴え渡る創作力を見せている『週刊少年サンデー』。そこで、長い年月を生き続けるエルフの魔法使いを主人公にして、じわじわと人気を広げている漫画がある。


 『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』の山田鐘人が原作に回り、第82回小学館新人コミック大賞で「MEET UP」が少年部門の佳作となったアベツカサが作画を手がける『葬送のフリーレン』だ。


 八百比丘尼という伝説がある。人魚の肉を食べた女性が不老不死の身となって、それからは何度結婚しても夫は年を取って死んでしまう。女性は出家して尼となり、全国を旅して回り800歳になって姿を見せなくなる。高橋留美子にはこの伝説を元にした漫画『人魚シリーズ』があって、人魚の肉を食べて不老不死となってしまった女と男が出会い、長い時間を旅する中で永遠の時を生き続ける苦悩や、そうした苦悩を知らず不老長寿を願ってやまない人間の愚かさを描いている。


 長い時間を生きるということは、離別の苦悩をもたらすもの。そうした感覚を抱いたまま『葬送のフリーレン』を手に取ると、少し肩すかしを食らった気分になる。勇者と戦士と僧侶と魔法使いのパーティーが、10年の冒険を経て魔王を倒し、王都へと凱旋する。一行は讃えられ、王によって広場に彫像も建てられる。よくある勇者たちが世界の破滅に立ち向かう物語なら、これで終わりとなる場面から『葬送のフリーレン』は幕が開く。


 始まるのは“その後”の物語。ドワーフの戦士アイゼンが「…終わってしまったな」とつぶやき、人間の勇者ヒンメルも「そうだね。僕達の冒険はこれで終わりだ」と言ってしばし冒険での愉快な想い出を語り合った後、4人は次の人生を歩み始める。そんな別れの場で、50年に1度降り注ぐ半世紀流星をみながらエルフの魔法使いフリーレンは、「50年後。もっと綺麗に見える場所知ってるから、案内するよ」とさらりと言う。


 見かけは誰よりも幼い少女姿のフリーレンだが、勇者のヒンメルも僧侶のハイターも知らない昔から生きていたらしい。「50年も100年も彼女にとっては些細なものかもしれないね」というヒンメルの言葉どおり、世界を旅して魔法の収集を続けたフリーレンが、王都へと戻って再会したヒンメルは背も縮み、頭もはげ上がった老人になっていた。


 「老いぼれてる」。ヒンメルに向かってそう言放つフリーレンの言葉には、見て驚いた程度のニュアンスしかなく、エルフと違って早く年を取り、死んでしまう人間への慈しみや、仲間だったヒンメルに置いていかれる寂しさのようなものはない。加えてフリーレンは、老いて貫禄が出たハイターや、こちらは見た目変わらないアイゼンを連れ、1週間は歩いた先にあるという半世紀流星のよく見える場所へと連れて行く。敬老精神のかけらもない。


 そんなフリーレンのドライな言動に憤ることなく、受け入れてついていくヒンメルたちにとって、50年前と同じ時を生きているようなフリーレンは、楽しかった想い出に再会させてくれる存在だった様子。生に限りのある人間が、不老長寿に固執するような醜さはない。定められた時を生きる人間たちが、それぞれの人生に対する感謝する意識が感じられる。読んで自分もそう生きられればと思わせる。


 ヒンメルもほどなく逝って、葬儀に立ち会ったフリーレンはようやく気づく。「…人間の寿命は短いってわかっていたのに……なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…」。泣ける場面だが、以後の物語で、フリーレンがより積極的に人間に関わるようになったかというと、さらに20年経ってハイターの体が弱ったときに舞い戻ったくらい無関心。そこでハイターが引き取り育てていた、魔法使いを目指すフェルンという少女を弟子にして欲しいと頼まれる。


 命の保証ができないと断るフリーレンにハイターがとった策が、1年2年といった期間など長いとはまるで意識しないフリーレンの性格につけ込んだもので、なかなかユニークだ。どうフリーレンを納得させたかは漫画を読んでもらうとして、人間の側で寿命に限りがあるからこそ抱く、自分が生きている間に誰かを育てたいという気持ち、誰かが生きている間に恩返しをしたいという気持ちの大切さに気づかせてくれるエピソードだ。


 しかしフリーレンが、これで本当に変わったかというと、続くエピソードの中で相変わらず年月を気にせず役に立たない魔法の収集に勤しみ、勇者ヒンメルの銅像に備える花を探そうとするからフェルンも困る。長命のエルフならではの感覚と、人間の感覚とのズレが醸し出すギャップを楽しめる。それとは別に、フリーレン自身がドジっ子で、ミミックに頭を突っ込んだり、朝寝坊でかつてのパーティー仲間に怒られたりしてきたエピソードが、フリーレンを愛らしい存在と思わせる。


 それでも、少しは人間の生を気にするようになったフリーレンと、いずれは老いて先に行くフェルンの関係はどうなっていくのか。脚本家の岡田麿里が初監督したアニメ映画『さよならの朝に約束の花を飾ろう』では、10代半ばの姿のままで数百年を生きる種族の女性が引き取った赤ん坊が、成長して戦士となり結婚して老い、やがて死んでいくストーリーの中に、重ならない時間の間で変化するそれぞれの思いが描かれた。


 同じようにフリーレンの変化を感じさせてくれる物語になるのか。タイトルになっている「葬送のフリーレン」という言葉が、先に死んでいく人間たちを送る立場というものではなく、“それ以前”のフリーレンを意味するものとして浮かび上がってくるのか。8月18日発売の第1巻からはまだ読めない物語の深みに迫るためにも、連載なり続刊を追っていく必要がありそうだ。


■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。


■書籍情報
『葬送のフリーレン』(少年サンデーコミックス)既刊1巻発売中
原作:山田鐘人
作画:アベツカサ
出版社:小学館
https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1093


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