おうちでフェス気分を味わえる! フェス漫画『デイズ・オン・フェス』のピースフルなマインド

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2020年09月19日 08:01  リアルサウンド

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 コロナ禍の2020年、夏の風物詩である夏フェスの大多数が開催中止を余儀なくされた。音楽フェスを愛する沢山のファンたちは、今年のこのどうしようもない状況をむず痒く思っていることだろう。なんとかフェスのあの感覚を取り戻したい!しかしコロナの終息はいつになるのか分からない。そんな悶々とした日々を過ごす音楽ファンに捧げたい漫画が岡叶の『デイズ・オン・フェス』(KADOKAWA)だ。


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 本作はフェス未経験者の女子高生、空良奏が、フェス初心者の山奈音葉と共に初めてフェスに参加するところから始まる。音葉の兄・楽と、楽が店主を務める店でバイトする海野律瑠も加わり、4人が様々なフェスに参加する様を描く「フェス体験マンガ」。


 「フェス体験マンガ」の名前に相応しく、読んでいるだけでまるでフェスに参加しているような気分になれることが特徴だ。例えば、様々なフェス飯に舌鼓を打ってみたり、様々なステージを自由に行き来して目当てのミュージシャンのライブを体験したり。キャンプサイトで迷ったり、持参する荷物や服装に頭を悩ませてみたり、出演するミュージシャンで組んだプレイリストを作ってみたり……。


 作中のキャラクターの一足一挙手がそのまま音楽フェスの醍醐味、魅力になっていると同時に、「フェスあるある」としても機能している。フェスに参加したことのない人はその魅力を知ることができ、フェスに参加したことのある人はあるあると共感できる。これこそが本作最大の魅力と言えるだろう。


 一口にフェス、と言ってもその種類は様々だ。都市型、郊外型、アウトドア型、サーキット型、オールナイト……。それぞれフェスが持つ幅広い特徴を、キャラクターのフェス体験を通して網羅できるのも本作の魅力だ。本作で描かれる音楽フェスは、実在するフェスをモチーフにしたものも多い。緻密な筆致で描かれるフェスの風景を見ていると、実際に会場へ到着した瞬間の胸の高鳴りを思い起こしてしまう。特にMETROCKやROCK IN JAPAN FESTIVAL、COUNTDOWN JAPANなどへの参加経験があるフェス好きな音楽ファンがこの作品を読めば、きっとその景色が蘇ることだろう。


 登場人物もこの作品の大きな魅力。女子高生ならではの瑞々しい翳りの無い感性でフェスを目いっぱい楽しむ奏と音葉の無邪気な姿は、音楽のことが初めて好きになった、あるいは初めて生の音楽を体験した日の自分自身を重ね合わせてしまう。子供と大人の狭間で悩み苦しみ葛藤を抱えながらも、彼なりに他者との接続を試みる律瑠の姿にも思わず頑張れと応援したくなる。そんな3人を大人な視点で見守る楽が偶に覗かせる表情豊かな人間性も微笑ましい。


 メインの3人以外のサブキャラクターも個性的なメンバーばかり。奏に甘酸っぱい思いを抱くバンドマン、メロの恋の行方や、奏の推しバンド、デイズオンユースのサクセスストーリーにもぜひ注目してほしい。


 そしてなによりも、我々音楽ファンがフェスで感じるあの高揚感が、この作品にはそのまま真空パックされている。フェス前夜、あれだこれだと準備に勤しみながら翌日の会場を思うワクワク。当日、その昂りが頂点に達する会場への道中。目前で憧れのミュージシャンが歌い、演奏していることへの感動。壮大な青空の下、遠くで鳴る音を感じる開放的な時間。何万人ものオーディエンスと共に作り出す熱狂。キャラクターたちの喜楽を通して、読者自身が音楽に、そしてフェスという場に熱狂し感動したあの日を重ね、想いを馳せる。そんな音楽フェスそのものが持つピースフルなマインドが『デイズ・オン・フェス』には刻み込まれているのだ。


 フェスという空間が作り出す自由で平和で愛の溢れる時間。あの幸福な日々がまた訪れることを信じながら、今は好きな音楽をお供に「デイズ」を読んで、おうちでフェス気分を味わってみてはいかがだろう。


(文=ふじもと)


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