クレしん映画の新たな傑作「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」レビュー 「オトナ帝国」「戦国大合戦」と単純比較するべきではない理由

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2020年09月21日 18:58  ねとらぼ

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写真画像は予告編より
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 現在公開中の「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」がとてつもなく面白かった。



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 本作は「映画クレヨンしんちゃん」(以下、クレしん映画)の28作目。このシリーズにおいて、9作目「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」と10作目「嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」が「オトナも泣ける感動作」としての高い評価を得ていることは、周知の事実であるだろう。



 そのことを踏まえて、訴えておきたいことがある。それは、本作を「オトナ帝国」「戦国大合戦」と単純な比較をするべきではない、それだけで評価を決めて欲しくないということだ。



 これまで優れたクレしん映画があった場合、その評価軸として「戦国大合戦」「オトナ帝国」との比較で語られがちであった。特に顕著だったのが22作目「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」の時で、やはり大人こそが感動できる内容であり、クレしん映画の久々の傑作などと高い評価を得ていたのだが、「戦国大合戦とオトナ帝国ほどじゃないが」「その2本には一歩及ばないが」などといった枕ことば付きで語られていることが多かったのだ。



 同様の「あの2本が偉大すぎる」という思いは作り手側にもあったようで、「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」の脚本を手掛けた中島かずきは、15作目「嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!」からチーフプロデューサーとして参加してきた時の頃を振り返り、「あの2本が突出し過ぎて原さん(原恵一監督)がいなくなった後“どうする?”って大変だったんですよ」とぶっちゃけていたこともあった。



 そのように、クレしん映画には「戦国大合戦」「オトナ帝国」の2本との比較を免れないという、“呪縛”にとらわれていたところがあった。しかし、今回の「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」は、その呪縛から解放された、この映画そのものの素晴らしさをたたえるべき、新たな傑作であったのだ。



 本編のネタバレになるべく触れない範囲で、その理由を記していこう。



●1:故・臼井儀人のマンガを原案としている



 「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」は、“原点回帰”をしながらも、クレしん映画として“新しいことにも挑戦している”ことが何よりも重要だ。



 まず、本作には、「クレヨンしんちゃん」の単行本23巻に収録されている短編「ミラクル・マーカーしんのすけ」という原案がある。映画に登場する“ニセななこ”や“宮廷画家”の見た目は、この原案ほぼそのままだったりもするのだ。



 クレしん映画は、基本的にはマンガとは関係なく、設定や物語がとても自由に作られてきた。事実、故・臼井儀人が映画の原作となるマンガを描いていたのは、3作目「雲黒斎の野望」までである。しかし、今回は「25年ぶりのマンガの内容の映画化」なのだ。この時点で、原点回帰の意思を感じられるだろう。



 また、監督・脚本を務めた京極尚彦は、「『クレヨンしんちゃん』なのにクレヨンをモチーフにした映画が今までなかった」とも考え、それが絵に描いたものが出てくるという物語を昔からやってみたかったという思いにも結びついたのだそうだ。



 このように、本作ではシリーズになかった新機軸を打ち出しながら、タイトルにあるクレヨンをフィーチャーするという、クレしん映画としてまっとうかつ新鮮なアプローチがされているのだ。



●2:ぶりぶりざえもんの復活



 前述した短編マンガ「ミラクル・マーカーしんのすけ」には、人気キャラクターの“ぶりぶりざえもん”が登場していた。アニメで同役を務めていた塩沢兼人は2000年に亡くなり、「この声以外は考えられない」という理由で16年に渡ってセリフがなかったのだが、2016年から神谷浩史が後任を務めることになった。



 そこからさらに4年が経ち、「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」を作る上で、近藤慶一プロデューサーは「ここでぶりぶりざえもんを出さなきゃいつ出すんだ!」と訴え、神谷浩史の声のぶりぶりざえもんが映画でも初登場することになった。



 6作目「電撃!ブタのヒヅメ大作戦」でのぶりぶりざえもんの大活躍を知っている者にとってもうれしいことは間違いないし、その「私は常に強い者の味方だ」というセリフに代表されるずるさや情けなさも健在だ。



 何より、神谷浩史の“妙に良い声”がぶりぶりざえもんに絶妙にハマっていて、そのシリアスさとのギャップのあるギャグシーンにゲラゲラ笑えるという、最高の演技を見せている。改めて、ぶりぶりざえもんが愛すべきキャラクターであることに気付けるだろう。 ちなみに、本作にはSNSやタブレット端末も登場し、ぶりぶりざえもんの「救い料100億万円、ローンも可」というおなじみのセリフにも、現代らしいとあるアップデートが加えられていた。ぜひ、聞き逃さないようにしてほしい。



●3:しんのすけが単独で主役となった



 近藤慶一プロデューサーは、実際に本作で原点回帰の気概を込めて、「しんのすけが単独で主役の映画を作ろう」と考えていたそうだ。



 クレしん映画では、野原一家やかすかべ防衛隊というチームが全編で活躍することが多い。また、22作目「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」ではひろしが、27作目「新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜」ではみさえがほとんど主人公のようになり、そのことも新たな魅力をもたらしていた。



 しかし、近藤プロデューサーは「初期作を改めて観ると、しんちゃんにはしんちゃんにしかない良さもある」と考え、しんのすけ1人を真ん中に据え、他のメインキャラクターは新たなキャラクターで動かそうと考えたという。実際に、しんのすけが今回で冒険を共にするのは、ぶりぶりざえもんとニセななことブリーフ、そして途中で出会う少年のユウマというゲストキャラクターなのである。



 この作劇で思い出すのは、4作目「ヘンダーランドの大冒険」だ。しんのすけはかすかべ防衛隊の力を借りておらず、みさえもひろしもいない状態で、1人で敵地に乗り込み、トランプの魔法で呼び出したアクション仮面、カンタムロボ、ぶりぶりざえもんというヒーローたちと共に戦うのだから。



 5作目「暗黒タマタマ大追跡」以降の原恵一監督が手掛けた作品は、オトナに向けたギャグや作風やメッセージが濃くなっていった。しかし、京極尚彦監督は今回では特に親世代を意識せず、子どもに楽しんでもらえるよう、気取らず、難しくしないというコンセプトで制作に挑んでいたのだという。



 近藤プロデューサーもクレしん映画のお気に入り作として「ヘンダーランドの大冒険」を挙げて、「自由奔放なしんのすけが大好きなので、ヘンダーランドのような映画を作れたらいいな」と思っていたのだそうだ。



 そのため、本作は「ヘンダーランド以前の、純粋に子どもに向けたクレしん映画の再来」ともいえるのだ。それでいて、終盤にはオトナがドキッとしてしまうとある風刺も込められていて、クレしん映画が好きだった人に向けたファンサービスも盛り込まれていた。子どもに向けた作品でありながら、一緒に映画館に来たオトナも楽しめるという意味でも、本作は理想的なクレしん映画といえるのだ。



●4:「宝石の国」の監督へのオファー



 近藤プロデューサーは、テレビアニメ「宝石の国」を見て、なんとしても京極尚彦監督にお願いしたいという思いでオファーをしたのだという。それは「しんのすけは、“動いてなんぼ”というおもしろさのあるキャラクター」であることも理由だったそうだ。



 「宝石の国」はダイナミックなアクションシーンがすさまじく、豊かな表情をつくるキャラクターみんなが魅力的という、並々ならぬクオリティーを誇った作品であった。



 近藤プロデューサーは、「宝石の国」で京極監督が「“キャラクターを動かす”ということを大事に考えている方だな」とほれ込み、また「ラブライブ!」の第1話の後半の“ぶっ飛び方”を見て、「すごく映画らしい表現ができる方だ」と考えていたのだという。



 そのかいあって、「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」は、アニメとしての表現、そして躍動感のあるアクションにおいても、とても見ごたえのある作品に仕上がっている。特に、クライマックスのアイデアと、それを実現させた作画、そしてしんのすけの心理描写には、言葉にならない感動があったのだ。



 ここでも、「過去作品にとらわれない」気概を感じさせる。実力のある監督にオファーをして、それがアニメとしてのクオリティーを底上げし、大胆なアクションも見どころであったクレしん映画の“らしさ”を取り戻してもいるのだから。



 ちなみに、中田譲治や黒沢ともよといった、「宝石の国」のメインキャラクターを務めた声優が、今回の「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」にも参加している。その他、冨永みーな、平田広明、玄田哲章、三ツ矢雄二、井上喜久子、能登麻美子、諏訪部順一など、脇役を含めた声優陣も超豪華だ。きゃりーぱみゅぱみゅ、りんごちゃん、山田裕貴というゲスト声優も文句なくハマっている。声優ファンにとってもうれしい作品だろう。



●5:“クレしん映画らしさ”を突き詰めた内容に



 クレしん映画は、確かに「オトナ帝国」と「戦国大合戦」で、作品としての完成度が頂点に達していたのかもしれない。その後に続く作品では、この記事の最初に掲げた中島かずきの言葉でも分かるように、明らかにその2本、または初期作を意識しながら、試行錯誤を続けていた時期があった。



 例えば、16作目「ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者」では初期作で監督を務めていた本郷みつるを再登板させた。17作目「オタケベ!カスカベ野生王国」ではみさえとひろしが豹変するなど「オトナ帝国」と似た要素があり、正直に言って“焼き直し”の印象も否めないこともあった。このあたりは“低迷期”ともいえるほど、作品としてのクオリティーも厳しいものがあったというのが本音だ。



 ところが、近年のクレしん映画は興行収入と作品評価の両面で、確実に盛り返している。その理由の1つが「クレしん映画でジャンル映画を本気でやってみる」という試みが成功しているからだろう。例えば、23作目「オラの引越し物語 サボテン大襲撃」では“モンスターパニック映画”を、25作目「襲来!!宇宙人シリリ」では“ロードムービー”を、26作目「爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜」では“カンフー映画”をモチーフにしており、そのジャンルの面白さが確かに詰め込まれていたのだ。



 また、21作目「バカうまっ!B級グルメサバイバル!!」や24作目「爆睡!ユメミーワールド大突撃」では脚本に2人がクレジットされている。脚本家同士で意見交換をし合い、物語をブラッシュアップして、面白いものを作ろうとする意図も、ここから伝わってくる。 そして、今回の「激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」でも、「そこのみにて光輝く」などの実写映画作品で知られる高田亮を呼び、京極尚彦監督と共同で脚本を執筆している。さらに、前述したジャンル映画という枠からも飛び出し、“クレしん映画らしさ”を突き詰めた内容になっている。



 平和な世界が何者かに脅かされ、それに対してしんのすけが立ち向かっていくという面白さ、しんのすけの破天荒で物怖じしない性格がもたらす痛快さ。劇中では子どもを退屈させまいと、さまざまな見せ場が用意され、描いた絵が動くというアニメでしかできない表現や、躍動感のあるアクションも盛り込まれている。そこには、まさに「ああ、クレしん映画を見ている!」という感動があったのだ。



●まとめ



 クレしん映画は、あまりに完成度の高い「オトナ帝国」と「戦国大合戦」との比較で(20年近くが経過しても)語られがちだった。しかし、今回はその要素だけで評価を決めるのはあまりにももったいない、という理由を分かっていただけただろうか。



 何しろ、根底には“原点回帰”があり、ぶりぶりざえもんの復活やしんのすけが単独で主役を務めるなど、初期作にあった魅力を打ち出している。それでいて新しいことにも挑戦し、実力派の監督と脚本家にオファーして作品としてのクオリティーを高め、これまでの過去作を意識しすぎた“焼き直し”感からも脱却し、まさに「クレしん映画らしい」魅力と楽しさのある作品に仕上がっているのだから。



 また近藤プロデューサーは、「『クレヨンしんちゃん』は安パイに作れない作品」であるとも語っている。それは「安直に置きに行ったら最後、それが如実に現れる」「時代に合わせて新しいものを常に作っていかないと、この先も作り続けられる作品じゃなくなってしまう」との考えからだ。それでいて、「妥協せず作り続けることが、作り手としてはやりがいがある」とも語っていた。



 こうした作り手の意識こそ、「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」が新たな傑作となった最大の理由だろう。ぜひ、クレしん映画から離れてしまったというオトナにも、本作を映画館で見てほしい。「あのころのクレしん映画」でありながら、新鮮な感動がそこにはあるはずだ。



(ヒナタカ)



参考記事:『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』京極監督インタビュー(電撃オンライン)/「クレヨンしんちゃん」の原点を再構築!傑作『ラクガキングダム』創作秘話を、京極尚彦監督&近藤慶一プロデューサーが明かす(MOVIE WALKER PRESS)/『オトナ帝国』と『戦国大合戦』が傑作過ぎて大変だった!?中島かずきが原恵一監督に激白|最新の映画ニュース・映画館情報なら(MOVIE WALKER PRESS)/映画『クレしん』公開、“しんちゃん同世代”30歳の新鋭P語る「原点回帰」への思い(ORICON NEWS)


このニュースに関するつぶやき

  • オトナ帝国もいいけど、ロボとーちゃんもなかなか感動する。
    • イイネ!0
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  • 大人帝国と戦国は別格。他の作品と比べちゃダメ。クレしんはくだらない面白さがいい。個人的にはヤキニクロードが好き。
    • イイネ!22
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