ル・マン24時間:CARGUY RACING、2年目の挑戦は突然の幕切れも“目標”は達成

0

2020年09月22日 14:01  AUTOSPORT web

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AUTOSPORT web

写真CARGUY RACINGのフェラーリ488 GTE
CARGUY RACINGのフェラーリ488 GTE
 9月19〜20日にフランスのサルト・サーキットで行われたWEC世界耐久選手権2019/2020シーズン第7戦ル・マン24時間耐久レース。LM-GTEアマクラスに挑んだ木村武史/ケイ・コッツォリーノ/ヴァンサン・アブリル組MR Racing/CARGUY RACINGの70号車フェラーリ488 GTEは、スピードを見せながらも14時間を前に悔しいリタイアを喫した。しかし2020年の参戦に向け当初立てていた“目標”は見事達成。2021年に向けて、新たな課題と目標も見つかったようだ。

 2019年にル・マン24時間に初挑戦したCARGUY RACINGは、今季WEC世界耐久選手権に参戦していたMR RACINGの枠を使ってのル・マン参戦をAFコルセから打診され、木村武史/ケイ・コッツォリーノ、モナコ出身のヴァンサン・アブリルというトリオで2年目の挑戦を果たしていた。

 予選では12番手につけていた70号車フェラーリだが、フリープラクティスから調子は良く、上位進出と、参戦を決めたときから木村が目標としていたジェントルマンドライバーとしてのサルト・サーキット『4分切り』の期待がかかった。フリープラクティスまでに4分02秒668というベストタイムを出しており、決勝中に4分を切るのがゴールだった。

 しかし、そんなCARGUY RACINGの2年目の挑戦は、スタートからわずか4周で暗転する。

 スタートから激しいバトルを展開し、クラストップ10圏内まで順位を上げていたスタートドライバーのコッツォリーノは「コーナーも速かったですし、トップ5にいく手ごたえもありました」という走りを展開していたが、ECUトラブルが発生しミッションに影響、緊急ピットイン。この修復に30分ほどを要してしまい、一気にトップから7周遅れになってしまった。

■トラブルで「吹っ切れた」木村が2020年の目標達成へ
 ピットでその様子を見ていた木村は「あまりにもあっけなくレースの勝負権を失ってしまったので、ちょっと呆然としてしまいましたね」という。当初、木村はレースが落ち着いた22時ごろに走る予定をしていたが、修復後はトレーニングも兼ね木村がコースインした。

 ある意味、7周遅れで実質最下位に近く、順位を気にしなくても良くなった。「なんというか、吹っ切れた感じがあったんです。自分の殻を被った感じ。クルマのフィーリングも悪くなく、速く走れました。そこで一気に来ましたね」という木村は、快調にラップタイムを刻み、この最初のドライブで4分00秒781というタイムをマークした。

 その後アブリル、コッツォリーノと繋ぎ、スタートから7時間過ぎにふたたび木村の出番がやってきた。すでに4分00秒台をマークしていた木村はニュータイヤを履きコースインすると、トリプルスティントを敢行した。その3スティント目。木村の前には、結果的にレースでLM-GTEアマクラスを制した、TFスポーツの90号車アストンマーティン・バンテージAMRが現れた。

「僕は優勝したTFスポーツの、ジェントルマンドライバー最速と言われているサリ・ヨルック選手と、以前スーパーカーレースで一緒に走ったことがあるんです。彼の速さを知っていますし、彼も僕のことを知っているんです」という間柄のヨルックがドライブしていたのだ。

 木村はもちろんラップダウンだが、「彼が乗っていることを確認して、5〜6周バトルしたんです。アストンマーティンの方がストレートは速いので、コーナーでさんざん詰めても抜くことができなかったのですが、ミスを誘って抜くことができた」とヨルックをオーバーテイクしてみせる。当然、ヨルックのスピードも、ジェントルマンドライバーの中ではトップクラスだ。

「すごく嬉しかったです。彼も分かっていたと思いますし、サリ選手が優勝を飾ったので、そういう意味では自信に繋がりました」という木村は、ヨルックを抜いた直後、その勢いのまま3分57秒400というタイムを叩き出した。その様子を見守っていたピットは、全員が木村の目標を知っており、歓声に沸いた。木村が2020年の目標としていた『4分切り』は達成した。

 ちなみにこの3分57秒400は、LM-GTEアマクラスでは全66名中41位だが、ジェントルマンドライバーにあたるブロンズのなかでは5位。2019年の自己ベストからは約5秒のタイムアップとなった。

■想定内だった結果と、2年目の挑戦でつかんだ自信
 木村がドライブした後、コッツォリーノに交代したCARGUY RACINGのフェラーリは、ダンパーのトラブルにも見舞われるが、走行を続けアブリルに交代した。ただ直後、ピットアウト後に2コーナーでトランスミッションのトラブルにより、ロックしてスピン。エンジンがかからず、CARGUY RACINGの2年目の挑戦は終わりを告げた。これまでのキャリアではあまりリタイアした経験がなかった木村は「珍しいですよ。今まであまりなかったです」という。

 とはいえ木村、そしてコッツォリーノにとって2年目の挑戦は、自信に繋がった。「昨年ル・マンに初挑戦しましたが、2年目に出ることで圧倒的な自信になりました」というのはコッツォリーノ。

「昨年は怖さもありましたが、今年は走り出しから路面ができていなくても飛び込んでいけましたし、すぐにタイムも出た。木村さんもアブリルも速いし、これは少しマージンをもっていても、トップ5にいけるだろうという手ごたえがありました」

 また木村は、リタイアという結果に対しては「今回、別にリザルトは狙っていなかったんです。完走できるともあまり思っていなかった」という少々意外なコメントを残した。ただ、これは参戦が決まったときから木村が語っていたことでもある。そういう意味では、初志貫徹でもある。

「自分の走り、自分のタイムだけを考えていたんです。そういうことが狙いの年だったので、結果として自分の100パーセントを出すことができました。これがもし3位表彰台でも、自分のタイムが出ていなかったらこんなに饒舌ではないです(笑)」と木村はその理由を語った。

「私たちはプロではないので、自分が成長しないと未来が続かないんです。私は今日速くないと、明日乗る気になれない。いくら表彰台に立とうが優勝しようが、自分が遅かったら、それはプロのおかげで勝てているということなんです」

「客観的に考えて、『自分が貢献しているのはお金だけだ』という話になると、私は冷めてしまうんですよ。自分が速く走れることが、自分の活動のいちばんのモチベーションなんです。タナボタはいらない。速く走って、結果を出していくことが私の活動の根底にあるので、今回速く走ることができて納得しています」

■ル・マン24時間に勝つために。1年目とは異なる体制とは
 2年目の挑戦でつかんだ自信を、CARGUY RACINGはどう“未来”に繋げていくのだろうか。「ル・マン24時間がどんなレースか改めて感じたのは、スピードは最低限必要なんですが、やはり壊れないクルマが大事ですね。トップ4の顔ぶれをみても、スピードでいえばそこまで特別に速いわけではありませんが、やはり『何も起きなかった人たち』なんです。そういうクルマとチームを作らないと、やっぱりル・マンは勝てない」というのはコッツォリーノだ。

「昨年はたまたま、本当になにも起きなかったんです。でも今年は、新型コロナウイルスの影響でMR RACINGが参戦しないことになり、CARGUY RACINGとして参戦することになりましたが、木村さんもその影響でスーパーGTに出られたものの、本来は海外でテストをしなければいけなかった。でもできないですよね。参戦がギリギリに決まった部分もあり、それぞれエンジニアもメカニックもポテンシャルはありながらも、サーキットで現地集合で、はじめましてからスタートしている状態でした」

 2019年の挑戦では、その前年からCARGUY RACINGの日本人スタッフとAFコルセのスタッフが共同でアジアン・ル・マンに挑み、全戦全勝でチャンピオンを獲得し、ル・マンへの挑戦権を獲得。入念な準備を経て、ほぼそのままのパッケージでル・マンに挑んでいた。違う点と言えば、ドライバーが1名変わったくらいだった。

 しかし今季は、直前で参戦が決まり、AFコルセのスタッフがほとんど。急造チームで、フリープラクティスから細かいトラブルもあった。「勝っているチームはWECを戦っていて、1年間ともに過ごしているファミリーのチームなんですよね」とコッツォリーノはいう。

 また木村も、「今回いろいろなトラブルは起きましたが、納得できる答えが出てこないんです。なぜこうなったのかと。4周目のトラブルも、ECUがショートしてミッションがおかしくなったのですが、ドリンクホルダーの下にECUがあって、水がこぼれてショートしていたそうなんです。あまり納得できないですし、それが本当に正しいかどうかも分からない。自分たちのチームでないから余計ですよね」という。

■浮かびはじめた壮大な計画
 では、ル・マン24時間という世界三大レースで戦うためにはどうすればいいのか。ちょうどこの記事の取材時に話し合われていたのは驚きの計画だ。「いま、WECに出ようと思っていたんです。それも全部自前で」と木村は2021シーズンのWECフル参戦を考えていると語った。

「もちろんまだ思っているだけで、実現するかどうかは別問題なのですが、日本人のメカニック、日本人ドライバーでぜんぶ一度コンプリートしてみたいんです。もちろんできるかどうかは分かりませんし、AFコルセからは『難しいのではないか』と言われていますが、そのあたりも含めて挑戦してみたい」と木村は来季へ向け、壮大な計画を述べた。

 木村が言うように、まだ「話しはじめた」だけだ。さらにWECフル参戦ともなれば、費用面も跳ね上がる。すでにカレンダーは発表されてはいるが、今後新型コロナウイルスの影響もどうなるかは分からない。

 それでも「やはり、ル・マンで勝つためには世界選手権に出ないとやはり無理だと感じています。歴代のウイナーを観ていても、やはり世界選手権をやっていますから」とコッツォリーノは言う。

 木村は「問題点が見いだせたということですね。それに向かってやっていこうと。実現できるかは分かりませんが、皆さんに応援していただければな、と思っています」と語った。CARGUY RACINGが2年目のル・マンで得た自信がどう昇華されていくのか。これまでも、他人が思いつかないようなエンターテインメントをみせてきた“自動車冒険隊”CARGUY RACINGの行く先から目が離せそうもない。
    ニュース設定