最強・川崎フロンターレはなぜ圧倒的にボールを保持できるのか

1

2020年09月23日 06:31  webスポルティーバ

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真写真

消えていった天才Jリーガーたち>>

 川崎フロンターレが強い。Jリーグ史上最強かもしれない。

 18試合の1試合平均得点が3ゴールを超えている。平均得点で2位の横浜F・マリノスが1.95。サッカーで1試合平均の得点は1点台が普通で、川崎のように毎試合3点以上とるほうが例外である。




 川崎の得点パターンは多岐にわたる。パスワークでの崩し、ドリブル突破、クロスボールから、セットプレーからと、あらゆる形から得点している。それだけ攻撃が多彩なのだが、決定率そのものもリーグトップ。多くのチャンスをつくり、しかも抜かりなく決めている。

 この得点力の土台は圧倒的なボール保持力にある。川崎が優れているのはパスワークの質であり、技術の高さだ。それが端的に表れているのが、自陣からつないでいくビルドアップでの形状変化のなさである。

 Jリーグの多くのチームは、自陣でパスをつなぐ時にポジションを変化させる。横浜FMで有名になった「偽サイドバック(SB)」もあれば、MFがセンターバックの間に降りてくるなど、フォーメーションの形を変えることでパスをつなぎやすくしている。

 ところが、川崎はあまり形状変化を使わない。少なくともチームとして決まった形はなく、元のポジションのまま平然とパスを回してしまっている。これは技術が高くないとできない。

 たとえば、サイドバック(SB)からMFへのパス。斜め前方、中央へのパスを川崎は平然とつないでいる。

 通常このパスコースは選択しない。なぜなら、パスを受ける側が技術的に難しいからだ。パスが来る方向と、相手が寄せてくる方向が反対なので、相手とボールを同時に見ることができない。逆に守備側にとっては、ここはボールの奪いどころと言える。

 自陣の中央付近でボールを奪われればピンチに直結する。だから、多くのチームは受け手がフリーでないかぎりこのパスコースは選択しない。また、このコースを選択しなくていいように他の選択肢を用意する。そのために形状変化を行なっているわけだ。

中村憲剛。新・鉄人伝説の始まり>>

 しかし、川崎は相手にマークされていても平然とつなぎきってしまう。

 形ではなく技術で解決してしまっている。この技術の高さが、あらゆるプレーの土台になっているのだ。

 土台をつくったのは、風間八宏前監督の時代だった。風間前監督は「ボールを静止させろ」と選手たちに要求していた。ボールの中心から上の一点を触ればボールは静止する。足を引く必要もない。点に触ることがすべてなので、ボールが体より前でも懐でも同じように静止させられる。

 静止させられれば、逆にボールを動かすことも容易にできる。ボールを意のままに扱える技術と自信があれば、自ずと見えてくる景色は違ってくる。時間の感覚も変わる。相手のプレッシャーはプレッシャーでなくなる。

 ほかのチームなら躊躇する状況でも、川崎の選手たちにはまだ余裕なのだ。だから平然とパスをつないでしまう。通りそうもないパスも通す。簡単に言えば、プレーのレベルが違うということになる。

 しっかりした土台の上に4−3−3という建物を乗せたのは、現在の鬼木達監督である。

 4−3−3はヨーロッパの強豪チームではスタンダードとも言えるシステムだが、Jリーグでは採用するチームがほとんどなかった。4−3−3はざっくり言えば強者のシステムだからだろう。

 ボールを保持して攻め、敵陣からプレスしてボールを奪うのに向いている。バルセロナ、レアル・マドリード、リバプール、マンチェスター・シティ、バイエルンなど、それぞれのリーグで圧倒的な力を持ち、ほかとの格差がはっきりしているから、強者のシステムを採用しやすい。

 一方J1は、毎年終盤まで複数のチームが優勝を争う、力の均衡したリーグだった。強者のサッカーで押し切ろうとするには勇気がいる、むしろそれが蛮勇になりかねないリーグと言える。

 今季、4−3−3を採用するチームが急に増えた。開幕時点では優勝候補とは言えないようなチームでも採用していた。その背景にはビルドアップの進化がある。昨季から、形状変化を使い、GKもつなぎに参加させて、自陣からパスをつなごうとする傾向が出ていた。

 つなごうとするチームが増えるなら、それを破壊しようとするチームも増える。3トップは前線からプレスを仕掛けるのに向いていて、敵陣でボールを奪えれば崩す手間もなくチャンスをつくれる。4−3−3の採用は、ハイプレスを効果的に行なう目的もあったと考えられる。

 川崎には、もともと突出したボール支配力があった。ボールを失うのは敵陣が多いので、そこで即時にプレスを行なう守備が合理的だ。4−3−3は前進して5レーン(フィールドを縦に5つに区切る考え方)を素早く埋めてしまうのに向いている。

 相手によっては4−4−2も使っているが、即時奪回の守備戦術は変わりない。切り替えの速さ、インテンシティ(強度)の高さもあるが、川崎のハイプレスが効果的なのは、攻撃時の距離感が大きい。

 相手の隙間にポジションをとってパスをつなぎ、ボールを確保して、主にサイドでトライアングルをつくる。この時の距離感が比較的近い。狭くてもパスをつなぐ自信があるからだが、逆にそこでボールを奪った相手には川崎ほどの技術はない。そこで川崎は3人で素早く封鎖してしまえば、ボールを奪い返しやすい。つまり、攻撃陣の形がそのまま守備力につながっている。

 昨季、川崎にとってネックになっていたのは、ボールは支配できるが相手に引き切られてしまうと得点がのびないという悩みだった。4−3−3はそれの解消にも役立っている。

 サイドでの個人技を生かした崩しと、ゴール前のレアンドロ・ダミアンの高さを使うことで、スペースがなくても得点できるアプローチを手にした。大島僚太、脇坂泰斗といったインサイドハーフ向きの選手がいて、長谷川竜也、三笘薫、旗手怜央、家永昭博、齋藤学のウイングもいる。

 4−3−3は人材活用という点でも機能している。過密日程と、それに伴う交代枠の3人から5人への拡大は、選手層が厚い川崎にとって有利に働いた。

 4−3−3は形にすぎない。ただ、やってみたら川崎は形にふさわしい中身も持っていた。格差がなかったはずのJ1で、格差を見せつけるプレーができている。

    ニュース設定