『夢をかなえるゾウ』作者が夢を手放すまで…累計400万部で得た幸せ 見た目問題・気候変動に挑む理由

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2020年09月23日 07:00  ウィズニュース

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写真『夢をかなえるゾウ』シリーズで大ブレークした、作家の水野敬也さん。ベストセラー作家として、いま思い描いている「幸せの形」について聞きました=ミズノオフィス提供
『夢をかなえるゾウ』シリーズで大ブレークした、作家の水野敬也さん。ベストセラー作家として、いま思い描いている「幸せの形」について聞きました=ミズノオフィス提供

小説『夢をかなえるゾウ』シリーズで、一躍時の人となった作家・水野敬也さん(43)。今年7月には最新刊を発売し、改めてブレークしました。読者に社会的成功への近道を示す作風は、かつて自己啓発本を読み、挫折した経験に裏打ちされているといいます。コンプレックスを克服するため、有名になり、お金を稼ぐとの目標に向かい走り続けてきた水野さん。しかし最近、それだけでは幸せになれないと気付いたそうです。ベストセラー書を生み出した書き手として、今考えていることについて聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

【画像】『夢をかなえるゾウ』だけじゃない!「見た目問題」インタビュー集『顔ニモマケズ』の当事者たち

「あおられても行動できない」経験が原点
学生時代から自己啓発本を読んできました。「こうすれば社会的に成功できる」という著者の主張を紙に書いて、自室の壁に貼り出したものです。

でも3日も経つと忘れてしまい、結局行動できない。自己嫌悪に陥るばかりで「これじゃ、かえってマイナスじゃないか!」と思った。多くの自己啓発本は、内容の大半をその人の持論が占めていて、あとがきの最後に「行動しなければ意味がない」って1行で書いて終わってしまっているんですよね。

そこで2008年、自己啓発小説『夢をかなえるゾウ』を出版しました。関西弁で、偉そうなのに憎めないゾウの神様・ガネーシャが、「靴を磨く」「コンビニで寄付をする」といった簡単な課題を出す。登場人物たちは仕事や恋愛で結果を残します。誰もが三日坊主にならず行動できる本にしたい、と思ったことが創作の動機です。

実は最初の段階では、1年分の日課が365個並ぶだけで、物語ですらありませんでした。あおるようなフレーズも一切入れなかったんです。ただ目を通してみたら、正直つまらなかった(笑)。そこで小説に仕立て直し、歴史上の偉人を「ワシが育てたんや!」と言い切るガネーシャをメインキャラクターにしました。

「小さな成功を積み重ねれば、未来が変わるかもしれない」。本を手に取った人に実感してもらえるよう、課題の数も減らしました。こういった作りが受け入れられ、刊行済みの4巻組シリーズは、累計で400万部以上発行されています。

「100点」の人生でも幸せになれなかった
『夢をかなえるゾウ』というタイトルが象徴するように、僕自身、夢にこだわってきた自負があります。

自分で言うのもおこがましいですが、小学生時代は勉強も運動もでき、「神童」と呼ばれるほどでした。でも地元の名門中学に進むと、優秀なクラスメイトに囲まれ、むしろ劣等生になってしまったんです。理想からかけ離れた毎日を何とかしたいと思うようになりました。

一方で、こうも考えたんです。当時、Yくんというすごいイケメンの同級生がいました。彼が生まれつき90点の人生を歩んでいたとしたら、僕の場合は20点くらい。追いつくには、あと70点分縮めないといけない。大変だけれど、達成できたら、それまでの苦労について誰かに伝えられる僕は90点以上になれる。そんな思いから様々な努力を始めました。

いい本を売れば、他人からの評価が高まり、コンプレックスを乗り越えられるのではないか。強く信じ続け、『夢をかなえるゾウ』を書いてきました。しかし、必ずしもそうではないと悟った経験があります。

有名な女優さんとご飯を食べさせて頂く連載をしたことがあります。周囲からは「うらやましい」という声ばかり聞こえてきましたが、この連載で僕は毎回、緊張のあまり吐きそうになっていた。「仮に周囲から見て『100点』の日々を生きられたとしても、本質的な幸せとは関係がないんだ」と気付いたんです。

そういった経験の中で生まれた言葉を「夢をかなえるゾウ」のシリーズで書いてみたい。そう考え、今年7月に発売したシリーズ最新刊では「夢の手放し方」について取り上げました。病院で余命3カ月と診断された主人公が、家族のために一億円を稼ごうとする、というストーリーです。

夢を手放さざるを得なくなったとき、人は誰かの評価を満たすのではなく、自らの心と向き合わなければいけません。「他人ではなく自分の顔色をうかがうことも大事だよ」と、作品を通じて発信できたと思っています。

自己啓発本は指針なき時代の「教典」
一方で、いわゆる「夢をかなえる方法」を書いた自己啓発本は売れ続けていますよね。背景には、そういった本が読者にとって強い希望になり得るからだと感じています。

メディアに取り上げられる「社会的成功者」になることが、幸福への近道だ。そうやって資本主義の光の面を強調することで、生活の指針となる「教典」のようなものとして受け入れられているのかもしれません。

成功への憧れって、恋みたいなものではないでしょうか。対象をよく知らないからこそ、人々は夢をかなえようとする。筆者のバイアスがかかった理論や、自慢に満ちた自己啓発本は、そうした文脈の中で生まれます。だから、主張に「偏り」を含まざるを得ないんです。

ただ人間は、未来の可能性を示してくれる希望がないと生きていけません。それならば、より良質なものをつくり出した方がいいと思います。『夢をかなえるゾウ』では、神様という「上位概念」に考えを語ってもらうことで、偏りやうさんくささが緩和できたと思います。

他方で近年、世間からの評価を得ようと働き過ぎ、心を病んでしまうなどの弊害も目立つようになりました。懸命にお金を稼いだり、人からうらやましがれるパートナーと出会ったりすることを目指すだけでは、心豊かに生きられないかもしれない。だからシリーズ最新刊でチャレンジしたように、夢を手放す選択肢もあるというメッセージを届けているんです。

「偏った物語」集めて、生き方広げたい
5年ほど前から、社会問題を扱う本の企画に関わるようになりました。外見の症状で苦労する「見た目問題」や、気候変動などに関するものです。「お金持ちになりたい」「有名になりたい」と願い続けても、本質的な幸せが得られなかった経験に由来しています。

過去に「出世競争から降りよう」と考え、マインドフルネス(瞑想・めいそう)やサーフィンをやってみたことがあります。結果的には「僕だけが癒やされても、社会は変わらない」という思いが強まるばかりでした。

「経営の神様」と言われた松下幸之助は、「水道哲学」を提唱したとされています。水のように安く質がいい物を大量供給することで、人々が暮らしやすくなるとの考え方です。彼は資本主義的な成功以上のものを見ていたと思います。

持続可能な世界を実現するには、個人の利害という、小さな物差しで自分を測っていてはいけない。創作を続ける中で、そう思い至りました。

「あなたが今持っているものとは、違う価値観があるよ」「それぞれのルートに行けば、こんな幸せが待っているよ」。著書を通じて伝えようとしているのは、これらのメッセージなんです。社会問題を扱った書籍も自己啓発本も、執筆のモチベーションは同じと言えます。

希望とはある意味で「偏っている物語」と言えるかもしれない。でもそういった物語を集めれば、読者は様々なテーマに触れられるようになり、偏りは少なくなっていきます。

「夢をかなえるゾウ」でも、各巻は偏っていても、全体を通してすべての偏り――希望を提示するシリーズにしたいですし、それが一人一人が自由に生き方を選び、広げる環境づくりにつながると思います。これからも僕自身の夢に向かって歩き続けていきたいですね。

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  • うーん。正直「ボクはあいつらと違うよ?」って言いながら口説いてくる男、という感じ。むしろヒロシの「成功するばかりが人生じゃない」の方が刺さる。
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