テニス大坂なおみ選手の「七枚のマスク」に対する作家・下重暁子の答え

6

2020年09月25日 07:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真作家の下重暁子さん
作家の下重暁子さん
 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、全米オープンで優勝した大坂なおみ選手のメッセージについて。

【写真】笑顔がチャーミング!全米オープンで優勝した大坂なおみ選手

*  *  *
 二年ぶりにテニスの全米オープン優勝を果たした大坂なおみ選手は見違えるほど成長していた。この前は可憐さの残る少女だったのが、堂々たる戦いぶりであった。戦いぶりはもちろんだが生き方の姿勢を身につけていた。

 それが七枚のマスクである。

「私はアスリートである前に一人の黒人女性です」と自己認識をしっかりと示し、今の時代にあっても人種差別のやまない世界へのアピールを、入場時につけたマスクに込めた。アメリカでこの数年、警官に射殺されたり暴力にあって亡くなった黒人犠牲者の名前をマスクに書いて入場した。

 毎試合、一人ずつ違う人の名前を入れ、観客や全世界で観戦する人たちにアピールした。

 相当な勇気が必要だったはずだ。

 自分に出来ることは何か。自分にしか出来ないことは何か。一黒人女性、一社会人としての抗議のメッセージは、全世界の人々に響いた。その上での優勝、ほんとに素晴らしい。

 古くは南北戦争、のちのキング牧師の殺害、今も黒人などに対する人種差別はなくなるどころか、トランプ大統領になって再燃している。黒人初のオバマ大統領の登場は何だったのか。その問題の根深さは私たちの想像以上にアメリカに存在する。

 かつて「世界の教育」という民放のテレビドキュメントの取材で、ボストンのいわゆる「バシング」、校区の入り組んだ黒人と白人が同じバスで通学することによって、立て続けに起きた事件を取材した。両者のあつれきが爆発し、投石事件が起きたり、騎馬警官が出動した人種差別問題の一端に触れた。その時代とも本質的には、何ら変わっていない。

 優勝インタビューでどんな思いでマスクに被害者の名前を書いたのかを聞かれた大坂選手はこう答えた。

「質問を返しますが、あなたは(私の行動から)どんなメッセージを受けとりましたか」

 それは私たち一人一人に突きつけられた問いである。

 彼女は彼女に出来る最善の方法を取ったのだ。人々にメッセージを送る行動を起こせる存在は少ない。彼女がその責任を果たした。

 黙っている方がラクなのだ。テニスの四大大会でも政治的行動は禁止されることが多いが、今回は自由だったという。大坂選手のアピールに今度は私たちが返す番だ。彼女の問いかけを一人一人が胸に手を置いて考えたい。

 そして自分に出来る行動はないか。何をなすべきなのか。

 私は大学時代の数少ない友人と、今出来ることは何かを時々話す。

 政治や社会への疑問、そして私たちの意思を伝えるための抗議、それぞれが自分の場でやり続けると約束する。例えば、私なら物を書く場で表明する。友人は今も真実を知ろうと勉強を続け必要とされるデモに出かける。自分に出来ることをする。それが大坂選手への私の答えである。

※週刊朝日  2020年10月2日号

■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数

このニュースに関するつぶやき

  • この番組は観ましたよ。 人は神の前で平等であり、霊の向上の為に様々な人生を送るために、神と約束して生まれて来ている。行き方を教える宗教団体がトボケてはいけない。
    • イイネ!1
    • コメント 1件
  • 【速報】フランス大統領「ウイグル自治区へ調査団を!」 https://hosyusokuhou.jp/archives/48887511.html https://mixi.at/aeVldPe
    • イイネ!26
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(6件)

ニュース設定