目指すは南極? なぜ古い「ジムニー」は電気自動車になったのか

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2020年09月25日 07:01  マイナビニュース

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古い「ジムニー」をEV(電気自動車)化した上で、「ゼロ・エミッション走行による南極点到達」を夢みる男たちがいる。そもそも、なぜ彼らはクロカン四駆をEV化して、南極を目指すのだろうか? ZEVEX代表の鈴木一史氏と、彼らが作った急速充電対応のクロカン四駆EV「SJ2001号」を直撃した。

○見た目は古くても中身は最新のEV

日産自動車「リーフ」や三菱自動車工業「i-MiEV」の登場により、今や珍しい存在ではなくなったEV。旧車のエンジンを電動モーターに載せ替えるコンバートEVは、依然マニアックな世界ではあるものの、専門店の登場や高性能パーツの低価格化により、以前に比べてだいぶハードルが下がってきた。

しかし、そんな挑戦を今から20年以上も前に、本格四駆のジムニーを素材として始めたチームがある。しかも、目標は「自作EVでのゼロエミッション走行による南極点への到達」というからスケールが大きい。その団体が、鈴木一史氏が総責任者・代表を務めるNGO「ZEVEX」(ゼベックス)だ。

EVコンバート用の部品も資料も日本にはまだない時代に、海外から書籍などを取り寄せて「電動化のノウハウ」を猛勉強。チーム発足から3年後の2000年には、チームメンバーが所有していた「ジムニーSJ30」をベースとし、国内初のクロカン四駆EV「SJ2001」を作り上げた

「もともと載っていた2ストエンジンを降ろし、電動モーターに換装する作業、荷台に駆動用バッテリーを積載し、それらを制御する装置の設定。そして、構造変更や車検の通過といった合法化の手続きなど、何から何まで手探りでの作業でした。活動にかかるほとんどの費用は当初からメンバーの持ち出しで、お金関係の状況は今も変わっていませんね」

そう語る鈴木氏だが、地道に活動を続けるうち、手作りEVはいつの間にか5台に増台。シンプルな構造の直流モーター搭載車だけでなく、回生ブレーキが使えて、さらに人力での充電も可能なマシンも製作した。最初に作ったSJ2001号の改良も着々と進み、つい先日、街の急速充電器(CHAdeMO規格)で充電できる仕様へとアップデートが完了。CHAdeMOとはEV用急速充電方法における規格のことで、リチウムイオン電池に負担がかからないように設計された直流急速充電方式を採用したものだ。100Vまたは200Vで行われる普通充電に比べ、充電に要する時間が圧倒的に短くて済む。

○EV化で悪路走破性も格段にアップ

このマシン、日産リーフ用の中古リチウムイオンバッテリーを40モジュール、20kWh相当分搭載した仕様で、マネージメントシステムなども専用のものに一新した。見た目は古いジムニーだが、中身は最新のEVシステムというわけだ。想定される走行可能距離は満充電状態で130〜140キロ。現代の市販EVと比べても全く遜色ない実用性を備えている。

クロカン四駆ベースのEVで、急速充電できる設計としたのは市販車も含めて国内初とのこと。これは、20年前に車検を通してあったSJ2001号だからこそ実現できた快挙だという。鈴木氏は「現在は改造電気自動車の保安基準が改正されて、衝突安全やバッテリー認証などの要件が厳しくなっています。ジムニーをベースとした車両で急速充電に対応したEVを新たに作ることは、相当難しいと思います」と語る。

“EV四駆の面白さを知りたいのだったら、実際に乗るのが一番てっとり早い”とのことで、筆者もこのSJ2001号のステアリングを握らせてもらった。実際に運転してみると、その走行感覚は独特で、アクセルペダルを踏み込んでも排気音は全くしない(EVだから当たり前)。ただ、低速時にインバーターからカン高い音を発しているのが気になった。鈴木氏に理由を聞くと、「歩行者や視覚障がい者への注意喚起のため、あえてそうした仕様にしている」ということだった。

ギアの変速システムはマニュアルミッションだが、モーターゆえにエンストを起こす心配がなく、クラッチを踏む必要はない。副変速機をローに入れ、ギアを2速または3速に放り込みさえすれば、モーグル地形やV字溝など、どんな地形であっても勝手にスルスルと走破してしまう。

要するに、現行ジムニーをはじめとする既存のレシプロエンジン車に比べ、圧倒的にオフロード性能が向上しているのである。これほど悪路走破性に優れ、しかも日常の足としても使える市販EVが存在したなら、「多少高価でも欲しい!」。そう思わせてくれる完成度の高さだった。

○「道路から生じる環境負荷」が表面化する未来を見据えて

ここで、ZEVEXがクロカン四駆をベースとしたEVの製作になぜ乗り出したのか、いきさつを探ってみたい。

鈴木氏はもともと、四駆での“極限走破”をキーワードにオフロード競技会を開催、冒険に挑戦してきた「アイアン・バール・カップ実行委員会」という団体を立ち上げた人物。「アイアン・バール・カップ」は、四駆本来の悪路走破性を極限まで追求し、もし自走不可能な悪路ならばウインチ(電動モーターが内蔵されたリールでワイヤーを巻き上げ、車を手繰り寄せるための装置)などの道具を駆使したり、車をいったん分解して、人力で運んででも走破を目指したりする過激なスタイルで、四駆ブームの最中にあってもかなり異端だった。

そんな、一見するとエコの正反対に見える趣味に没頭してきた人物が、なぜ四駆をEV化するチャレンジを始めたのか?

「1990年代後半から2000年代初頭といえば、パジェロやランクルなどの大ヒットで始まった四駆ブームが過ぎ去り、厳しいディーゼル規制が施行されていった時代です。クロカン四駆が一気に斜陽カテゴリーになっていきました。それとタイミングが重なる1997年は、COP3において『京都議定書』が採択された年でもあります。ところが、クロカン四駆の利点は今も昔も『デコボコ道を走れる』という一点のみ。普段はあまり人の役に立つわけではないのに、重くて燃費が悪いのだから、存在意義が問われるようになったのは必然的な流れでした」

「プリウス」などのエコカーがヒットし、何においても“エコ”であることが良しとされるようになりつつあった時代でもある。ところが待てど暮らせど、自動車メーカーから本格四駆の量産エコカーが出る気配が一向にない。それならば、「自分で作るしかない」と鈴木氏は一念発起。コンバートEVを作る団体を立ち上げたというわけだ。ただ、実はこの経緯は、ストーリーの一部でしかない。鈴木氏がベース車にあえて“クロカン四駆”を選んだ理由はもっと壮大であった。

「『悪路を走れる』というクロカン四駆の才能が、100年後の『くるま社会』を救う切り札になると私は信じているんです。CO2の問題が解決した未来において、次に取り沙汰されるのは『道路から生じる環境負荷』の問題に違いない。そうなったとき、未舗装の道、あるいはありのままの地球の表面を走れる能力が必要になってくる。要は、地球環境に逆らわないクロカン四駆の移動スタイルが、実はサステイナブルであることをいずれ人類は知ることになると私はみているのです」

「ウェル・トゥ・ホイール」(走行時に排出されるCO2だけでなく、エネルギー源となる燃料の採取や電力の発電過程、車の製造工程も含めた全体のCO2排出量全体で環境性能を評価する考え方)という言葉が一般的になりつつある現在。しかし、「道路の存在」を問題にする声は今のところ聞こえてこない。将来的に、クルマからも発電所からもCO2が出なくなったとき、次に環境問題の矛先が向かうのは道路になるだろうと鈴木氏は予見しているのだ。

考えてみると、舗装路は自然の地形を切り拓き、石油からできたアスファルトを敷いて作られたもの。そこには莫大なエネルギーと資源が投入されている。もし、これをなくして自然の地形そのままを車が走れるようになれば、確かに地球環境へのダメージを大幅に軽減できるだろう。飛躍的な考えに聞こえるかもしれないが、人類が他の星に移住を始めるような遠い将来に、どんなことが社会問題になっているかは分からない。いつか来るその日に備えんがためのクロカン四駆をベースとしたEVの製作であり、「ゼロ・エミッション走行による南極点到達」という目標なのである。

彼らは目標に向けて、トレーニングとマシンの改良を淀みなく続けてきた。国内での寒冷地テストはもとより、2005年にはSJ2001号とは違うEVジムニーで厳冬期に氷結する間宮海峡(樺太とユーラシア大陸の間にある海峡)の横断にチャレンジ。雪原の真ん中で荷物の搬送を依頼していた業者に裏切られ、法外な追加料金を請求されるというトラブルと悪天候が重なって横断達成とはならなかったが、氷点下30度を下回る環境下でも風力発電機や自作EVが問題なく稼働し、ゼロ・エミッションで走行できることは確認できた。その前後をあわせ、総計9回にわたってロシアの地へ現地調査に訪れている。

現在は南極アタックに向けて、南米チリから南極大陸の基地までマシンと人材を輸送機で飛ばしている会社と交渉している最中だ。最大の問題は資金面だが、「ZEVEX発足当初に想定した金額よりは少なくて済みそう」とのこと。それでも最低で数千万円はかかるので、スポンサー探しが今後の活動に向けて最大の課題となっている。

もしも、ゼロ・エミッションの電気だけをエネルギー源とするEV四駆で南極点への到達に成功したなら、世界初の偉業となる。四駆の存在意義、いや、車社会の100年後を賭けた、小さなチームの壮大なチャレンジ。応援せずにはいられない!

田端邦彦 たばたくにひこ 四輪駆動車専門誌での編集業務を経験した後、自動車メディア、ガジェット、住宅、コミュニティなど様々なジャンルでライターとして活動。車などのデバイスと人間の豊かな関係を日々探求している。プライベートでは公共空間をアウトドアのフィールドとして有効活用するプロジェクトの運営にも参加。 この著者の記事一覧はこちら(田端邦彦)
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