Twitter発の猫マンガ『手から毒がでるねこのはなし』に学ぶ、“どん底な人生の乗り越え方”

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2020年09月25日 11:11  リアルサウンド

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 生きていると、もう2度と這い上がれないと思うほど、どん底な日を経験することがある。幸せなんてみえない。このまま絶望に飲みこまれてしまいそう。そんな風に、真っ暗な闇の中で迷子になりそうな時、手にとってほしいのが『手から毒がでるねこのはなし』(原田ちあき/エムオン・エンタテインメント)だ。


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 猫マンガというと、ユニークな日常や猫の習性をコミカルに描いた作品を連想する方も多いだろう。だが、本作は他の猫マンガとは一線を画している。ここに描かれているのは、“幸せの見つけ方”だ。


手から毒が出る孤独な「もうどく」は可哀想な猫か?
 いつもシーツを被っている主人公の「もうどく」は手から毒が出るため、いつもひとりぼっち。いたずら好きな兄弟猫「悪ねこ三兄弟」からは「ばけもの」と呼ばれたり、石を投げつけられたりしている。しかし、もうどくは何をされても泣かず、弱音も吐かない。その理由は、“誰も困らせたくないから”だ。


 実はもうどくは、とても優しい猫。常にシーツを被っているのは、変な色の自分を見ることでみんなが嫌な気持ちにさせないため。友達と手を繋いだことがないもうどくはゴミ捨て場で拾ったぬいぐるみを唯一の家族とし、誰かに抱きしめられるってどんな感じなのだろうと夢見ている。


 こう記すと、もうどくは「可哀想な猫」のように見えるかもしれない。だが、本作には孤独を抱えながらも図太く、人生の楽しみ方を模索するもうどくの姿も描かれている。例えば、ご飯を貰いに「しわしわ」の巣に行ったり、海で拾った貝殻を宝物のように大切にしたりと、自分の足で希望を見つけに繰り出すのだ。


 こうした、ただの“可哀想で孤独な猫”では終わらない描写に私たちは勇気づけられる。幸せはもしかしたら、身近なところにもたくさん転がっているのかもしれない。そう思うと、先の見えない暗闇の中でも、図太く貪欲に生きてみたくなるのだ。


他者との付き合い方を振り返れる「処世術本」
 本作は絶望した心に光を与えてくれるだけでなく、人との向き合い方についても考えたくなる一冊だ。


 もうどくは世話好きのギャルやヒーローになれなかったサラリーマン、偶然拾った金魚など様々な人物や生き物と出会い、各エピソードでクスっと笑えて、ホロリと泣ける絆を見せてくれる。誰に対しても愛を配るもうどくの姿を見ていると、周囲の人に対する自分の接し方を振り返りたくなる。


 傷を抱えるもうどくは痛みを知っているからこそ、他の誰かに対して優しい。深い悲しみや孤独を感じると人は卑屈になったり、他者に対して優しい気持ちが持てなくなったりすることも多い。だが、痛みを知っているからこそ、寄り添える孤独や分かり合える傷は必ずある。人の失敗を執拗に責めたり、異なる価値観を徹底的に排除しようとしたりしてしまう現代社会に生きる私たちがもうどくの姿から学ぶことは多いように思うのだ。


 また、もうどくをいじめる悪ねこ三兄弟のひとり、ぎがとのエピソードも心に刺さる。実は初め、ぎがともうどくは友達だった。しかし、もうどくがシーツの下を見せてくれなかったことにより、関係は一変。


 毛の色がみんなと違う事なんて、とっくに気づいている。そんなことで嫌いになんてならない。それなのに隠すのは、それほど自分との友情を信じておらず、大切にも思っていないからではないのか。そう思ったぎがの心にはドロドロした悪意が募ってしまい、もうどくのことを傷つけるようになってしまったのだ。


 しかし、ある日、ぎがは人間から石を投げつけられ、痛みを感じた時に気づく。何も言わないし、泣きもしないから平気だと思っていたけれど、もしかしたらもうどくも、こんな風に痛い思いをしているのかもしれない……と。


 私たちは自分の傷には敏感だが、他者の痛みには鈍感だ。誰かに傷つけられて初めて、自分が相手につけてしまった傷の大きさや深さを後悔することも少なくない。では、取り返しのつかない過ちは、どう償えばいいのか。ぎがともうどくのエピソードはそんな問いに答えを授けてくれる。


 相手のことを大切に思っていたからこそすれ違い、傷つけ合ってしまった2人の話はぎが目線、もうどく目線に立って考えてみることで全く違った見え方になるのもユニークな点。もどかしいすれ違いを目の当たりにすると、あなたも大切な人との向き合い方を振り返りたくなるはず。


 本作は人生に迷った時、人間関係に悩んだ時にそっと開きたくなる漫画形式の処世術本。あなたの中にいる、ぎがやもうどくともぜひ向き合ってみてほしい。


(文=古川諭香)


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