16匹の猫の表情に滲む、幸せな暮らしーー後藤由紀子が話題の猫本『京都西陣 町家に暮らす16匹の猫たち』を読む

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2020年09月25日 17:11  リアルサウンド

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『京都西陣 町家に暮らす16匹の猫たち』

■愛猫たまと16匹の猫


 ちょうど2か月前に愛猫たまが息を引き取りました。16歳なので寿命と言えば寿命。自分の中でも、家族の中でも納得はしているのだけれど、その状況になかなか慣れない時間を静かに過ごしています。帰宅すると玄関で三つ指ついていつも待っていた姿がないことや、ドアの横からじっとこちらを見ている気配とか、体のどこかをそっとくっつける感触とか、かわいいかわいいと抱っこをしていた存在がなくなり、ぽっかり穴が開いた状態でした。


参考:心地よい暮らしの達人・後藤由紀子の“愛しい日々の読書” 第1回:八千草薫『まあまあふうふう。』


 
 そんな時に表紙に惹かれて手に取ったのがこちらの本。


 とても素敵な町家の窓辺、猫たちがそれぞれの座布団を敷いて、ゆったりとくつろいでいるというなんとも居心地の良い写真。幸せな普段の暮らしを物語っています。1枚1枚の写真をじっくり眺めていると自然に目じりが下がっている自分に気がついたりして。猫が16匹とたくさんいるのに、十匹十色でそれぞれの個性が際立っていて面白いものだなぁと思います。


 後半、自己紹介のページがあります。身体は大きいけれど臆病だったり、おねえさんキャラだったり、自分は人間と思っているから猫たちとつるまなかったり……。もう一度、前のページに戻って顔を見ると確かにそんな表情をしています。中でもごはん風景の写真と白玉ちゃんとワンダーちゃんの写真が好きです。たくさんで暮らしていても仲良しと苦手があるのですね。


 そうよね、あるよね。


 古いたんすの引き出しの中で気持ちよさそうに寝ている姿もなんともかわいいものです。この町家がとにかく素敵で、しつらえなどもやり過ぎずうっとりします。そのテンションと猫たちのテンションがしっくりと合いまっているように思います。


■愛情は猫も人も表情ににじみ出る


 いつか訪れたい場所がひとつ増えました。去年、里親探している方からおすすめされたことがありました。家族に相談したら「そんなことしたら、たまがかわいそう」という、娘の猛反対を受けて断念したことが2回ありました。たまを亡くした今、もしあの時にあの子たちを引き取っていたら…と思うこともありますが、きっと悲しみが減ることはなく、今の気持ちは変わらなかっただろうなぁと思います。


 家族ですからね、こればっかりは理屈でどうなるものでもないです。お風呂に入ると、ドアの外で小さくニャンと鳴いて入ってくるたまがいなくなり、毎日毎日バカみたいに泣いていましたが、それでも新年が明けて心機一転、ほんの少しはすっきりした気持ちで日々過ごしていけたらなと思います。


 16年間抱っこしない日はなかったくらいに愛しきりました。この町家に住む16匹の猫たちも、家族やたくさんのお客さんからかわいがられて幸せな人生を送っているのでしょうね。愛がいっぱい詰まっていて心あたたまる暮らしをしていると、猫も人も表情ににじみ出るものです。それを味わいたくて、これからもこの本を、何度も何度も手に取って見続けてしまうでしょう。本棚にしまうことなく、居間に置いておく1冊となりそうです。


■後藤由紀子(ごとう・ゆきこ)
1968年静岡県生まれ。静岡県沼津市の雑貨店「hal(ハル)」店主。庭師の夫、長男と長女の4人家族。センスの良い暮らしぶりが雑誌などで人気。著書に『50歳からのおしゃれを探して』『おとな時間を重ねる 毎日が楽しくなる50のヒント』『毎日続くお母さん仕事』『日々のものさし100』など、暮らしまわりにまつわる著書多数。


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