「教師がトイレで娘にわいせつ行為」 両親の必死の訴えを信じない学校…提訴に至るまでに何があった?

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2020年09月26日 08:41  弁護士ドットコム

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明るく活発だった娘から突然、笑顔が奪われた。夜も眠れず、食欲も落ち、外出もできなくなった。原因は、安全であるはずの小学校で、信頼していた教師からのわいせつ行為ーー。


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そんな苦しい思いを打ち明けるのは、中学1年になる女の子の両親だ。女の子が千葉県内の公立小学校の5年生だった2018年2月、学校のトイレで男性教師からわいせつな行為をされたと打ち明けた。両親はすぐ学校側に説明を求めたが、「教師本人が認めていない」という理由から、何も対応をしてもらえなかったという。



困った両親は、代理人の弁護士やこどもの人権擁護活動をしているNPOの協力を得て、県教委や自治体の教委、学校側と協議。女の子が安心して学校に通い、勉強が続けられる環境を求めてきたが、最後まで男性教師のわいせつ行為は認めず、転校まですすめられたという。第三者による調査もいまだおこなわれていない。



女の子は6年生のときにPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。中学生となった現在も登校できない状態が続いている。女の子と両親は2019年1月、教師や県教委などを相手取り、千葉地裁に計約1000万円の損害賠償を求める提訴に踏み切った。



なぜ、教師によるわいせつ事件は繰り返されるのか。また、女の子と両親はなぜ訴訟という手段をとらなければならなかったのか。背景には、「教師がわいせつ事件を起こすわけがない」という前提を変えようとしない、学校や教委の体質にあるという。訴訟にいたるまで何が起きていたのかを取材した。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●最初は「くすぐり」から始まったわいせつ行為

それまで、両親の目には女の子の様子は普段と同じように見えていた。ところがある日、女の子が母親に「学校に行きたくない」と言い出した。驚いた母親が話を聞くと、女の子は学校で男性教師に体を触られたと打ち明けた。



「1カ月近くずっと我慢してたらしいのですが、もう耐えられないと思ったそうです」と母親は振り返る。



訴状などによると、男性教師が女の子に触り始めたのは、2017年9月。最初は、休み時間に廊下を歩いていたら、肩に手をかけられたり、あごのあたりをくすぐられるなどされた。11月には音楽発表会が開かれた際、移動のバスの中でわきの下をくすぐられた。2018年1月にも、廊下で通せんぼされ、わきの下などをくすぐられた。



そして2月、男性教師は体育館のトイレ掃除で、もともと2人だった担当を女の子1人だけに変更。トイレの個室内で、女の子の頭をなでたり、体を触ったりしたうえで、服の中に手を入れて胸を触った。このわいせつな行為は何度も繰り返されたという。



「気持ち悪い。なんでこの先生は私の体を触るのだろう」。女の子は当初から嫌悪感を持っていたが、体育館のトイレという「密室」で、行為がエスカレートしたことから、恐怖のため学校に行くことができなくなってしまった。



●調査しない学校、転校をすすめた自治体教委

男性教師は、別の学年の担当で同僚から信頼もある教師だった。すぐに母親は女の子の担任教師に話した。



「担任は半信半疑のようで、『ああそうなんですか』というだけでした。まさかそんなことをする先生じゃないと思ったのでしょうね」と母親は悔しさをにじませる。



担任では話がわからないと考えた両親は、どんな被害があったか紙にまとめ、安心して女の子が登校できるよう、すぐに男性教師を別の学校などに異動させてほしいと学校側に求めた。



「学校からは、異動させることはできないと言われました。理由は『本人が認めてないから』の一点張りです。でも、学校側はきちんと調査せず、男性教師本人に話を聞いただけでした」



自治体の教委にいたっては、別の小学校に転校させるようにすすめてきた。一方、女の子自身も勇気を出して、スクールカウンセラーと面談の機会をもうけた。



「スクールカウンセラーは、その場では『大変だったね』『よく話せたね』と親身になってくれているようでしたが、あとから『人間の記憶は100%じゃないから信じることができません』と言われました。こりゃだめだと思いました」と父親は話す。



両親と女の子の必死の訴えは、一切信じてもらえなかった。それでも、両親は娘が学校に戻れるよう、さまざまな働きかけをした。



「せめて土曜日だけでも、補講をさせてもらえないかと学校に頼みましたが、『労働基準法で週に40時間以上働けないからだめだ』と言われました。あんなことをした教師だけでなく、学校側の対応にも腹が立ちました」



父親は、憤りを隠さない。男性教師の行為によって通学ができなくなったにもかかわらず、女の子の3学期の通知表には「病欠19日(体調不良)」と記載された。訂正を求めても、訂正してもらえなかった。



この間にも、女の子はどんどん食欲が落ち、夜も眠れない状態が続いた。楽しかった学校に通えず、友だちに会うにも不安を覚えた。女の子は6年生になってからPTSDと診断されている。



●「女の子を励ますためにやった」と弁解

6年の新学期を迎えるにあたり、学校側が提案してきたのは、「男性教師が女の子に接触しないよう対応する」というものだった。それを信じた両親と女の子は2018年4月、始業式に参加した。しかし、女の子は校内で男性教師と出くわしてしまった。そのときの様子を母親はこう話す。



「娘は教師を見た瞬間に、動けない状態になりました。それから、私のところに駆け寄って抱きついてきました。娘は震えていました。



少なくとも、その教師を別の学校に異動させるのが普通だと思っていましたから、新年度になってもその教師が学校にいたこと、そして、接触をさせないと約束したにもかかわらず、実際はまったくそのような対応がとられていなかったことに、本当に腹が立ちました」



男性教師の姿を見て、再び強い恐怖を抱いた女の子は、通学できなくなってしまった。学校側は、「娘さんが安心して登校できるよう最善を尽くす」と聞こえの良い言葉を並べるばかりで、実際の学校は女の子にとって安心できる環境ではなかった。



悩みに悩んだ末、両親は児童虐待などの事件を扱っている村山直弁護士に依頼した。村山弁護士が千葉県教委、自治体の教委、学校それぞれに対しきちんと対応するよう申し入れをおこなった。



「自治体の教委と学校は、トイレでおこなったわいせつ行為については否認しました。くすぐったことなどは一部、認めましたが、『女の子を励ますためだった』と弁解し、セクハラであることは否認しています」と村山弁護士。自治体の教委と学校は、「男性教師本人が否定している。事実が確認できるまでは異動はできない」と繰り返すばかりだった。



県教委も「教員の異動は、市町村教委の内申をもっておこなうものであり、内申がないので何もできない」として、自治体の教委への指導や監督を実施しなかった。



●事件発覚から半年、やっと男性教師は異動

こうしたやりとりは、文書でおこなわれていたが、進展しないと判断した村山弁護士は、学校における虐待事件など、子どもの人権を守るための活動をしているNPO法人「千葉こどもサポートネット」の米田修理事長に協力を依頼した。両親をまじえ、2018年6月に県教委、自治体の教委、小学校と協議をおこなうことになった。



父親は「協議で自治体の教委の担当者は『なんでこの場があるのかわからない』と言っていました。これ以上何を求めるのか、という意味でしょうね」と話す。



長年、教師による体罰・暴言や、わいせつ事件などの学校内虐待について、子どもの支援活動をしてきた米田理事長は、「子どもへの虐待が起きたときに、加害者と被害者を引き離すのはセオリーです。子どもの権利を守るという基本からで、家庭内虐待では当たり前のことですが、学校ではまだまだ遅れています」と指摘する。



協議の結果、やっと男性教師は2学期を機に、小学校から異動になった。また、男性教師と校長は、「教職員による不適切な指導」という理由で、自治体の教委から口頭厳重注意を受けた。



女の子が両親にわいせつ行為を打ち明けてから、半年が経とうとしていた。しかし、ここまで両親が手を尽くしても、自治体の教委と学校がわいせつ行為を認めることはなかった。



実は、両親はわいせつ行為がわかった直後、警察にも被害届けを出した。しかし、結果は不起訴に終わっている。体育館のトイレで一対一での行為だったため、誰も目撃者がいなかったことが影響したと推測される。



「警察には、『たとえば、きゃーっと声をあげて逃げて、誰かがそれに気づいた場合も、証拠になる』とは言われました。でも、娘はそのとき、怖くなって身動きがとれなかったそうです」と父親は話す。





●他の被害を調べるアンケートを男性教師が配布

結局、教師によるわいせつ行為に対し、学校や教委の反応は鈍かった。両親と女の子は昨年1月、民事訴訟を起こすことにした。



「最初から提訴しようとは思っていませんでしたが、今後、教師によるわいせつ行為を受けて、学校に通えなくなってしまう子を、二度と出したくないという思いから、提訴することにしました。いくら学校や教委に訴えても、うちの子が嘘をついたと言われてしまいました。きちんと第三者委員会をつくって、事実を調べてほしいと思います」と父親は訴える。



男性教師本人の聞き取り以外に、学校では同様の被害があったかを調べるアンケートがおこなわれたことがあった。その結果、ほかの子どもに被害はなかったというが、両親によると、その男性教師もアンケート用紙を配り、記入する子どもたちの名前を書く欄もあった。アンケート用紙は、学校で書かされたという。



しかし、そのアンケート用紙は被害にあった女の子には配られなかった。また、女の子の両親が男性教師の担任していたクラスの女子全員の家族に対し、独自の聞き取りをおこなったところ、女子3人がくすぐられたとして、学校に相談していたことがわかったという。



村山弁護士は「学校で起きたことについて、しかも、当該教師の前で、子どもたちが本当のことを書くことは難しいと思います。本当に子どもの立場を考えれば、家庭内で書かせて、提出先も第三者にするべきです」と話す。



●教師のわいせつ行為はなぜ起きるのか?

こうした背景について、米田理事長はこう説明する。



「結局、教師によるわいせつ事件は、被害者の子どもの権利救済の視点で、対応の基準が整備されていないことに欠陥があると思っています。



教師のわいせつ行為などを児童虐待の問題にしようとせず、教委も児童相談所も警察も、その対応を整備してこなかった。直接の被害、さらに子どもの権利擁護制度の不備による被害、二重の被害を受けている状態です。



しかし、たとえば千葉県では、今回の事件があった平成29年度、13名の教師がわいせつ行為などで処分されています。これ以外にも、問題化されない隠れた事件はあると思います。



ところが、もう何年も教委や学校の対応はまったく変わっていません。教師の個人的な不祥事問題として処理しているだけです」



一方、村山弁護士も「千葉県には『子どもを虐待から守る条例』もありますが、児童虐待防止は、あくまで家庭が対象で、子どもの権利全体にわたるようなものがない。学校は抜け落ちてしまっています」と指摘する。



●県と自治体は争う姿勢

村山弁護士によると、裁判では、男性教師による違法なわいせつ行為のほか、教委がこどもと教諭を密室で2人きりにならないよう環境を整えるなどして、事前にわいせつ行為を防止するための監督義務違反があったことを指摘している。また、学校が適切な対応や調査を実施しなかったとする、調査・環境調整義務違反などもあたったと主張している。



これに対し、被告の教委側は争う構えをみせている。県教委は「わいせつ行為及び、セクハラにより、毎年何人か懲戒処分を受けた者が発生している」としつつも、「被処分者自身の倫理観自覚の問題である」などと主張し、県教委の義務違反はないと反論している。



また、自治体の教委は、女の子が「自らが登校しないことを正当化するための理由として、当該教諭によるわいせつ行為を誇張して述べる可能性があった」ため、信用できないと反論をしている。



村山弁護士は「このような教育委員会の責任放棄ともとれる主張、子どもの被害の訴えをありもしない理由で信用できないとする姿勢により、ご両親はさらなる心の傷を負っています」と話す。



教師によるわいせつ行為の再発防止には何が必要なのか。裁判を通じて両親らは訴えていく。次回の期日は11月9日、千葉地裁で開かれる。


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  • 本当にごく一部だけ。こんな犯罪者がでることで、やれ、教師はと批判の声が挙がる。みんな努力してるし子どものことを考えてるのに�फ�á��ܤ���
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  • くすぐった事を正当化してるけれども、そもそもその時点で普通の感覚ならありえないんだよ。
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