なぜ神宮球場で呑むビールはうまいのか。「売り子」あるあるとゲン担ぎの飲み方

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2020年09月26日 16:51  webスポルティーバ

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【特定の売り子さんからビールを買わない理由】

 野球観戦において、僕の手元にはいつもビールカップがある。北海道の札幌ドームから、福岡のヤフオクドーム(現PayPayドーム)まで、全国の球場でビールを呑んだけれど、「もっともおいしいビールは?」と尋ねられたら、何の迷いもなく「神宮のビール!」と答えるだろう。




 花の都の真ん中の「東京・青山」という絶好のロケーションを誇る明治神宮野球場。球春到来を告げる春風の中での一杯。あるいは照りつける太陽の下での一杯。夏の夕暮れ、セミの声を聞きながら薄暮の中での一杯。完全に太陽が沈み、月夜に浮かぶ打ち上げ花火を満喫しながらの一杯。秋には神宮のイチョウ並木を眺めながらの一杯。まさに『日本全国酒飲み音頭』よろしく、いつ呑んでもうまいのが「神宮のビール」なのである。

 巨人ファン、中日ファンには、本拠地のドームとは違う「屋外球場」の魅力を堪能してほしいし、なかなかホーム球場に通えない関東在住の阪神ファン、広島ファンには都心の利便性を痛感してほしいし、「東横シリーズ」の同志であるDeNAファンには、横浜スタジアムとはまた違ったレフトからの光景を楽しんでほしい。

 個人的に、ビジターファンにおすすめなのが、レフトスタンドから一塁側内野席後方に見える東京タワー。ライト側に陣取るヤクルトファンには味わえない光景だ。

 神宮ではK社のビールばかり呑んでいる。「A社やS社のビールは嫌いだ」というわけではないけど、若い頃から呑み慣れた銘柄のビールをついつい選んでしまう。売り子のお姉さんは特に決めていない。K社のビールであれば、自分の呑みたいタイミングで近くにいる売り子さんに声をかけるのだ。

 これは、個人的な「苦い経験」から生まれた習慣だ。ある年、ふとした思いつきで「今年はこの売り子さんからビールを買い続けよう」と決めたことがあった。笑顔のステキな特定のAさんから徹底的にビールを買い続けることにしたのだ。毎試合、何杯も買っていれば自然と顔なじみになる。

 ひと言、ふた言、会話を交わしているうちに、次第にAさんが僕の横を通るたびに軽く会釈をするようになった。それはなかなか悪くない気持ちだった。しかし、その視線はいつも僕の手元に注がれている。そうなのだ。彼女は「ビールの残量チェック」をしているのだ。元来のええかっこしいの性分のせいなのか、それに気づいてからは残りを一気に飲み干してお代わりを頼むようになった。

 正直言えば、「もう呑みたくないなぁ」とか、「手元のお金が寂しいなぁ」という時にも、「武士は食わねど高楊枝」の心意気でお代わりを頼んでしまうのである。武士でもないのに。また、その売り子さんの姿が見当たらず、別のコから買った時にAさんが登場すると、まるで浮気の現場を見つかったかのように後ろめたい気持ちになったことも何度もある。

 こうした煩わしさに懲りたため、翌年以降は特定の売り子さんに偏ることなく、身近にいるK社の売り子さんから購入して事なきを得ているのだ。

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【ビールの売り子さんにまつわるゲン担ぎ】

 ビールを呑みながら、さまざまなゲンを担ぐこともある。貧打線が続き、なかなか点が取れない時には、「今日は点を取るまで一杯も呑まない」と決め、結局試合終了まで一杯も呑めなかったこともある。蒸し暑い夏の夜だった。体中の水分が蒸発したかのような、生き地獄のようなカラカラの一夜だった。




 あるいは「今日は、『1点につき一杯』ご褒美に呑もう」と決めた途端、初回にラミレスだったか、ガイエルだったかがいきなり満塁ホームランを放ち、試合開始早々いきなり4杯の生ビールを呑み干すという間抜けな目に遭ったこともある。同様のゲン担ぎで、ヤクルト打線が爆発して、ひと晩で15杯も呑んだ時には「もうこのゲン担ぎは封印しよう」と心に決め、それ以来一度も決行していない。

 最初に買った売り子さんのビールを呑んでいる時に点が入ると、「今日はこのコから買おう」と心に決め、ひたすらその売り子さんから買い続けることもある。逆に、チャンスでの凡打が続き、なかなか点が入らない時には、「こんどは違う売り子さんから買おう」と、次から次へと、いろいろな売り子さんから何杯もお代わりすることになる。

 勝手に「勝利の女神」に崇められたり、「疫病神」に貶められたり、売り子さんもいい迷惑だと思うけど、思ってしまうものは仕方がない。ゲン担ぎとはそういうものだ。

【「神宮のビール」が美味しい理由】

 かつて、「元売り子さん」と知り合いになり、彼女の友だちも含めて数名に「ビール売りのリアル体験談」を聞いたことがある。各販売基地によって状況は異なるようだけど、彼女たちの報酬は「1試合2000円程度の基本給」に「1杯40〜50円の歩合給」が加算されるのだという。

 神宮球場の場合は「1試合につき100杯程度はほとんどのコが売ることができる」そうだが、それ以上になると「いかに常連のお客さんをつかむか」が大事になる。そのために「試合前にはチームの最新情報をチェック」し、「お客さんとの会話はメモ」し、「少しでも顔と話の内容を覚えるべく努力」するのだという。

 自分の体験を基に、「勝手に"勝利の女神"扱いされたり、"疫病神"扱いされたりされている実感はあるの?」と尋ねると、彼女は驚いた表情を浮かべた。

「えっ、そんなことあるんですか? 面と向かって言われたことはないですけど、もしも、『お前からビールを買ったから負けた』とか言われたら、『私は何も関係ないです』って言っちゃうでしょうね(笑)」

 そりゃそうだ(笑)。チームの勝敗、選手の成績と売り子さんは何も関係がない。わかってはいるものの、ついついゲン担ぎをしてしまうことを許してほしい。

 関東の売り子さんたちは、神宮球場だけでなく、メットライフドームやZOZOマリンスタジアムと掛け持ちする子も多いのだという。実際に他の球場で観戦していて、「あっ、あの売り子さん、神宮にもいるな」と思うことはしばしばある。彼女たちにとっては急勾配のメットライフドームや、アップダウンの激しい東京ドームよりも「平坦な神宮球場は売りやすい」そうだ。そして、「ドームよりも屋外球場は気持ちいい」のだという。

 売り子さんのひとりがこんなことを言った。

「コンビニで買えば300円程度のビールを、私たちは750円で売っています。それは本当にありがたいことです。だから、私たちは750円以上の付加価値をお客さんに提供する責任があると思っています」

 この言葉を聞いて、思わずグッときた。「球場で呑むビールが美味しいのは、そこに生の野球があるからだ」と思っていた。でも、さらにそこには「売り子さんたちの華やかな笑顔と努力」も加味されていることに気がついたからだ。

 神宮球場のビールは美味しい――。長年の経験から理解していたことではあるけれど、彼女の言葉を聞いて、あらためてその理由の一端がわかったような気がした。

 神宮球場では、9月25日から阪神タイガースとの3連戦が行なわれている。本格的な秋の訪れの中で呑むビールも美味しいことだろう。でも、呑みすぎ注意。コロナ禍において、マスクもつけずに酔って大騒ぎしたり、ビールをこぼして隣のお客さんに迷惑をかけたりするのは論外だ。ビールは美味しく、楽しく。ヤクルトは強く、たくましく。さぁ、神宮球場へ行こう!

このニュースに関するつぶやき

  • @コンビニで買えば300円程度のビールを、私たちは750円で売っています・・・それを付加価値とみるか、重たいビールサーバーを担いで階段を上る労働の対価と見るか・・・俺は彼女たちが可哀想に見える。
    • イイネ!4
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