早期に見つかる前立腺がんの監視療法とは 10年近く経過する人も

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2020年09月26日 17:00  AERA dot.

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写真(イラスト/今崎和広)
(イラスト/今崎和広)
 男性のがん患者数の第4位を占める前立腺がん。早期にはほとんど症状がないが、血液検査のPSA(前立腺特異抗原)検診で、早期発見が可能だ。最初に選択されることが多い治療法は手術だが、合併症を引き起こすことも多く、ほかの治療法が選択されることもある。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、前立腺がんの監視療法やホルモン療法、抗がん剤治療などについて、専門医に取材した。

【データ】前立腺がんのかかりやすい年代や性別は?

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 前立腺がんは、PSA検診の普及で、早期に見つかるケースが増えている。

 PSAは前立腺から分泌されるたんぱく質で、前立腺内の組織がなんらかの原因で障害されると血液中に漏れ出すため、血液検査でPSAの値が高ければ、がんや炎症などがあると推測できる。基準値は0〜4ng/ml。前立腺の状態を反映しやすいマーカーで、がんがある場合、初期でも敏感に数値が上がる。ただ、前立腺肥大症など、ほかの原因でも数値は上がるので、すぐにがんと診断せず、定期的に複数回、数値を見て判断する。

 前立腺がんのステージをPSAでいうと、4以上〜10未満が低リスク、10以上〜20未満が中間リスク、20以上が高リスクとされる。治療に取りかかる前に、PSAが10未満の低リスク群で、がんの悪性度を示す「グリソンスコア」という数値が6以下であれば、超低リスク群として、「監視療法」がおこなわれる。

 監視療法は、PSA検査と生検でがんの進行をチェック、治療開始時期を遅らせ、治療による合併症を回避、かつ適切な時期に治療を開始する方法だ。

 3〜6カ月ごとにPSAの値を調べ、数回分を見て全体的に数値に上昇が見られたら、がんの存在・増殖を疑い、前立腺の組織をとって調べる「生検」をおこなう。生検は前立腺に10〜20本の針を瞬間的に刺し、組織をとって、がん細胞の有無をみる。

 生検は病院によって異なるが、日本医科大学病院では1泊2日の入院で、30分程度眠っている間におこなわれる。検査後、約5%に出血や発熱、尿の出が悪いなどの症状があらわれるが、数日でおさまるという。同院泌尿器科教授の近藤幸尋医師はこう話す。

「監視療法を続けて数年という人は多く、なかには10年近く経過する人も。油断して中断せずに監視を続けていくなら、超低リスク群にはいい方法だといえるでしょう」

 男性ホルモンの影響で増えるがんであることも、前立腺がんの特徴の一つだ。そこで、男性ホルモンの分泌や作用を抑えて、がんの増殖を抑制する「ホルモン療法(内分泌療法)」が実施される。対象は、高リスク群および転移がんだ。

 また、高齢者や、脳梗塞などの病歴があって手術や放射線治療がおこなえない場合も、ホルモン療法が選択される。放射線治療との併用では、中間リスク群にも用いられる。

■男性ホルモンには二つの道筋がある

 男性ホルモンは、大きく、二つの道筋で分泌される。一つは、脳の下垂体から分泌されるLHというホルモンを精巣が受け取って、男性ホルモン(テストステロン)を分泌する道筋。もう一つが、脳の下垂体から分泌されるACTHというホルモンを副腎が受け取って、副腎性男性ホルモンを分泌する道筋だ。精巣からの分泌が90%以上、残りが副腎からで、ホルモン療法は、この道筋をブロック、男性ホルモンの分泌を抑制する(イラスト参照)。

 精巣からの男性ホルモンの分泌を抑えるのは、注射薬だ。LH−RHアゴニスト製剤(商品名リュープリンなど)またはLH−RHアンタゴニスト製剤(商品名ゴナックスなど)で、おなかや肩に、1〜6カ月に1回、注射する。

 この注射に、副腎からの男性ホルモンを抑える抗アンドロゲン剤を加え、精巣と副腎、両方からの男性ホルモン分泌を抑える「CAB療法」が広くおこなわれている。抗アンドロゲン剤は1日1回内服で、主にビカルタミド(商品名カソデックス)が用いられている。

 ホルモン療法にも副作用はある。とくに注射薬では、ほてり、発汗、性欲減退、女性化乳房、骨粗しょう症などが起こりうる。骨粗しょう症は骨折などでQOL(生活の質)の低下につながりかねないため、注射や内服薬で予防に努める。

■転移がんの9割は骨への転移

 CAB療法をおこなっても、PSA検査の数値が徐々に上昇し、がんの増殖が疑われる「去勢抵抗性前立腺がん」と呼ばれる状態になると、さらに強力な薬を併用することを考える。14年に保険適用になった、アビラテロンとエンザルタミドに加えて、19年にはアパルタミド、20年にはダロルタミドが承認された。

 残念ながら、これらのホルモン療法で効果がない、あるいは次第に効果が低くなってくるケースも少なくない。その場合は、抗がん剤治療を併用する。

 抗がん剤のドセタキセルは、外来で3〜4週間ごとに点滴する。副作用としては、悪心、食欲低下、しびれなどが挙げられる。ドセタキセルで効果がみられない場合は、14年に保険適用となったカバジタキセルを用いる。カバジタキセルでは感染症にかかりやすくなる点に注意が必要だ。

 転移がんについては、どうだろうか。

 転移部位の約9割は骨だ。ホルモン療法は転移がんの場合でも、90%以上に効果があるとされている。とくにアビラテロンは、これまで去勢抵抗性前立腺がんにのみ保険適用だったが、18年に転移数が多い転移がんに対しても、初回から使用することが認められた。また、16年には骨転移に対して、ラジウム223という放射線医薬品が保険適用になった。

 じつは前立腺がんと診断された人の15〜16%は、転移がんがある状態で見つかり、手術適応外となり、最初からホルモン療法と抗がん剤治療がおこなわれるという。東邦大学医療センター佐倉病院泌尿器科教授の鈴木啓悦医師は次のように話す。

「再発例、転移例でも進行はゆっくりのケースが多いです。また、去勢抵抗性前立腺がんの治療法が増えたことで、転移がわかってから3年で亡くなる確率は1〜2割程度に下がっています。前立腺がんにかかわる遺伝子をターゲットにした、分子標的薬の開発も進んでいます。焦ることなく、治療法を上手に組み合わせて、前向きに治療に臨んでください」

 なお、前立腺がんの手術に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。
「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

(文・別所文)

≪取材協力≫
日本医科大学病院 副院長・泌尿器科部長・教授 近藤幸尋医師
東邦大学医療センター 佐倉病院院長補佐・泌尿器科教授 鈴木啓悦医師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より

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