同じ32歳で浮かんだ「引退」の2文字…斎藤佑樹と江川卓の対照的な“引き際の美学”

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2020年09月27日 16:00  AERA dot.

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写真日本ハムの斎藤佑樹(左)と現在は野球解説者の江川卓氏(右) (c)朝日新聞社
日本ハムの斎藤佑樹(左)と現在は野球解説者の江川卓氏(右) (c)朝日新聞社
 2006年夏の甲子園優勝投手・斎藤佑樹(早稲田実−早大−日本ハム)がプロ10年目の今季を最後に現役引退濃厚という一部報道があったが、「東スポWeb」によれば、本人は親しい関係者に「自分から引退するようなことはない」と完全否定。仮に今季限りで日本ハムを退団しても、海外も含めてオファーがある限り、ボロボロになるまで野球を続けたい意向だという。

【写真】巨人にドラフト1位で入団したのに25歳で引退した投手はこの人

「ボロボロになるまで」という“引き際の美学”は、昨オフ、現役続行を希望し、中日を自主退団した松坂大輔(現西武)にも相通じるものがあるが、その一方で、好対照な例として、余力を残して未練なくユニホームを脱いだ江川卓(巨人)を思い出すファンも少なくないだろう。

 通算135勝の江川と昨季まで通算15勝の斎藤。2人のプロでの実績は比べるべくもないが、アマチュア時代は共通点も多かった。

 ともに甲子園のヒーローとして社会現象になり、出場回数も同じ春夏1回ずつ。斎藤が06年夏の決勝、駒大苫小牧戦で延長15回を投げ切れば、江川も73年夏の1回戦、柳川商戦で延長15回完投勝利。そして、ともに六大学の花形エースとして華々しく活躍し(江川は通算47勝、斎藤は31勝)、ファンの大きな夢と期待を背負ってプロ入りしたという点でも共通している。

 また、87年限りで引退した江川は当時32歳。くしくも今季の斎藤と同年齢になる。江川引退翌年の88年に生まれた斎藤が、江川が引退したときと同じ32歳で、野球人生の崖っぷちに立たされていることにも、因縁を感じさせられる。

 両者のレベルの差は歴然としているものの、プロでの活躍時期のピークが短かったという点でも、共通している。

 江川は“空白の1日”事件や小林繁との三角トレードなどの騒動が災いし、79年の巨人入団後はダーティなイメージが付きまとったが、81年に20勝、82年に19勝を挙げ、“怪物”の本領を発揮する。だが、82年のオールスター前に肩を痛め、シーズン終盤に急失速。全盛期は実質2年足らずだった。

 一方、11年にドラフト1位で日本ハムに入団した斎藤は、1年目に6勝。2年目は開幕投手に指名された西武戦で完投勝利を挙げるなど、オールスター前までに5勝したが、同年夏に肩の違和感から低迷する。その後、右肩関節唇損傷であることが判明。手術して完治した例は希少で、ソフトバンクのエース・斉藤和巳や西武の守護神・森慎二も手術後、復帰をはたせないまま引退した。このため、斎藤は手術を回避し、騙し騙しプレーを続けているが、13年以降、昨季までの8年間でわずか4勝。この2年間は未勝利と結果を出せないでいる。

 結局、最初の2年間で11勝を挙げたのが、プロでのピークとなり、わずか2年足らずのピーク後に肩の故障との闘いという、江川同様の道を歩んでいるのは、不思議な偶然と言えるかもしれない。

 実は、江川も肩を痛めた直後、当時米国スポーツ医学の権威だったフランク・ジョーブ博士に切開手術を勧められたが、悩んだ末、「絶対に成功するという保証がない」という理由で断っている。この時点で、江川は自分の現役生活が長くないことを覚悟した。

 83年以降、肩の状態は年々悪化し、「100球肩」「6回戦ボーイ」などと酷評された。そんななか、85年8月3日の阪神戦では、低めを丹念について打たせて取り、プロ入り後初の1安打完封劇を演じている。

 先発で5試合続けて結果を出せなかった不振から脱け出すための苦肉の策だったが、もし、この阪神戦を境に軟投派にモデルチェンジしていれば、選手寿命はもっと延びていたはずだった。

 だが、江川はあくまで高めの速球で勝負するイメージを追いつづけ、それが満足にできなくなったときが自らの引き際と決めていた。また、入団時に揉めて悪い印象を残した江川は、「辞めるときは、きれいさっぱりといきたい」と考えており、87年に13勝を挙げ、巨人の4年ぶりVに貢献したのを花道に、プロ10年目、東京ドームオープンという節目の年を前に早過ぎる現役引退となった。

 江川は高卒でプロ入りしていれば、通算200勝以上は確実だったといわれるが、夏の甲子園優勝の時点ですでに投手として完成形に近い状態だった斎藤も、高卒即プロなら、「少なくとも、もう2、30勝は上積みされていただろう」とシミュレートするファンも多い。

 だが、長年にわたる低迷で、次第にその存在も忘れられつつあり、そんな“たられば”の話も俎上に上がらなくなって久しい。

 今季はまだ1軍で出番がなく、イースタンで中継ぎとして17試合に登板し、1勝3敗、防御率7.64(9月25日時点)。2軍でも苦闘の日々が続いている。

 それでも斎藤が「ボロボロになるまで」とこだわるのは、プロでも一流と呼べる実績を残した江川に対し、「(プロ入り後の実績で)自分には失うものがない」という開き直りの気持ちもあるのかもしれない。

 江川引退時と同じ32歳になったかつての“ハンカチ王子”が、自らの美学を貫くための闘いの場となるシーズンオフが刻々と近づいている。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球 を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)






このニュースに関するつぶやき

  • 江川さんに失礼。こんなバカげた記事は夕刊フジだけで十分だ(激怒)。こんな記事を書くから朝日新聞社への余計な中傷を助長することになる。
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  • 江川卓ってそんなに若くて引退したのですかexclamation
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