過激な曲がヒットチャート入りしない日本 J−POPは子どもと一緒に聞ける特異で素敵な音楽

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2020年09月29日 07:00  AERA dot.

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写真音楽にもアメリカと日本では違いがある(写真/gettyimages)
音楽にもアメリカと日本では違いがある(写真/gettyimages)
 もう3年くらい聞いていなかったJ−POPを、急に聞いてみようと思い立ちました。音楽ストリーミングサービスSpotifyを起動し、「Japan Top 50」を選択。4歳と1歳の子どもらに聞かせてはならぬと耳にイヤフォンをねじこんで音に身を委ねていたのですが、何か不思議な気分。どうにもヘンな感じ。トップ11くらいまで聞いて、ようやく違和感の正体がわかりました。どの曲にも、子どもに聞かせられないような汚い言葉が含まれていないのです。

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 私が普段耳にしている──というかせざるを得ないアメリカのヒット曲は、汚い言葉の見本市みたいです。Fワードは当たり前で、ほかにも暴力的な表現、女性や特定の人種に対する侮辱語、女性器・男性器の俗語、セックスやドラッグの直喩・暗喩が、稲妻のように耳を通り抜けていきます。ストリーミングサービスでは、露骨な表現が含まれる曲にE(Explicitの頭文字)のマークが付けられますが、トップ50のうち33曲にEマークが付いているのですから、耳も──いや、目も当てられません。

 Eマークの付いた曲はオフにする機能がありますし、曲によっては過激表現を排したクリーンバージョンが作られることもあります。でも結局世に出回るのは元のダーティーなバージョンですし、ヒット曲はアパレルショップやジムのBGM、大音量のカーオーディオ、自動再生されるYou Tube動画、誰かの歌声などによって市中にばらまかれます。「聞きたくないなら聞かなければいい」では済ませられません。

 アメリカも、昔はこんなではありませんでした。1958年から発表が始まったビルボードのヒットチャートでは、Eマークが付けられた楽曲は2001年まではたったの5曲しかなかったそうです。また1920年代にニューヨークで生まれた私の義理の祖母は、娘時代にバーでお酒を飲んでいたときBGMから汚い言葉が1語聞こえてきて、「こんな曲をかける店にはいられない」と席を立ったことがあったそうです。それが今や、汚い言葉が使われていない楽曲を見つけるほうが難しくなってしまいました。

 ミュージシャンが汚い言葉を使うのは「既存のルールや常識を壊したいから」との理由が主のようですが、彼らの努力の甲斐あって、かつてのルールや常識はすでに粉々に砕け散っています。これ以上瓦礫の山を踏みつけて、どうしようと言うのでしょう。加えて、汚い言葉というのは指折り数えてリスト化できるくらいですから、つまりは決まり文句なのです。お定まりの言葉を並べて曲を作る様子は、まるでミュージシャン当人たちが「汚い言葉を使わなきゃ創造的じゃない」と新たなルールを設けて、自分たちを鉄格子の中に閉じ込めてしまっているみたいです。

 アメリカで汚い言葉がこれほど一般的になった理由のひとつは、ストリーミングサービスの台頭だそうです。かつては楽曲に放送禁止用語が含まれているとラジオで流してもらえず、それはすなわち楽曲のCDが売れないことを意味していたのですが、今やストリーミングサービスを通じてミュージシャン自らが新曲をデジタル配信リリースできる時代。権力に縛られず言いたいことを叫べ!と各々エスカレートした結果、たどり着いたのがこの面白いくらいにつまらない惨状です。

 日本でも配信リリースはどんどん増えているようですし、いずれはアメリカのようになるんじゃないかと心配です。現に、日本人歌手でも歌詞を英語にしたとたん言葉遣いが変わるケースが見受けられます。日本語では真夜中みたいな漆黒の感情を高い表現力でもって美しい言葉に包んで歌う人が、英語歌詞だと朗らかにFワードを歌い上げていて、まるで世界線が歪んだような錯覚に陥ることがあるのです。世界の音楽シーンに合わせるとそうなってしまうのか、と個人的にはしょんぼりしてしまいます。

 Spotifyが発表している国別の「もっとも聞かれた曲トップ50」をすべて見てみると、Eマーク付きの曲がランクインしていないのは65カ国中で日本だけでした。世界的に見ると、かなり特異な国といえるのではないでしょうか。そんな日本には、いつまでもいつまでもこのままでいてほしい。言葉というものは、毎日聞き続けることで、沈むように溶けていくように、自分の中に溜まっていきます。頭の奥のレコーダーに録音されて、ふとした拍子に口をついて出てきます。どうせ録音するなら、きれいな言葉がいいとは思いませんか。

※Spotifyのヒットチャートは、2020年9月20日現在のものです

※AERAオンライン限定記事

◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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