「夫の全部が好きでした」森友問題で自死した赤木さんの妻が今、強く思うこと

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2020年09月30日 08:00  週刊女性PRIME

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雅子さんは故・赤木俊夫さんの写真を大事そうに抱えていた

 財務省が学校法人『森友学園』(大阪市)に、国有地を8億円も値引きして売却。売却の際に作成された決裁文書の改ざんを命じられた財務省近畿財務局の職員・赤木俊夫さんは2018年、苦悩の末に自ら命を絶った(享年54)。俊夫さんの妻・雅子さん(49)は、夫の残した手記をもとに、国と佐川宣寿・元財務省理財局長に対して裁判を起こしている。「私は真実が知りたい」と語る雅子さんは今、何を思うのか。森友学園問題を、このまま終わりにしていいのか。切なる胸中を明かしてもらった。

趣味は“夫”。円満夫婦を襲った悲劇

「夫はかけがえのない存在で、大好きな人。22年間一緒でしたけれど、ケンカもしたことがなかったし、本当に仲がよかったと思います。夫の全部が好きでした」

 雅子さんは出会って2回目で俊夫さんから結婚を申し込まれ、めでたく夫婦に。「家にいてもずっと隣にひっついていました」と穏やかに語る雅子さんの趣味はズバリ「赤木俊夫」。夫と一緒にいることが、楽しくて楽しくてしかたがなかったという。

「夫はとにかく仕事に一生懸命でした。亡くなった後に知ったのですが、ご近所の方に“自分の雇用主は日本国民だ”って話していたそうなんです」

 言われてみれば確かにそうだが、これを日ごろから考えている公務員がどれだけいるだろうか。そう思った私が「俊夫さん、すごいですね。カッコいい」と言うと、雅子さんはなんとも言えない、複雑な表情をした。

「当たり前のことを発しただけで“すごい”と言われるのは、きっと当たり前ではない人が多いからかと。公務員や国会議員の方がみんなそう思っていたら、今回のような事態にはつながらなかったはずですので」

 私は自分の言葉遣いを反省するとともに「そのとおりだな」と思った。どうして、俊夫さんのような人が自殺に追い込まれる世の中になってしまったのだろうか。

 雅子さんは、夫が改ざんを命じられた日の出来事を鮮明に覚えている。発端は、'17年2月26日、一緒に休日を過ごしていたときのことだ。

「私の母と私と夫の3人で公園に梅を見に行ったときに、夫が当時すごく尊敬し、信頼していた上司の方から電話があって“いま僕の仕事がいっぱいいっぱいで手に負えないから、手伝ってくれないか”と頼まれたんです。そのまま休日出勤をしたんですが、いちばん最初に改ざんしたのがその日だったみたいです」

 俊夫さんは、涙を流して改ざんに抵抗した。しかし、近畿財務局トップである局長が「全責任を追う」と言ってゴーサインを出したと、雅子さんの著書『私は真実が知りたい』でも語られている。結局、俊夫さんは若い部下の2人を巻き込まず、ひとりで引き受けることに決めたという。

いつも笑顔で明るい人だったんですけれど、その日から確実に様子が変わって、徐々に調子が悪くなっていきました。でも当時、平日はほとんど終電か朝帰りで寝不足がずっと続いていたので、初めのうちは“夫の笑顔が少なくなったけど、睡眠不足のせいかな”くらいにしか思っていなかったんです」

「もう苦しまなくていいよ」

 人事異動が実施されるまでは我慢しようとした俊夫さん。しかし、異動は叶(かな)わず、精神状態は急速に悪化。その後、うつ病になり、病気休暇に入った。家でも「内閣が吹っ飛ぶようなことを命じられた」「最後は下っ端が責任を取らされる」「ぼくは検察に狙われている」などと、ずっと怯(おび)えていたという。そして、最悪の結末が訪れた。俊夫さんは3月のある日、自らの人生に幕を閉じてしまったのだ。

「まだ寒い時期だったので、私が仕事に出るとき、夫は布団かコタツの中にいることが多かったんです。でも、その日に限って玄関まで送りに出てきてくれて“ありがとう”って言われました。“いってらっしゃい”じゃなくって。実は、夫はそのころ何度も自殺未遂を繰り返していたので、職場で連絡がとれなくなったときに“もしかして、やっちゃったかな”と思って、急いで帰ったんです。現場の様子を見たときも“とうとうやったな”という気持ちでしたね」

 急いで駆け寄って俊夫さんを救おうとしたものの、

「夫の身体はもう動かないというか、ぐったりしていました。必死に抱き上げたときに、のどからゴボゴボって音がして、一瞬“もしかしたら助かるかも”って思ったんだけれど、やっぱりもう、人形みたいになっていて……。本当に、かわいそうでした。それで私、慌てて警察に電話してしまって。“財務局に殺された”っていう意識がすごくあったので、つい119番じゃなくて110番にかけてしまったんですよね。一方で“これで楽になれたね”とも思ったんですよ。夫に“もう苦しまなくていいよ”って声をかけたのは覚えています。その当時、2人とも誰に助けを求めていいかわからないまま、本当に苦しい日々でしたから」

 しかし、雅子さんはそれからも、楽になれなかった。

夫が亡くなった翌日に財務局の方たちが家に来て“手記はあるのか? あるとしてもマスコミには出さないほうがいい”と言ってきたんです。何かを隠そうとしているようで怖かった。その後、かなりの数の報道陣に追いかけられて、実家に帰っていたときにも何十人もの人に家を包囲されたので、マスコミにも拒否反応がありました。夫の手記があることが噂になっていたので、私の同級生をしらみつぶしに取材しているのが耳に入ってきて嫌でしたし、家族や親戚も困らせてしまうと思ったので、なかなか手記を出すことができませんでした」

 また、「夫の元職場に迷惑をかけたくない」という思いもあった。だが、夫の同僚たちの態度に、だんだんと不信感を覚え始める。

夫が信頼していた上司の方が、お葬式にいらしても記帳をしてくれなかったことがありました。来たことを隠したかったみたいで。あとで本人に理由を聞いたら大きな声で“(記帳を)してますよ!”って怒鳴られました。それと、麻生(太郎)さんが野党からつつかれたようで、“お墓参りに行こうと思うんだけど”という打診をしてくれて、私と財務局の間に入っていた夫の同期の方に“絶対に来てください”とお願いしたんです。けれど、次の日に連絡があって“マスコミが殺到して、あなたが大変なことになるから断っておきました”と。私はとにかく夫に謝ってほしい、という気持ちが大きかったのに、自分の意思をねじ曲げられたことがすごくショックでした

 ひどい仕打ちはこれ以外にもあったという。

まだ夫の検死も終わらないうちにやって来た財務局の方が、私に対して“うちで働きませんか”と言ってきたんです。もう本当にびっくりして“バカにするなよ”って思いました。大企業もよくやるらしいんですけど、自分のところに囲い込めばよけいなことは言わないだろう、という狙いがあったんじゃないかと思います。私は“財務局に佐川さんはいないですけど、佐川さんの秘書にしてくれるんでしたらいいですよ。お茶に毒、盛りますから”って言い返してやりました。向こうはだんまりでしたけどね

 こうして、不信感を募らせた雅子さんは、国と佐川氏を相手に裁判を起こした。

「生きていることがすごくつらくて、死にたいと何度も思いましたが、私には夫が残してくれた手記がある。だから、いつか出さないとダメだっていう気持ちがわいて“この裁判が終わるまでは絶対に生き抜きたい”と思えました。とにかく“本当のことを知りたい”。この一心がいま、生きるうえでのいちばんの支えになっています

 そして、俊夫さんは手記だけではなく「公文書の書き換えに関する詳細なデータを残していた」と雅子さんは言う。

「職場のパソコンなのか手書きなのかわからないですけど、どんなことが起きていたか、詳細を残しているというのは本人から直接、聞いています。直属の上司の方がいらしたときにも、そのデータの存在をちゃん証言してくれたので、間違いなくあります。でも、それをオープンにして調査をしてくれない。また、夫の死について公務災害が認められたので(仕事に関係する)個人情報の開示を請求しても、人事院からは真っ黒なものが返ってきました。遺族が知りたいことさえも明かされないっていうのは、やっぱりひどいと思います

 雅子さんは、政治家に対して、どのような眼差(まなざ)しを向けているのだろうか。

政治家だからとかじゃなくって、人間としてきちんと対応してほしい。再調査をしろと命じれば物事を動かせる立場の方がそう言ってくれないということは、その方がもっとも再調査をされたくないのかな、と感じます。もし、その方の言動で今回のことが起こったのであれば、夫に手を合わせて謝罪してほしい。それだけが望みなので。言葉は悪いですが、安倍(晋三)さんは病気で退陣できるけれど、夫はうつ病になってもやめられなかったんですね。だから、病気で逃げられる立場の人とそうでない人がいるということを、上に立つ人は自覚してほしい。安倍さんが国会議員を続けるのであれば、今後も本当のことを話したり再調査を促したりする機会はいくらでもあるはずなので、逃げないでもらいたいです

 最後に、私が「こんなことを申し上げるのは失礼だと思いますが、佐川さんの奥さんより、赤木さんの奥さんのほうが幸せですね」とお伝えすると「本当にそう思います」と即座に答え、涙を流された。2人の愛の深さを感じた。

「夫が今の私を見たら、びっくりすると思うんです。社会に対してこんなふうに発言するような人間ではなかったし、裁判をするなんて想像もつかないはずなので、喜んでくれているかと。夫には22年間、本当に大事にしてもらって幸せでした。次も同じ人生の繰り返しでもいいので、また夫と会って結婚したいし、もし今ここにいたら“とにかく、よく頑張ったね”って、背中をさすってあげたい。今でも毎日“結婚してよかった、出会えてよかった”って、夫に感謝しています」

 安倍前首相は、辞任会見で「森友問題は世論が決めること」と言った。世論調査でも、森友の再調査を望む声は過半数を超えている。安倍元総理をはじめ、政治家がどこまで関わっているかは明らかになっていない。だからこそ、関わっていないのであれば再度、国民が納得する形で調査をすべきだろう。自分の名誉のためにも、そうしてほしい。苦労人でも、病気持ちの人でも総理になれる。それが民主主義だ。でも、だからといって、その人たちが都合よく逃れていいわけではない。

 雅子さんは「たかまつさんのような若い方に発信してもらえて、夫もうれしいと思います。夫のことや、こういうことがあったという事実を多くの方、特に若い方に、ぜひ知ってほしい。みなさんの声があれば、再調査に向けて動いていただけると信じています」と話してくださった。「ただ、真実を知りたい」いう彼女の思いに報いるためにも、関係者らにはしっかりと責任を果たしてほしい。

(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)

【INFORMATION】
Youtube『たかまつななチャンネル』では、赤木雅子さんへのロングインタビュー全編を公開。最愛の夫・俊夫さんとの秘話や森友学園問題に対する胸の内などを、真摯に語り尽くしてくれました。 URL→https://youtu.be/M6o0D92ESRU

【森友】公文書の改ざんを命じられ自殺。「夫の全部が好きでした。」遺書で告発した夫のために妻は闘う。【赤木雅子さん独占インタビュー】 https://t.co/UyyjHyi5f0 より #赤木さんに真実を pic.twitter.com/K2iWFDDLuu

— たかまつなな/時事YouTuber (@nanatakamatsu) September 27, 2020

このニュースに関するつぶやき

  • ネトウヨ、人が死んでそんなに嬉しいか?お前ら、鬼畜以下だな。
    • イイネ!32
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