『タッチ』『うる星やつら』……80年代『週刊少年サンデー』ヒットの法則とは?

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2020年10月01日 08:01  リアルサウンド

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 長く続いている漫画雑誌には、独自の「ヒットの法則」があるものだ。ヒットの法則、という言葉が生々しすぎるならば、「それぞれの雑誌のカラー」と言い換えてもいい。最も有名なのは、「友情・努力・勝利」という『週刊少年ジャンプ』の3大原則だろうが、80年代の『週刊少年サンデー』にも、それと同じような漫画作りの「型(パターン)」ないし「特徴」がいくつかあった。


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 ちなみに私は、10代の頃に当時の『少年サンデー』をリアルタイムで読んでいたのだが、私と同世代(40代〜50代)の人だけでなく、若い、いま漫画家を目指しているような人たちにも本稿をぜひ読んでいただきたいと思う。なぜならば80年代の『少年サンデー』の名作群には、現代のエンターテインメントの世界でも充分通用する、普遍的なアイデアがふんだんに織り込まれているからだ。


■魅力的なヒロインたち


 まず、80年代の『少年サンデー』の漫画の特徴として考えられるのは、他誌に比べ、異様なまでにヒロインの描写に力を入れていた、ということだろうか。そう、『タッチ』(あだち充)の浅倉南にせよ、『うる星やつら』(高橋留美子)のラムにせよ、当時の『少年サンデー』を代表するヒロインたちは、それまでの少年漫画の多くでは類型的に描かれてきたといっていい、「男の子に守られるだけの存在」では決してなかった(彼女たちは時に男たちを守りさえもする)。思えば「ウーマン・リブ」という言葉が流行語になったのは60年代末から70年代前半にかけてのことだったが、それ以降も、世の女性たちはどんどん社会に進出し、自らを表現していった。80年代の『少年サンデー』は、そんな時代の風潮をうまく作品に取り込んでいたといえるだろう。


 また、そうした「女性の時代」の到来と並行して、漫画の世界ではいわゆる「ラブコメブーム」もじわじわと起きつつあった。最初に話題になったのは『少年マガジン』連載の『翔んだカップル』(柳沢きみお/78年〜81年)だったが、結果的にラブコメ漫画の一大帝国を築き上げたのは、ブームの火付け役となった『少年マガジン』ではなく、あだち充、高橋留美子、細野不二彦、原秀則、岡崎つぐおといった、「可愛い女の子」と「都会的な恋の駆け引き」を上手く描くことのできる漫画家を数多く揃えていた『少年サンデー』のほうだったのである。


 つまり、こうしたいくつかの時代的な要因が重なって、前述の『タッチ』と『うる星やつら』をはじめ、『さよなら三角』(原秀則)、『さすがの猿飛』(細野不二彦)[※]、『ただいま授業中!』(岡崎つぐお)、『機動警察パトレイバー』(ゆうきまさみ)のような、魅力的なヒロインが活躍するヒット作の数々が『少年サンデー』で生まれていったのである(特に注目すべきは最後の2作であり、これらの作品は少年漫画誌の連載作でありながら、「働く女性」が主人公になっている)。


[※]『さすがの猿飛』は本誌連載ではなく、増刊号連載。


■丁寧に描かれる“親と子”の物語


 その一方で、時代の流れとは関係のない、普遍的なテーマというものもある。それは、「親子のつながりを丁寧に描く」ということだ。異論のある人もいるかもしれないが、『ジャンプ』や『マガジン』の連載作と比べ、『サンデー』の漫画では、父親や母親のキャラクターをじっくりと描いているものが多いように思える。


 たとえば、早乙女乱馬(『らんま1/2』/高橋留美子)は、あの破天荒な父親がいたからこそ、何事にも動じない強さを身につけられたともいえるし、世間からダメな兄貴だと思われていた上杉達也(『タッチ』)を見守る両親の目は、常にあたたかい。愛すべき熱血漢である滝沢昇(『炎の転校生』/島本和彦)の父親と、なんだかんだと文句をいいながらも、謎の鳥・ガンモ(『Gu-Guガンモ』/細野不二彦)の面倒を見てやる佃家の「おとうさん」と「おかあさん」。そして、豪快な生き様を貫いて我が道をいく沢渡緋沙子(『ふたり鷹』/新谷かおる)と、ブランクをものともせずに全国大会を勝ち抜いて、自らの「剣」を息子に伝えた夏木佳代(『六三四の剣/村上もとか』)のふたりが見せてくれた「母の強さ」は、数多くの読者の感動を呼んだことだろう。とまあ、このように、80年代の『少年サンデー』に登場するのは、主人公を食いかねない迫力や魅力を持った父親と母親ばかりだった。


 また、主人公に親がいない場合でも、『少年サンデー』の漫画ではきちんとその説明がなされているし、その「不在」が物語のテーマに深く関わっている場合も多い。特に、亡くなった父親の夢を叶えようとする少年の成長譚が、『少年サンデー』の歴代のヒット作に少なくないというのは、漫画ファンならすでにご存じのことだろう。


■亡き父の夢を受け継いで、頂点を目指す主人公たち


 70年代の『がんばれ元気』(小山ゆう)にはじまり、80年代の『六三四の剣』、そして90年代の『MAJOR』(満田拓也)、『俺たちのフィールド』(村枝賢一)にいたるまで、亡き父の夢を受け継いで、スポーツの世界で頂点を目指す主人公を描いたこれらの作品は、時代を超え、いまなお数多くの読者を魅了し続けている。また、死ぬのは父親ではなく双子の弟だが、『タッチ』もそうした作品の系譜に含まれるといっていいだろう。


 ただし、忘れてならないのは、これらの漫画の主人公たちが、決して父(や弟)の呪縛によってスポーツをやっている(やらされている)わけでない、ということだ。当然、本人たちがそれ(ボクシングや剣道や野球やサッカー)を心から好きだから、彼らはその道にすべてをかけるのだ。自分を導いてくれた人の夢というものはたしかに大切だが、あくまでも自発的に、そして前向きに主人公たちががんばるからこそ、その姿を見た数多くの読者は胸を熱くするのだといっていい。


 以上、文字数の関係でやや駆け足になってしまったが、80年代の『少年サンデー』の漫画の特徴について書かせていただいた。実はこの他にも、当時の同誌の漫画の多くには、「最終回で読者の予想を大きく裏切る」という興味深い特徴があったりもするのだが、それについては、機会があればまたどこかで書かせていただきたいと思う。


[筆者付記]本稿は、My First BIG Special『少年サンデー’80セレクション』(小学館)に掲載された拙稿、「八〇年代の『少年サンデー』は何を描いたか」を下敷きにしています。


(文=島田一志)


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  • 今のサンデーは「葬送のフリーレン」が良いです。「舞子さんちのまかないさん」とか「魔王城でおやすみ」とか、古見さんとか、トニカクカワイイとか、確かに女性たちが魅力的。
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