王者をさらに進化させた組織改革【原巨人は黄金期を迎えたのか?】

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2020年10月02日 07:42  ベースボールキング

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ベースボールキング

川上哲治元監督を抜いて球団歴代最多となる1067勝を挙げ、記念のボードを手にポーズをとる巨人・原監督=東京ドーム
◆ 原巨人は黄金期を迎えたのか?〜第1回:仕掛け

 原巨人の独走が止まらない。10月を前に優勝マジックは「22」(9月30日終了時点)。2位の阪神以下を大きく引き離して原辰徳監督の胴上げはもう時間の問題だ。

 “無双”の采配を揮う指揮官にエース・菅野智之投手が開幕から12連勝、さらには4番・岡本和真選手の2冠ペースの猛打と、快進撃の要因は数々挙げられるが、コロナ禍もあり多くのチームが沈んでいく中でなぜ巨人だけが独走できたのか? カウントダウンの足音と共に「20年型巨人の強さの秘密に迫ってみたい。


◆ 仕掛けの将

 原監督は「仕掛けの将」である。

 今や終盤の必殺パターンとなった代走・増田大輝選手。例えば同点の9回無死一塁、多くの指揮官は手堅くバントで一死二塁を狙う。しかし、原監督はすかさず増田を走らせて無死二塁の局面を作る。

 仮に走らせない場合でも相手バッテリーは増田の脚を警戒するあまりストレート主体の配球になる。打者も狙い球が絞りやすい。ソフトバンクの周東佑京選手やロッテの和田康士朗選手らも同様だが、「脚のスペシャリスト」を起用するケースではある程度のリスクは覚悟してもギャンブルに出る。

 投手起用でも原監督は仕掛ける。最も典型的な試合は8月7日の阪神戦に見ることができる。

 6回まで無失点の好投を見せたC.C.メルセデス投手を降ろして7回から必勝リレー。この回に登板した高梨雄平投手が糸原健斗選手に安打を許すが、続く陽川尚将選手を三振に打ち取ると、一死一塁で大竹寛投手にスイッチする。

 その大竹はJ.サンズ選手に三遊間を破られるが、大山悠輔選手を料理して二死一二塁。次打者であるJ・ボーア選手に右翼に大ファウルを打たれると、カウント1−2の場面から今度は左腕の大江竜聖投手へと小刻みな継投。そのボーアには内野安打を許したが、満塁のピンチに梅野隆太郎選手を三振に打ち取って難を逃れた。

 スリーアウトを取るのに左、右、左の3投手を駆使して、なおも2ストライクを取っている投手を交代させる。驚きの投手起用法を「昨年から話し合っていた」と涼しげに語る指揮官。もちろんゲームは3対2で競り勝った。


◆ グラウンド外でも仕掛ける!

 一般的に前年優勝チームは改革の速度が遅いと言われる。理由は勝利した選手やスタッフを動かす必要がないから。さらに日本シリーズまで進んだチームは日程上も早くから動きにくいからだ。ところが、ここでも原監督は動いた。

 今春2月。宮崎キャンプには一軍、二軍、三軍のメンバーが揃った。合同キャンプは4年ぶりのこと。指揮官はファームにも出向き、育成選手を含めた全体の戦力を把握した。それがシーズンに入って松原聖弥、田中豊樹選手や前述の増田大、大江らの大抜擢の第一歩となっている。

 全権監督はフロントにも大ナタを振るった。4月には長谷川国利スカウト部長を更迭、大塚淳弘球団副代表の兼務とする。さらに昨年まで一軍投手コーチだった水野雄仁氏を巡回コーチ兼スカウトに配置転換するなど、大幅な組織改革を断行した。

 シーズンに入っても8月には三軍監督に二岡智宏同コーチを昇格させるなど改革のスピードを緩めない。その結果として楽天から高梨だけでなくZ.ウィーラー選手らをトレードで獲得して戦力の底上げに成功している。

 長年指摘されてきた若手選手の伸び悩みという大問題が今年は大きく改善された。一軍から三軍、育成まで組織の風通しが良くなったことと無縁ではないだろう。フロントにもメスを入れたことで緊張感が生まれた。積極的なトレード、補強策は原監督の好む「仕掛け」でもある。

 チームを率いる時に最も重要なことは?と問われた監督は「勝利至上主義」と答える。ベテランも若手も、生え抜きも外様も関係なく、その時点で最善の手を打つ。チーム内に競争の原理が働き、期待に応えられない者は振り落とされていく。今季の独走はそんな原イズムが生んでいる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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