過去最低!? 体外受精で赤ちゃんが産まれる「確率」は6%未満 日本の不妊治療の憂うべき現実

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2020年10月16日 11:05  AERA dot.

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写真※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
 菅総理が公的医療保険の適用を打ち出し、注目を集める不妊治療。「今や15人に1人が体外受精児」とマスコミが報じる一方で、驚くべき残念なデータが存在する。卵子と精子を受精させて子宮へ戻す「体外受精」によって「実際に赤ちゃんが生まれる確率(=採卵周期あたりの生産率)」は、6%にも満たず、過去最低を更新し続けているのだ。

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 日本産科婦人科学会の最新報告によれば、体外受精の治療件数は年々増え、2018年は過去最多の45万4893件に対し、生まれた赤ちゃんの数もこれまでで最も多い5万6979人。しかし、最終的に出産できた数を示す「生産率」は、ここ10年で下向きに推移しており、2018年はわずか5.7%と過去最低だった(※出典1、PDF6枚目)。
 
 医療の質が下がってきているから? と思う人もいるかもしれないが、そうではない。日本では、「出産に結びつかない体外受精」が大量に行われているのだ。背景にあるのは、患者の年齢が高いことと、「自然こそが尊い」とする日本特有の価値観だ。

 不妊治療専門の東京HARTクリニック(東京都港区)に勤め、20〜30代への啓発にも取り組む小柳由利子医師は、「体外受精の生産率から考えると、本来は35歳程度をめどに治療がすすめられるべきですが、年齢別の治療件数をみると日本のピークは40歳(出典1、PDF4・5枚目)。理想の治療年齢と実際の治療年齢に5歳ものズレがあり、ここに日本の不妊治療の深刻な問題がある」とみる。

「芸能人の高齢出産のニュースを聞いて、『40まで大丈夫』と思っている患者さんが多いのですが、40代の場合、体外受精で妊娠できる人は治療全体の1〜2割。一般的に思われているよりも、現実は厳しいのです」(小柳医師)

 不妊治療の最後のステップである体外受精だが、「体外受精まで進めば妊娠できる」という楽観的な見方は幻想にすぎない。

 また、小柳医師は、不妊の知識向上と並んで「女性が40歳までに安心して産み終えることができる社会づくりが必要」と訴える。

「育児は一人ではできません。17時に退社しても昇進に影響しないとか、子どもの発熱で休んでも誰かが補えるようにチームで仕事するとか。制度を変えるだけでなく、社会全体で子育てする風潮になれば、キャリアのために出産を遅らせていた女性も早く産もうと考えるでしょう」

 さらに、今回の日本産科婦人科学会のデータで注目すべきなのは、45万件超という体外受精の実施件数の多さだ。 

 少し古いデータではあるが、各国の体外受精の実績を調査する国際組織「ICMART」によると、2016年の日本の体外受精の実施件数は44万7763万件と、世界第1位(出典2、中国をのぞく)。不妊治療先進国といわれる2位のアメリカの約2倍である。
 
 小柳医師は、この点について「日本では、体への負担は少ないが、妊娠率の低い『自然採卵』が多く行われています。『全胚凍結周期』(=受精卵を移植せずに凍結保存する方法)を除いて集計している2007年以降も、生産率が減り続けているのは、結果につながらない採卵が増えている、ということにほかなりません」と指摘する。

「薬で卵巣を刺激して、一度の採卵で複数の卵子を確保する『調節卵巣刺激法(高刺激法)』が世界標準の治療なのに、日本人は『自然』を好むため、自然排卵による周期(低刺激法)で採卵するクリニックが人気です。しかし、その方法による妊娠率が、刺激による採卵法より大幅に劣るのは、海外の研究から明らかです。クリニック側は数字を公表しませんから、一般の人が知るのは至難の業でしょう。結果、採卵を何度も繰り返すことになり、刺激して複数の卵子を採れば早く妊娠できたのに時間をロスする方が多いのです」 

 前述した通り、不妊治療は時間との闘いだ。小柳医師は、「自然採卵」による治療を、「複数の卵子が育ちにくいタイプなどには有効」としたうえで、「あくまでオプション治療であるべき」と主張する。ちなみに、イギリスのガイドラインでは、医師は自然周期治療を提供しないように勧告している。

 そもそも何を「標準」とするのか。日本には治療のガイドラインがないのも問題だ。

「不妊治療の初期段階であるタイミング法や人工授精には、それほど技術は必要ありませんが、体外受精は医師や施設によって技術の差が歴然です。ガイドラインの作成に加え、欧米のように、各施設の治療実績やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)などの有害事例を、国や第三者機関が管理するべきです」(小柳医師)

 アメリカでは学会とCDC(米疾病対策センター)が連携して、各施設の成績がネットで公開されているという。

 不妊治療への保険適用によって、この残念な状況は変わるのか。

 小柳医師は、「適用に向けた流れで、ガイドラインができ、各施設のレベルを監視する体制が整えば、結果的に改善されていくでしょう。金銭的理由から治療をためらう若い夫婦が不妊治療に踏み出しやすくなることも、大きなメリットでは」と話す。ただ、多くの専門家が指摘するように、治療に使われる薬が保険で認められないなどの理由から、「保険適用は混合診療が大前提」との立場だ。

 いずれにしても、保険適用の議論が、日本の不妊治療の現状を、ひいては社会を変えていく絶好の機会となることを期待したい。

(文・曽根牧子)

出典1:https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2018data_20201001.pdf

出典2:https://secureservercdn.net/198.71.233.47/3nz.654.myftpupload.com/wp-content/uploads/ICMART-ESHRE-WR2016-FINAL-20200901.pdf

【取材した医師】
小柳由利子医師
産婦人科医、不妊治療医。2006年福島県立医科大学医学部卒業後、町田市民病院、木場公園クリニック、東京大学分子細胞生物学研究所を経て、2015年から東京HARTクリニック勤務。医学博士。妊活・不妊治療に関する知識の啓発に取り組む。

このニュースに関するつぶやき

  • 20代でも不妊治療は大変だったよ。前夫の種欠乏不妊が原因。結局離婚して、36で現夫と出会い自然妊娠した時は目から鱗が落ちた。 https://mixi.at/agoN7Oo
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  • あと世の男性方。なかなか赤ちゃん出来なくて悩む奥さんのためにも恥ずかしがらずに一緒に病院行こう。採精室行って精子をたくさん採取してもプライドは無くなりません。
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