500gで生まれた息子は「生きよう」と、もがいた……256日間の記録

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2020年10月18日 08:00  AERA dot.

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写真「ぼくは生きたい」。伝わる眼の力強さは、母親だから撮影できた(田尾沙織『大丈夫。今日も生きている』から)
「ぼくは生きたい」。伝わる眼の力強さは、母親だから撮影できた(田尾沙織『大丈夫。今日も生きている』から)
 雑誌や広告で活躍し、旅をテーマにした作品でも知られる写真家の田尾沙織さんは2015年秋、息子の“奏ちゃん”を500gで出産した。予定日まで3カ月半、妊娠25週4日のことだった。

【写真】500gで生まれた赤ちゃんはこんなに大きくなりました

 心の準備をする間もなかった出産、そしてNICU(新生児集中治療室)、GCU(新生児治療回復室)に入院して、生後8カ月で退院するまでの256日間を写真と文で記録した著書『大丈夫。今日も生きている』を出版した。

*  *  *
■「お母さんも危ない」と言われた出産

――こんなにか弱い命を今まで見たことがなかった。想像していた出産とは違いすぎた。

 田尾さんは出産直後にわが子を見たときの気持ちをこう記している。
妊娠6カ月を過ぎたころ。元気な胎動を感じていたが、定期健診で「赤ちゃんが小さい」と告げられ、すぐに入院することになった。そのわずか2日後には「胎児の心拍が弱い」と診断され、帝王切開での出産が決まった。

「帝王切開って何?という状態で手術が始まりました。自分の出産を撮影してみたかったのですが、『おなかで赤ちゃんが亡くなったら、お母さんも危ない』と言われ、カメラを持っていくのは思いとどまりました」
 
 あっという間に手術は終わり、おなかから取り出された赤ちゃんは処置のためすぐに田尾さんの前からいなくなってしまった。戻ってきたときに見たのは、気管挿管のため口に管が通され、保育器に寝かされた姿だった。大きさも手のひらほどだったという。

「信じられないほど小さかったんです。男の子って言われたけど全然わからない。管のせいで声も出ない。でも、足をバタバタさせていたので生きているんだって」

 赤ちゃんはそのままNICUに入院し、医師には72時間が山で、それを乗り越えても、まだいくつも山があると告げられた。実際、おなかの外に出ても肺が膨らまず、心臓の動脈管は開いたままだった。たとえ生きてくれても一生、酸素ボンベが必要かもしれない。寝たきりかもしれない。

 こうやって生まれたのは正しかったのだろうか――。

■1カ月間、友人にも言えなかった
 
 1000g未満で生まれた赤ちゃんは超低出生体重児と呼ばれる。日本の新生児医療は世界トップレベルで、現在はその約9割が救命されているという。2019年には国内で生まれた出生体重258gの赤ちゃんが、元気に退院した男児としては世界最小であったと話題にもなっている。

 だが、超低出生体重児の多くは早産で臓器の構造や機能の成熟が不十分なため、高度な医療ケアが必要になる。重い後遺症が残ったり、成長過程で病気や障がいが見つかったりすることも、少なくない。

「仲のよい友達にも出産したことを言えませんでした。1カ月して、手術をひとつ乗り越えて、生きていてくれるのかなと思えるようになった段階でやっと伝えられました」

 田尾さんは出産の翌日からほぼ毎日わが子にカメラを向けたが、はじめのうちは撮影した画像をあとでひとり確認しては不安になって泣いていた。

 それでも生まれた証しを残すのと、いつか成長したら本人に見せてあげたいとの気持ちで撮影を続けた。

■インスタグラムに届いたDM

 田尾さん自身は先に退院し、病院と家を往復する日々のなか、インスタグラムのアカウントで写真の投稿を始めた。そこには、「1000g超えおめでとう!」「また感染症にかかっちゃっていた」「保育器と呼吸器を卒業しました! これで抱っこが出来る!」といったコメントとともに、奏ちゃんが懸命に成長する姿が投稿されている。

 すると次第に田尾さんのもとに、見知らぬ人からダイレクトメッセージが届くようになった。

「どんな薬を使っていますか?」「月に何g増えましたか?」

 同じ状況にある、お母さんたちからのものだった。

「私自身、出産直後はとにかく情報がほしかった。なので、私もできる範囲でちゃんと答えようと思っていました」

 そんななか、同じく1000gに満たない赤ちゃんを出産することになった知人からも相談を受けた。

「動揺していたとき先生の言葉は頭に入らなかったけど、私の言葉は入ってきたと言われて。同じ経験をした人の言葉は説得力があって安心感につながるのなら、本という形で情報を残してみようと考えたのです」

■母子像にとらわれ自分を責めたことも

 今回一冊の本にするにあたり、決めたことがある。ひとつは、できるだけ詳細に書くこと。症状、薬の名前、体重、成長過程。当時の日記をていねいに振り返り、最後には担当医にもチェックしてもらった。そして、もうひとつは当時の思いを隠さず伝えることだ。

「インスタグラムはいろんな人が見るので、ポジティブにしようと心がけています。でも本では正直に大変だったことも書こうと思いました」

 出産直後は痛々しい姿を見てかわいいと思えなかったこと、母性が欠けているのではと自分を責めたこと、街やSNSなどで母子や妊婦を見るたび「出産=幸せ」というイメージにとらわれて胸が痛んだこと。

 さらに、発達障がいの疑いがあり、退院後も成長するにつれ育てづらさを感じていたことなどが、本には率直につづられている。

「たとえ健康に生まれても、つらいことはありますよね。多くの人に共感してもらえたらと思っています」

 退院してからも続いた手術、今後の就学の問題などいくつもの壁が立ちはだかるが、つらい時期は絶対抜け出せる。そう自分自身に言い聞かせてきたという田尾さんのパワーの源になるのが、本の中におさめられた、生きようとする奏ちゃんの姿だ。

「必死にもがいていたんですね。赤ちゃんには生きようとする選択しかないんです。いまはつらい状況にいる人にも知ってもらえたら」

 奏ちゃんはもうすぐ5歳になり、元気いっぱいの男の子に成長した。タイトルは入院中、撮った写真を見返しながら『大丈夫。今日も生きている』と確認していたことが由来だ。

「今は口げんかをして普通にムッとしちゃうこともあります。でも、当時のことを思い出さなきゃっていつも思うんです」

(アエラムック編集部・宮崎香菜 )

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  • 冷たいようだけど、不幸な結果になってないから、言えるだけというのはあると思う。あと、発達障害の件も、ほぼ確定の疑いありと、本当にわからない疑いがある。不幸側に転ぶと、やっぱり厳しいよ
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  • 私の半分以下か。元気に育て!壊死腸性炎で腸破けて体内に中身でた状態で1171gで産まれた私はもう41歳!がんばれ!
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