【レースフォーカス】復活の2020年初優勝を飾ったリンスと、A.マルケスが最終コーナーで取ったライン/MotoGP第11戦

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2020年10月20日 08:31  AUTOSPORT web

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アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)、アレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
MotoGP第11戦アラゴンGPは、“ふたりのアレックス”が優勝争いを演じた。ひとりはアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)、そしてもうひとりは、アレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。シーズン前半に厳しい時間を過ごしてきたふたりのライダーだった。

 アラゴンGPでは午前中の気温の低さからタイムスケジュールが見直され、MotoGPクラスのスタートは予定よりも1時間後ろ倒しとなった。そのおかげでMotoGPクラスのレースが始まる現地時間15時には、路面温度は31度に上昇していた。

 そのアラゴンGPの週末を通じて、速さを見せていたのはヤマハ勢である。しかし、決勝レースでは奮わなかった。リンスは序盤にトップを走っていたマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)を、8周目に交わしてトップに立った。

 そこからリンスはトップを走り続けた。2019年シーズンに2勝を挙げた経験を持つリンスだったが、そのときはいずれもバレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)やマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)と競い合っていた。レースリーダーとして長い周回数を走るのは、リンスにとって最高峰クラスでは初めてのことだった。

「サインボードで、ジョアン(・ミル)とアレックス(・マルケス)がとても速いペースで迫っているのがわかった。でも、落ち着いてタイヤをレース終盤までもたせようとしたんだ。レースではソフトタイヤを選んだのだけど、もたせて安定させるのは簡単じゃないからね」と、レース後の会見で語ったリンスは、終盤に繰り広げたA.マルケスとテール・トゥ・ノーズの争いで一度もトップを譲らなかった。

 一方、リンスと接近戦を繰り広げ、2位に入ったA.マルケスは、残り2周で2度のミスを犯し、リンスとの差を0.1秒ほど広げてしまった。終盤の、勝負を仕掛けようという場面において、0.1秒は大きかった。それでも、A.マルケスとしてはこの日はリンスが強かった、という。

「1回は最終コーナー、もう1回は1コーナーで、2回ミスをしてしまった。でも、そのミスがなかったとしても、彼をオーバーテイクするのは難しかったと思う。最終ラップまでトライしたし、最終コーナーで優勝のためにベストを尽くしたけど、今日はリンスが序盤からうまくレースをしていた」

■スズキのエースとして復活ののろしを上げたリンス

 アラゴンGPの優勝を争ったリンスとA.マルケス、ふたりの共通点をあえて挙げるのならば、ともに低迷のシーズン前半を過ごしてきたということだろう。

 優勝したリンスは第2戦スペインGPの予選でクラッシュを喫し、右肩を骨折、脱臼した。第3戦アンダルシアGPから復帰したものの、表彰台には手が届かないレースが続いた。その間にも、チームメイトのミルは表彰台獲得回数を積み上げ、さらにはチャンピオンシップをも争っている。

 ついに3位表彰台を獲得した第9戦カタルーニャGPの会見では、「ブルノでは、自分では体が100パーセントだと思っていて骨に痛みも感じていなかった。でも僕の心身は複雑で、4周から5周もすると、こうやって『はあ、はあ』と舌を外に出してしまう。速く走れなかったんだ」とシーズン前半の怪我の影響を明かしていた。そして、「結局のところ、チームメイトは最初に打ち負かしたいライダーだ。もちろん、僕はミルに勝とうと頑張っている」と、チームメイトへのライバル心も垣間見せた。

 アラゴンGPでリンスがついに飾った優勝は、リンスにとってもスズキにとっても今季初の勝利となった。

「今年は優勝するのにとても苦労した。多くのレースではポテンシャルがあったと思うんだけど、ミスやクラッシュのせいで優勝はできていなかった。たくさんの人が、もっと落ち着くように、と僕に言ったよ。でも、ついにやってのけた。すごくうれしいんだ」

■中上が驚いたA.マルケスのライン取り
 そして、2位フィニッシュとなったA.マルケスは、前戦フランスGPで2位表彰台を獲得するまで、シングルフィニッシュは2度にとどまっていた。A.マルケスは最高峰クラスのルーキーだが、同時に、ホンダのファクトリーライダーなのだ。

 しかし、ウエットコンディションとなったフランスGPで2位に入り、続いてドライコンディションとなったアラゴンGPでも2位でチェッカーを受けて2戦連続で表彰台に上った。

 モーターランド・アラゴンはホンダ向きのサーキットだと言われており、A.マルケスも予選では初めてQ2に進出し、11番グリッドを獲得。予選日のあと、A.マルケスは「表彰台は期待していないよ。それは僕たちの目標じゃない。僕たちは8位以内を目指そう」と決勝レースでの目標を控えめに語っていた。しかし、レースが始まってみれば、A.マルケスはリンスと最終ラップまで優勝争いを繰り広げていた。

 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)は、3周目に最終コーナーでA.マルケスに交わされて驚いたという。

「アレックス(・マルケス)は内側にとどまっていたから、どうやってコーナリングしているんだろうと思いました。レース終盤にはタイヤのグリップが低下するだろうとも思ったんですが、最後まで彼はトップグループにいてペースを維持し、グリップをもたせていました」

「インサイドにラインをとろうとすれば、エッジグリップを使うことになります。だから、僕が同じ事をしようとしたら、5、6周もするとリヤタイヤのグリップが低下してしまうんです」

 中上は少しばかり笑いを交えて「どうやってレースをしたのか、彼のデータを見たいですよ」とも語った。確かに、A.マルケスはバックストレートから16コーナー、そして続く17コーナーでインサイドにラインをとり、ここでミルをも交わしていたのだった。

 シーズンが後半に入り、ホンダのバイクについての理解を深めたことも、このパフォーマンスに結びついているようだ。「どうしてみんながホンダのバイクは難しいと言うのかわかり始めたよ」と、決勝レース後の会見でA.マルケスがホンダのバイクについて解説した。

「すべてのポイントで強く走らないといけないからなんだ。つまり、ヤマハは多くの場合、コーナリングスピードと加速に集中する、それからたぶん、ドゥカティは加速にのみ集中する。でもホンダは、すべてのポイント、つまりブレーキングポイント、コーナリングスピード、加速において強くある必要があるんだ。だから、ライダーに要求するところが大きい。常に限界で走る必要があるわけだからね」

「ちょっとでも気を抜けば、1秒ロスしてしまう。たぶん、ほかのバイクなら、0.2秒くらいのロスですむんだ。でも、僕は楽しみ始めたよ。すべていい方向に向かい始めている」

 ホンダのバイクを理解し始め、2回の表彰台に立ったA.マルケスだが、現実的だという目標は謙虚だ。「今の目標は、毎戦表彰台を獲得することじゃなく、常にトップ8にいることだよ」。

 シーズンの11戦目に、またひとり2020年シーズンにおける新しいウイナーが生まれ、新たな主役たちが優勝を争った。残り4戦、まだまだシーズンの混迷は続きそうだ。

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