安田章大は「本気の独り」を経験しているーー写真集『LIFE IS』が伝える、生きることの尊さ

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2020年10月21日 08:01  リアルサウンド

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安田章大『LIFE IS』

 「写真から流れ込んでくる様々な思いやメッセージが、こちらの心の琴線を容赦なく揺らしてくる」。関ジャニ∞・安田章大の写真集『LIFE IS』を最初に見たときの感想である。2020年9月24日、安田は自身初となる写真集『LIFE IS』を発売した。2017年、安田は人知れず脳腫瘍と戦い、12時間に及ぶ開頭手術を受けていた。10月3日に放送された『サワコの朝』(TBS系)ではあっけらかんと当時のことを語っていたが、死を強く感じたことで意識が大きく変わったという。それを伝えるために、以前からファンだったカメラマン・岡田敦とタッグを組み、1年以上の時間を費やして同書発売に至ったのだ。


参考:安田章大の写真集『LIFE IS』がアーティスティックな作品となった理由とは? 写真家・岡田敦に訊く


 安田が脳腫瘍の手術を受けたと公表したのは2018年7月のこと。控えていた全国ツアー『KANJANI’S EIGHTERTAINMENT GR8EST』を走り切るためにも、病気と手術を公表したが、その後事細かに安田の状況が語られることはほとんどなかった。そして2020年5月、ジャニーズ事務所公式YouTubeチャンネルにアップされた「Smile Up ! Project 〜いま伝えたいオモイ〜 関ジャニ∞」内で、後遺症と彼が抱えている葛藤を告白。正直、写真集を発売するという発表を聞いた時、「なぜ今? 写真集?」と思ったものだ。だが、実際にページをめくると、今もなお戦い続けている彼だからこそ表現できる美しい写真が詰まっていた。そして、10年以上安田が“片思い”をしていた岡田敦だからこそ撮れた作品だと、強く感じた。


 同書を見て印象的だった点は大きく2つある。1つは、アイドル・安田章大ではなく、安田章大というの美しい“生物”の写真集だと感じさせる原始的な魅力が溢れているということ。写されている写真には、混じりけのないストレートな表情が詰まっており、自ずと引きつけられる。安田は様々な表情を浮かべているが、どの目にも自身が経験した恐怖をしっかり見据えているような強さが見られ、強烈な印象を残すのである。それは加工など必要ない、人として自然な美しさにつながっているようにも感じる。


 もう1つは、風景とのコントラスト。同書のロケは厳冬期の北海道・根室で行なわれたという。カメラマンの岡田が「病気から復活したヒーロー像として、写真の中で命のことを安田さんに語らせたくなかった。キレイな物語として彼の経験をまとめるのではなく、儚くとも圧倒的に美しい世界の中に生きている、彼のいまの姿を写しとりたかったからです。そのためには、僕が知り得る限り最も美しく、命のことを感じられる場所で撮影する必要がありました」(引用元:安田章大の写真集『LIFE IS』がアーティスティックな作品となった理由とは? 写真家・岡田敦に訊く)と語っているように、儚い中にも強い生命力を感じる写真が多い。そう感じるのは、風景と安田のコントラストがあるからだろう。多くの生物が生命活動を停止する厳しい冬の自然の中に、ポツンと安田の姿がある。その姿は死の中に浮かび上がった光のようにも見え、命の輪郭が色濃くなっている理由につながるのではないだろうか。


 こうして次々と惹きつけられる写真が並ぶ同書には、付録として安田の頭部CT画像や闘病中の姿などが収められている小冊子が付いている。そこにこんな文がある。


本気で独りになった時 死ぬほど弱い自分に気づいた
孤独は辛いさ なんて知ったような顔してた
たまには挫折して立ち止まる日もある
それが人生なのかと少し気付いた
遠回りでもいいから
蛇行しながら歩いていきたい


病室にて


 安田の言う「本気の独り」とは、生死に関わる位置に立ち、頼れるのも、信じられるのも、全て自分だけという状況のことだろう。そして、そこに立ったことがある安田だからこそ感じられる思いだ。筆者は普段あまり人と関わることが好きではなく、一人でいることに辛さを感じることはほとんどない。だが、この文を読んで、ハッとした。本気の独りになったことがない自分は、想像しているよりも弱いのかもしれない、と。今の自分は“知ったような顔”をしているだけだと身に沁み、自分の在り方を見つめ直すきっかけをもらうことができたのである。


 『LIFE IS』は、「(病気の経験を)届けないでどーする??」という安田の言葉のとおり、彼が経験したこと、考えたことが伝わる一冊であった。「アイドルの写真集でしょ?」と侮るなかれ。ページを開くたび目に飛び込んでくる、自然の風景と安田の美しさ、強さに驚愕することになる。読者の中にはこの一冊を期に、自分と向き合い直した人もいるのではないだろうか。そして、コロナ禍で辛い思いをしている人が多い今だからこそ、まだ手に取っていない方、ファンではない方にも一読してみてほしい。(高橋梓)


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