川崎Fが大卒選手を積極獲得する理由。強化担当が明かす3つのポイント

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2020年10月21日 11:22  webスポルティーバ

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 J1第23節を終えてふたりで16得点。首位を走る川崎フロンターレの大卒ルーキー、三笘薫と旗手怜央が決めたゴール数だ。




 三笘は筑波大学から、旗手は順天堂大学から今シーズン加入し、それぞれ即戦力として驚くべき活躍を見せている。

 川崎のメンバーリストに目を凝らせば、彼らだけではない。エースである小林悠も拓殖大学から、キャプテンマークを巻く谷口彰悟も筑波大学から加入している。アンカーを担う3年目の守田英正にしても、流通経済大学から加入した選手。17年前、中央大学から入った中村憲剛もそうだ。名前を挙げればキリがないほど、川崎は大学経由で加わった選手たちが主軸を務めている。

 そこに今日の強さであり、選手層の秘密がある気がした。ならば、彼らを見出し、声を掛けた人物に話しを聞きたい。

 川崎の強化部でスカウト担当を務めている向島建だ。現役時代はFWとして清水エスパルスや川崎で活躍した。

「三笘と旗手のようなスーパーな選手はそうそう現れるものではないので、それを毎年、現場から求められると困るところもあるんですけどね」と向島は、苦笑いを浮かべる。

 川崎が、大学から多くの選手を獲得している理由は何なのか。そこにはチームの成り立ちに起源があった。

「ちょっと遡ってしまうのですが、フロンターレはJリーグのなかでも後発のチーム。初めてJ1に昇格した2000年は、かなりのメンバーを入れ替えて臨んだのですが、ダントツの最下位でJ2に降格してしまった。その時の反省がクラブとしてあり、庄子春男さん(現GM)中心に選手をしっかりと育ててチームをつくっていこうと再出発したんです。次にJ1に昇格するまで4年かかったのですが、その間も無闇に選手を入れ替えるのではなく、育てながらチームをつくってきた背景がありました」

 01年に川崎で現役を退いた向島が、スカウト担当になったのもJ1に再昇格した05年だった。前任者がいなかったこともあり、向島はチームに適した選手とは、どのような人材かを熟考した。

「後発であるフロンターレが、川崎という地域に根付いていくことを考えても、長くフロンターレでプレーしてもらえる選手、将来を任せられるような選手を獲得したいと考えたんです。そうした意味では、大学生は一つポイントになるなと。何より、大学4年間で選手は人としても大きく成長しますからね」

 1つ目のポイントは「長く」という言葉だ。

「ユースや高校からプロになるような選手は、スーパーな能力を持っていると思うんです。そうした選手がたくさんチームにいるのはいいことかもしれませんが、まだ実績のないクラブが獲得することは容易なことではない。若くしてプロになるような選手は当然、海外指向も持っている。大学生だから海外に行かないというわけではないですが、僕自身はフロンターレのスカウトなので、高校生をたくさん獲ってきて、海外に移籍されても困りますからね。その意味では、大学からプロになった選手のほうがチームに腰を下ろしてプレーしてくれるかなと思いました」

 向島がスカウトになった時、頭角を現していたのが中村憲剛だった。中央大学から03年に加入した中村は、川崎で着実に経験を積み、存在感を発揮しはじめていた。

「中村憲剛の存在は、大学出身でクラブの象徴であり、一つポイントになっていると思います。その後、入ってきてくれた小林も含めてですけど、フロンターレにはどんな選手が合っているのかという意味では、僕自身もイメージしやすくなりました。高校時代無名の存在であったとしても、大学4年間で選手はプレー面で大きく成長し、人としても安定感が出てくるので、フロンターレのサッカーに合うかどうか、見る方としてもジャッジがしやすくなるところもあります」

 当然ながら年齢を重ねれば、選手としては完成されてくる。高校生よりも大学生のほうが、見極めやすいと言えるだろう。向島は「選手が若いうちから見極める力があればいいんですけどね」と謙遜するが、そんなことはない。今やクラブ歴代最多得点を誇るFWへと成長した小林に声を掛けたのは、ほかでもない向島である。関東大学2部リーグの拓殖大学でプレーしていた小林を、1年生の時から定点観測していた。

「当時はFWを獲る方針で、ふたりをリストアップしていたのですが、どちらがフロンターレに合うかを考えた時に小林だと。得点のバリエーションが多かったし、鞭のようにしなる日本人離れした体の動きをしていた。いろいろなことができるので、フロンターレに合うなと思ったんです」

 川崎のプレースタイルに合うかどうか。これが2つ目のポイントだ。向島は言う。

「以前はフロンターレ自体が優勝を争えるようなチームではなかったので、大学サッカーで名の知れた選手は獲れないイメージがあったんです。それもあって、自分が見るなかでは1部か2部かは重要ではなくて、何より大事なのはフロンターレに合うかどうか。下部リーグでプレーしていて、ボールが来ないなかでプレーしている選手だったとしても、うちのチームならばパスは出て来ますからね。攻撃に比重を置きすぎ守備をあまりやらなかったとしても、うちに入れば周りもやっているし、試合に出場したければやらざるを得なくなる。大切なのは守備ができる身体的な能力。何よりそれをやろうとする、できるだけの人間性があるかどうかが大事になってきます」

 3つ目は人間性である。川崎のチームカラーに合うかどうかが前提になる。

「川崎という都心に近い土地柄であっても、本当にサッカーに集中できる人間性が備わっているのか。試合中にチームプレーができているか。あとはピッチを出たところでの立ち居振る舞いや、身だしなみも観察します。チームメイトに対する接し方もそうですよね。ここ数年、とくにフロンターレの選手たちの質は上がっていて、試合に出られなくても腐ったりするような選手は本当にいなくなりました」

「フロンターレっぽい」と言ってしまえばそれまでだが、川崎の選手を取材していると、一様に似た雰囲気や姿勢を感じる。向島も「それを言葉で表現するのは難しい」とうなずく。

 大学生を多く獲得している傾向の一つとして、向島は4年間に及ぶ大学の指導者たちの尽力に感謝している。

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「これは海外と、少し感覚が違うのかもしれませんが、歴史ある日本の大学サッカーが選手の成長につながっていると思うんです。選手は大学4年間の生活のなかで20歳になって、大人になり、責任が出てくる。監督さんたちの人間育成もすばらしく、結果的にスカウトするほうは助かっているんですよね」

 当然ながら、質の高いサッカーを展開する川崎において技術は絶対に必須の要素になる。17年にJ1で初優勝し、強豪への階段を登っている今、その目はさらに厳しくなっている。

「憲剛らの活躍もあって、フロンターレが攻撃的なサッカーをしているイメージがだんだんと定着してきて、風間(八宏)さんが監督を務められた時代から、僕自身も選手を見る目や選考が明確になってきました。各ポジションに必要なスタイルをイメージしつつ、ボールを止めて蹴るという基本が備わっている選手、あるいはトレーニングによって備わる素質のある選手。なおかつ、このチームのなかで自分の特徴、これだけは人に負けないところを持っているかどうか。最終的にはそうした武器を持った選手が残っていくので」

 3年連続でタイトルを獲得しているように、川崎には強豪のイメージが根付きつつある。喜ばしい反面、向島は「チームが強くなってきたことで、声を掛けても試合に出られないからと断られるケースもあります」と話す。

「だから、最終的には、ここでプレーしたいか、このサッカーをやりたいかどうか。その思いと覚悟が大事になってくると思っています」

 それこそが大学時代から名が知られていた守田や旗手が加入するようになり、はたまた育成組織出身の脇坂泰斗や三笘が大学を経由して戻ってきた理由でもあるのだろう。

 ここに昨今の川崎の強さが隠されてもいる。向島が繰り返す。

「今後も、年齢構成などの状況を踏まえ、チームの将来性と本人の力と人間性を加味して、大学生、高校生やユースの選手をバランスよく獲得していければと考えています。ただ、このフロンターレのスタイルでプレーしたい、このメンバーと競争したいという選手ではないと、やっていけないと思います」

 言い換えれば、大卒ルーキーとして活躍している三笘も旗手もその決意を持ってチームに加わったわけだ。守田も、脇坂も然り。向島が再三、口にした人間性には、そうした姿勢や向上心も含まれている。

「今のチームには、自分をコントロールできる選手が多いんです。そこは憲剛や小林といった生え抜きと言われる選手たちが背中を見せ、お手本となって積み重ねてきてくれたことが大きいと思います。僕は可能性を秘めた選手を連れて来ただけで、監督やコーチを含めたスタッフが本当に選手たちを競争させ、成長させてくれているんだと思います」

 このチームでプレーしたい、このサッカーをやりたいと思う選手たちが揃っている。かつ厳しい競争に挑む覚悟を持っている選手しかいない。それはベテランもルーキーも、大卒も高卒も、移籍してきた選手も変わらない。だから、川崎はここまでの強さを見せているだろう。

 向島は言う。

「自分のなかで選手を獲得するバロメーターは、自分自身が応援してファンになってしまうというか。遠くても毎試合、今日はどんなプレーを見せてくれるのかなって楽しみにして足を運んでしまうような選手。ワクワクする選手なんですよね」

 J1を独走する川崎の強さに触れた気がした。

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  • 良記事。企業の採用担当や応募する側にも参考になるところはあると思います。
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